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#切ない
#長編
草凪葉月🌙⭐️🐈⬛@活休中?
第四話 嘘つき
吉原には、まるで何事もなかったかのように客が戻っていた。
笑い声。
三味線。
酒。
銀鈴が死んだことなど、最初から存在しなかったみたいに。
朔也はその光景を見つめながら、強く奥歯を噛んだ。
「狂ってる……」
だが。
この場所は昔からそういう場所だった。
誰かが泣こうが、死のうが、吉原は止まらない。
「朝倉様」
店の若い男が声をかけてくる。
「女将がお呼びです」
朔也は無言で立ち上がった。
女将の部屋には、香が焚かれていた。
紫煙の向こうで、女将が煙管を揺らしている。
「随分派手に動いてるみたいだねぇ」
「……何のことだ」
「とぼけるんじゃないよ」
女将は冷たい目を向ける。
「天野屋を調べてるんだろう?」
その瞬間。
部屋の空気が変わった。
「知っているのか」
「知らない方がいいこともある」
女将は静かに言う。
「銀鈴のことを本当に想うなら、忘れてやりな」
「できるわけないだろ」
朔也は低く吐き捨てる。
「銀鈴は殺されたんだぞ」
「……だからこそだよ」
女将の声が少しだけ揺れた。
「これ以上踏み込めば、お前も死ぬ」
沈黙。
その言葉には脅しではなく、本気の恐怖が滲んでいた。
だが。
朔也は引かなかった。
「それでも構わない」
「馬鹿な男だねぇ」
女将は苦く笑う。
「銀鈴にそっくりだ」
その名前が出た瞬間。
胸が痛んだ。
「……銀鈴は、最後に何か言ってなかったか」
女将はしばらく黙っていた。
やがて。
ぽつりと呟く。
『もし私がいなくなっても、忘れないでください』
朔也の瞳が揺れる。
「それを……」
「笑いながら言ったよ」
女将は煙を吐き出す。
「まったく、最後まで嘘つきな子だった」
銀鈴はきっと、自分が殺されることを分かっていた。
それでも。
誰にも頼らなかった。
一人で抱え込み、一人で死んだ。
「……どうして俺に言わなかった」
小さく漏れた声。
助けたかった。
守りたかった。
なのに。
何一つ間に合わなかった。
その夜。
朔也は天野屋について調べ始める。
そして知る。
天野屋は、ただの商人ではない。
幕府と裏で繋がり、人身売買にも関わっている。
吉原に売られてくる少女たち。
その裏に、天野屋がいた。
「……銀鈴は、このことを知ったのか」
もしそうなら。
消される理由は十分すぎた。
その時。
窓の外で、鈴の音が鳴る。
リン——。
静かで、儚い音。
朔也は顔を上げる。
風に揺れる桜。
そしてその奥に。
一瞬だけ。
銀鈴が笑った気がした。
『泣かないでください』
聞こえた気がした声。
だが次の瞬間には、夜の闇だけが残っていた。
コメント
2件
毎回話めっちゃきれい…!