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「俺はさ、ほら、可愛いから!」
「しょっぴー自分の売り方分かっとるよなぁー!」
「実際俺一番、可愛いだろ!?」
「痛いなぁ言いたいけど、しょっぴーの可愛さは世の中も認めとるよなぁ」
メンバーが揃った楽屋の一角で翔太と康二が仲良さそうに話してるのを何の気なしに見つめる。翔太は昔から楽しくなると声がどんどん大きくなるから、気になって目で追ってしまう自分がいる。
確かに、顔が、良いと思う。やっぱり整ってるし、肌も綺麗で、毎日手入れもしっかりしてて抜かりない。彼の特徴である甘めだけどどこか力強い声も、良いと思う。周りを見てて、ふざけてるようだけどめちゃくちゃ真面目で。その背中は華奢なのになんだか頼もしくて、小さい頃から横に並んでたのに引っ張ってくれるのはいつも翔太だった。
「舘さん、どうした?」
「え」
「え、ってずっとこっち見てたじゃん?」
いつの間にか翔太が思ったよりも俺の近くまで来ていた。さっきまで一緒に話しをしていた康二を探してみると今はふっかとふざけ合っている。翔太がこっちに向かっていたことに全く気づかなかった自分に少し驚くが、動揺する程ではないなとは思う。
「そんなに見てたの、かなぁ」
「え?用事あるんじゃないの?」
「特にないね」
「ふはっ…めっちゃ見られてる気がしてたの、俺の勘違いかよ」
残念そうに笑ってから、くるっと回って踵を返して行くその、背中。その背中が…。
「っ……」
「んぇ!?」
大好きなんだと思い出した。
「あの、どした?マジで」
「ご、ごめん、俺」
自分がしてしまったことの処理が出来ずに、頭ん中がぐるぐると回り続ける。俺、今、何した???
「ほんとに、ごめん、俺ちょっと、トイレ…」
「え、だて!?」
触れた身体を離して相手の顔を見ないよう、開けた扉も閉めずに楽屋を飛び出した。なんか後ろから皆がザワついてるような声が聞こえたけど、なりふり構ってられなかった。だって、俺、多分顔赤い。
「なんだ、今の」
心臓が掴まれたかと思った。だって、涼太が。あの涼太が抱き着いてくるなんて…ライブのパフォーマンスではやったことあるし、それこそ小さい頃は良くお互いにじゃれ合ったりとかもしたけどさ、大人になってからすることなんてなかった。
「……びっくりした」
俺の中での涼太は何でもソツなくこなして、俺より色んなことが出来て、正直すげぇなって思ってる。尊敬出来るところとかなんか色々参考にしたいこととか、沢山あるんだよ。落ち着いてる感じとかもさ、俺はどうしても顔に出ちゃうから…。そんな涼太が、少し震えた手で後ろから抱き着いて来た。小さい子供みたいに、あの頃みたいに。同じ歳だけど俺の方が生まれが早くてなんやかんやで兄貴って気持ちで、ずっと周りとなかなか馴染めない涼太のこと見てた。我慢も人より良くしてたし、あいつも家では長男だし、たまに甘えてくるのが可愛くて可愛くて…あの笑った時に下がる眉毛まで凄く可愛くて……あれ。
『可愛かったな』
言いたかった言葉はギリギリで飲み込んだ。さっき涼太は笑ってはいなかった、寧ろ俺でも分かるくらい混乱してた。そんな困った時にも涼太の眉毛は下がる。それだけじゃなくて黒目が泳いでてそれでいて少しキラキラしてて…耳まで赤くなってて…。可愛いって思わない方が無理だろ。相手は男だし、幼馴染だしそんなこと分かってるけど。それでも俺にはめちゃくちゃ可愛く見えたんだよ。
「しょっぴー、舘さん出てっちゃったけど、なんかあったん?」
俺らのやり取りはメンバーの目には入らなかったらしい。まず見られてたら阿部が真っ先に反応するからわかりやすいし。それがないならあれは、あの表情も俺だけが知ってるってことか…。
「なんでもないよ」
なんだろこの優越感…堪んねぇな。涼太にあの表情させたのもそれを知ってるのも俺だけ。すぐにでも抱き締めてやりたい。そうしたらなぁ、お前はどんな反応すんの?思わず口元を手で押えて笑ってしまう。心配だからちょっと見てくると康二に伝えて楽屋を抜け出し足早に廊下を歩く。
「あー…ずっるい奴だなほんとに」
この感情が何なのか、わかったようなわかってないような…それでも込み上げてくる気持ちは抑えれなかった。早く、早く会いたい。小さく震えたあの手を、身体を包み込んでやりたい、安心していいからと、そう伝えながら。
「はぁ…もう、最悪」
誰にも会わずにトイレに逃げ込んで両手を台に付いて鏡を見ればやっぱり顔が赤い。色白なのを自覚してるから余計に目立つため熱が冷めるまでここから離れられないなと思った。幸いにしてまだ出番ではないので時間は取れるわけなんだけど。
「何やってんだよほんとに…」
