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次の日、業務時間後に事業部主催の勉強会が催され、半ば強制参加だったため雪緒も出席していた。
中規模の会議室の長テーブルの端に座っていると、隣に女性社員が腰掛けた。
「清水ちゃん、おつー」
「あーお疲れさまです。中川さん出るの、珍しいですね」
「隠れようとしたら、豊田さんに捕まった」
渋い顔で女性社員が前方で準備している男性社員を顎で指し示す。
嫌々の参加であることが、頬杖をついた姿から露骨に伝わってくる。ワンレンボブの黒髪に、シンプルなピアスが両耳に2つずつ。意志の強さを象徴するようなキリリとした眉。
これが、あのほんわかした穂乃里の実の姉だというのだから、遺伝子というものはよくわからない。
「清水ちゃん、穂乃里の店、よく手伝ってくれてるんだって? 休みの日なのに、悪いね」
あちこちの雑談でざわつく中、穂乃里の姉、中川深乃里が申し訳なさげに言う。雪緒は首を振って、
「ほんとにちょっとですから。それに、手伝った日はコーヒーご馳走なっちゃってるんですよ。持ちつ持たれつで」
「客を働かせて、持ちつも何もないって! ――あの子さ、甘え上手でしょ。頼り上手っていうか」
はあ、とため息をつきつつ、前髪をかきあげる。雪緒も苦笑いするしかなかった。
雪緒にも、妹がいるから深乃里の言いたいことはよくわかった。
「清水ちゃんも下いるんだよね。長子にはない特性だよね。ああいうとこ」
「そうですね……」
妹の顔が思い浮かぶ。
姉妹に、と家に来たお客さんがくれたものが、同じならいい。でも、それの色が違っていたり、味が違っていたり、大きさが違っていたりすると、必ず、先に選ぶのは妹で、雪緒は譲らされた。
苦い思い出がないわけではない。思い出さない方が精神衛生上よいこともある。こんな、立派な大人になってでも。