テラーノベル
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#恋愛
#長編
モゾモゾしながら顔を出すと、寝癖が付いていてちょっと幼くて可愛い。ケモ耳も少し垂れているし。モフモフたちにするように思わず頭を撫でてしまった。
「シズク?」
(──って! やってしまった)
私の姿を見たルティ様は、目を丸くしてベッドから飛び上がった。そのまま私の二の腕を掴んでジッと見つめる。その顔は徐々に青ざめ──。
「もしかして数日休むつもりが、十年経ってしまっていたのですか!?」
「え」
十年? ピンとこず一瞬固まったが、ハッと察した。
「違います! どうしてそんな発想になるんですか!!」
「じゃあ、目の前にいるシズクは……」
「あ」
どう言うべきか困りつつも、私もそのあたりはよく分かってないので、実際にあったことを話すしかない。
「その……この姿が本当の私なのです。こっちの世界に来た時、森人の人たちが私を《片翼》だって、気づいたみたいで……だから怖くて、気づいたら幼くなっていたみたい」
ぼそぼそとどんどん尻つぼみになりつつも、ルティ様に伝えた。
「綺麗です。……その、時々、シズクの姿が大人に見えて……どうしてだろうって、思っていたのですが……」
「え」
知らなかった。ルティ様は嬉しそうな顔で私に微笑む。でもまたすぐに悲しそうな顔で、私の頬にそっと触れた。
「……大人になったことで私の元から離れる決心が付いたと?」
「違うわ。ルティ様に元気になってほしくて、料理を作りたいって思ったら戻ったの。ふふっ、この世界って本当に不思議ですね」
「……りょうり」
「そう」
「シズクが?」
「うん。食欲があるのなら、食べますか?」
「食べます」
食い気味で答えた。それが嬉しくて、ドアの前でどうしようかと悩んでいたのが嘘のよう。デレデレで、体調が悪そうなのも吹き飛んだ風に見える。でも今はテンションが高いからかもしれないと思い、まずは水分を摂って貰おうとカップに水を入れて渡した。
「今まで飲んだ中で一番美味しい水でした」
「いつも飲んでいる水だけれど?」
「ではシズクが美味しくしたのですね」
よくわからない理屈だけれど、機嫌がいいのなら良い。
「鳥の良い香りがします。何を作ったのですか?」
食事を待ちきれない子どものよう。それがなんだか可笑しくて、元の世界での郷土料理の一つだと答え、この間買ってくれたお米を使ったと伝えた。
「それにシズクの故郷の料理ですか」
「はい、どうぞ」
そう言ってスープカップを渡したら、ルティ様はソワソワしながらスープカップと私の顔を交互に見比べた。
(もしかして食べさせてほしいとか? ……本にも天竜狐族は求愛給餌を好み、食べさせてあげたい、食べさせてほしいという求愛行動があるって書いてあったわ)
試しに「はい、あーん」をして見たら、目をキラキラさせて食べてくれた。耳まで真っ赤でなんだか可愛い。
お米、鶏モモ、シイタケ、ネギとシンプルな食材を選んだけれど、あっという間にスープカップによそった分を食べてしまった。
「お代わりは」
「食べたいです。……すごく食べやすくて、味わい深いですね」
ホッとするルティ様は、ケモ耳や尻尾が揺れている。お代わりもあっという間に食べてしまった。まだ食べられそうだ。思えばルティ様は結構大食らいだったのを思い出す。
「残りはそのまま食べますか? それとも卵を入れて味付けを変えます?」
「そんな食べ方もあるのですね。興味があります」
「分かりました」
土鍋も魔導具らしく、保温、加熱ができる優れものだったりする。こういう時のために卵を用意しており、冬菜も細かく切って準備済みだった。断られたら別の料理を作って自分で食べるつもりだったけれど、食べて貰えて嬉しい。
卵を割って、別の小鉢で卵を溶きつつ出汁を少し入れて混ぜる。お粥の鍋も沸騰してきたので、出汁を少し追加して黙々と作っているとやたら視線を感じた。感じられる視線の先は当然ルファ様だ。横目で見ると凝視していたので、少し驚いてしまう。
「そ、そんなに見ないでください」
「嫌です」
「即答!?」
「だって……私のためにシズクがすぐ傍で美味しい料理を真剣に作ってくれているのですよ。それだけで生きていて良かったと心から神々に感謝していますし一秒でもシズクの姿を目に焼き付けようと思っているのです。シズクの料理はとっても温かくて味に深みがあって食べる相手のことをちゃんと考えられた味付けですしこれなら毎日で食べたくなるぐらいです」