メンバーに、しかも幼馴染に突然後ろから抱き着くとか正気の沙汰じゃないだろ。頼もしいと思った翔太の背中…昔は良く二人で並んでくっ付いたりもしてた。いつからか照れくささから相手は苗字呼びが多くなって、俺もそんなに人前で翔太とか呼ばなくなって…他のメンバーとも良く出かけるようになって二人でいることが少なくなって…どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。どんなにふざけてても抜けててもそれでも翔太は俺にとっては信頼出来る奴で、頼れる存在で…。それ以上でもそれ以下でもない、なのに。
『なんでこんなに胸が苦しいんだ』
鼓動が高鳴っているのが嫌でもわかる。ドクンドクンと全身が脈打つ。それなのに手は小さく震える。止まれ、止まってくれ頼む。こんな姿、誰にも見せられない。目を閉じて唇を噛みながらも、冷静さを取り戻そうと深呼吸をした時だ。
「涼太」
なんで。
「……翔太」
なんでいるんだよ、ここに。
「体調悪いの?大丈夫?」
なんの悪気もなく心配してる声色が俺の後ろから聞こえる。今は顔を見られたくなくて項垂れたまま答える。両手を握り締めて、少し爪が皮膚に食い込んだような気がした。
「平気」
「なら良いけど」
「うん」
俺、ちゃんと話せてる?いつもより声変じゃないかな。ちゃんと、宮舘涼太でいれてる?幼馴染じゃなくて同じグループのメンバーの一人になれてるかな。考えれば考えるほど言葉は出なくなる。返事も素っ気ないものになったけど、それについて弁解することも出来ない。
「ごめん、ちゃんと戻るから…今は一人にっ……」
「涼太」
翔太の匂いを感じたと思ったら、次の瞬間には手を引かれて全身を包まれてた。なんで、どうして。
「なっ……んで」
自分のものとは信じられないくらい細くて弱々しくて今にも消えそうな声が耳に届く。答えるように翔太が俺を抱き締める腕は強さを増した。腰に回された腕はしっかりと身体を支えようとしてるのに、頭は心地好く撫でられる。だめだ、そう思った。このままは、だめだ。
「離して」
「……」
「翔太、なんか、言ってよ」
「大丈夫だよ」
「え」
その言葉は余りにも予想外で、理解出来ない状態のまま、相手を振りほどくことも、背中に手を回すことも出来ずに両手はだらりと力なく垂れ下がっている。大丈夫、何がだろうか。
「何も不安なことなんてないから」
「っ……」
「だから、甘えてよ」
「しょうた…」
ごめんと言って相手の肩に顔を埋めて目を閉じれば、涙の粒は彼の服にゆっくりと染みて行った。それでも、抱き締め返すことは出来なかった。そんな、存在じゃないと、わかっているから。
なんて、可愛いんだろう。素直に甘えれない姿も自分がしたことに混乱してるその顔も…。普段は堂々とした振る舞いで周りの人を簡単に魅了してしまう涼太が、今は身体を震えさせて肩も竦めて俺に抱き締められてる。肩口が冷たいのは綺麗な雫が彼から溢れて零れてるから。それもまた俺の優越感を強くさせる。
「ごめ、折角の服…なのに」
潤んだ瞳で鼻を鳴らした涼太が俺の顔を見つめる。あぁなんて顔してんの、ほんとに可愛い。なんだか意地悪したくなっちゃうじゃん。そんなの…。
「いいよ、別に。涼太から貰えるもんなら俺なんでも嬉しい」
「え」
「だから、もっと頂戴」
そう言って顔に両手を添えて相手の瞳を見つめると、そのまま目元の綺麗な雫をぺろりとひと舐めした。
「なっ」
キラキラ輝く飴玉みたいな瞳、そこから零れる涙って甘いのかななんて思ってしまったから。涼太の方を見れば目のまん丸くさせて口をぱくぱくしながら俺の方を見つめている。
「んー、しょっぱい」
「あ、当たり前、だろ…」
驚いたせいか涼太の涙はもう止まっていた。あぁ残念。もっと見てたかったのになぁ…。
「もしかしたら甘いかもしれないじゃん」
「え?涙が?」
「そう」
「いや、それはっ……ははははっ!!」
さっきまで静かに泣いてた目の前の男は腹を抱えて爆笑し始めた。え?なんで?
「そんな笑うところあった?」
「いやいや、だってさぁ…涙が甘いとか…ほんと、しょーたらしい…くっははは!!」
うーん、何も解せないけど。結果笑ってくれてるならおっけーなんかな?表情がこんなにくるくる変わるなんて、ほんとにいつ見てても飽きないんだこの幼馴染みは。もしかしたら、それ以上の感情も俺の中にはあるみたいなんだけど。あぁもう仕方ないほど可愛いなぁコイツ。
「わっ…もーっまた何?」
「俺、涼太のどんな表情でも…大好きだわ」
「っ……あり、がと…」
辛抱堪らなくなってまた思い切り抱き締めた。そしたら今度はまた照れてるのか、返事が素っ気ない。それでも今は抱き締め返してくれたこの温もりと心地好さを味わいたいなと思った。俺だけの特権、俺の特等席。誰にもやらないし渡す気もない。あぁ、好きだ。これからもずっとそばに居てどんな表情も声も心も全部ぜんぶ包んでやるから、覚悟しろよな。