いつになく饒舌かつ、早口だった。ルティ様は些細なことで喜んで、笑って、褒めてくれる。べた褒めだ。それがくすぐったい。
「それなら……今後は交代制で料理を作りますか? ……それとも一緒に料理を?」
「……いいのですか?」
ルティ様は「夢かな」と呟いていたので、ちょっとだけムッとしてしまった。
「夢じゃないです。ルティ様は夢にしたいのですか?」
「いいえ。でも、幸せすぎて急に怖くなったのです」
この人も怖いことがあるのか。上位種族も人族も心のあり方はあまり変わらない。そう今のルティ様を見ていたら分かった。
「私も……怖くなることがあります。でも怖くないようにする方法を見つけたんです」
「それは……?」
ゴクリと息を呑むルティ様から少し目を離して、冬菜を入れて少し煮込んだ後に卵を入れてかき混ぜる。フワッと良い匂いが香った。そうやってできあがったお粥をスープカップに盛り付ける。
「お互いに少しずつ寄り添い合って、話し合いをしていくことです。今すぐに何でも話そうとすることはできなくても、少しずつ自分の過去や怖いとこと折り合いを付けて、怖いことと決着を付ける」
怖いままにしても、逃げられない。逃げても過去は影のように切っても切り離せないのだと、転生して生きて来て分かった。
逃げられない。それなら怖いというモノが何か振り返り、見つめて、正体を暴く──結局は自分との向き合い。そして折り合いを付けること。その向き合う勇気を一人ではなくて、ルティ様と一緒にしていきたい。
「開けない夜はないとか、止まない雨はないとか言いますけれど、心の中で逃げ続けていたら夜はずっと明けないし、雨はずっと降り続く。……その終わりと始まりを決めるのは、いつだって自分しかいないのです」
「もっと怖いことが起こるかもしれなくても?」
「現状維持をしていても遠くない未来で、その現状維持は崩れます。ずっと同じというのはないのですから。でも」
スープカップを受け取ったルティ様は、不安気そうな顔で私を見ている。
「怖くても、暗闇でも隣に誰かがいたら、乗り越えられるかもしれません。私は……今のルティ様──ルティとなら、できるんじゃないかなって思うのです」
最初は復讐しようと思った。
ヴィクトルだったとしても、そうじゃなかったとしても、私を《片翼》として得ようとするのなら、絶望に叩き落とそうと思った。
でも一緒に暮らしているルティは、とても優しくて、温かくて、放っておけない人になった。私の言葉に一喜一憂して、簡単に絶望して凹んで、泣きそうな顔を見る度に「泣かないで」と思ってしまうのだから、その段階で復讐なんて破綻していたと思う。
前世のことを聞き出すには、もう少し勇気が欲しいけれどルティ様──ルティとなら、なんて絆されてしまったのは私のほうだ。
「シズク」
ポロポロと泣き出すルティの涙を拭う。
「ご飯が冷めてしまうので、食べてしまいましょう」
「うぐっ……うん」
そうは言うけれど、強請るような視線に気づいた。これはきっと食べさせてほしいのだろう。天竜狐は片翼や番にはデレデレで、甘やかしたい気持ちと甘やかされて愛されていると実感したい気持ちが強いとも書かれていた。特に体調が悪くて弱っている時の甘えは凄いとか。きっとこのことだろう。
(事前に知っておくって大事なのね)
他種族だからこそ、特性や作法も環境も全然違う。まだまだ勉強中だけれど、知ることは理解への第一歩だ。
「はい、どうぞ」と、木のスプーンでお粥を掬ってルティに食べさせる。すると凄く嬉しそうに食べる。きっとこれが天狐族での「愛している」とか「大切に思っている」という求愛行動なのだろう。
前世は何も知らなかったし、誰も教えてくれなかった。上位種族と下級種族、天と地、人族を貶して貶める、そんな悪意しか無かったのだからブリジットが壊れてしまうのもしょうがないし、ヴィクトル自身も身内が、同族がそんな行いをしているとは、気づかなかったのだとしたら、運が悪すぎた。
このあたりはまだ自分の中で昇華できていないし、折り合いも付けられていない。でも前に進むことは決めた。
それだけで大きく前進したような気がしたと思う。
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