テラーノベル
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6話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
朝の光がカーテンの隙間から差し込む。
レトルトはぼんやりとまぶたを開けた。体のあちこちに昨夜の余韻が残っていて、じんわりとした感覚が肌にまとわりつく。
「……はぁ、ほんっと……めんどくさい男」
天井を見ながらぼそっと呟いて、思い出すのは昨夜の――いや、ほぼ明け方まで続いたキヨの異常な独占欲。
嫉妬、独占、執着、命令、甘え、そして溺愛。
全部まとめてぶつけられて、もう何がなんだか分からない。
なのに。
「でも…だいすき」
口元が緩むのを自分で止められない。
あんなにめちゃくちゃにされたのにそれでもこんな愛おしいなんて自分でも笑ってしまう。
ふと、ベッド横の時計に目をやる。
「……10時!?」
一瞬で血の気が引いた。
「やばいやばいやばい!寝過ぎた!完全に寝坊だ!」
慌てて体を起こし、隣でぐっすり眠るキヨに目をやる。
髪はぐちゃぐちゃ、口は半開き、微妙にレトルトの腕を抱え込んでる。
「キヨくん、起きて!!ねぇ!起きて!!
起きろーーーー!!!」
バンバンとキヨの背中を叩く。
『んぁ……っ、いたっ、いたいって。ちょ、待って……レトさん、どうしたの?今何時?』
「10時!!10時だよ!!遅刻だってば!急いで準備して!!』
『……えええぇぇぇっっっ!?!?!?』
ようやく目を覚ましたキヨが、完全に素で取り乱す。
布団を跳ねのけ、部屋中をバタバタと走り回っている。
『うわ、寝癖やっば……てかなんで起こしてくれなかったの!?昨晩あんなに“愛してる”って言ったのに!?恩知らず!!』
「キヨくんが寝かせなかったんだろうが!!」
『レトさんが可愛い顔で泣くから仕方ないじゃん!!あんなん我慢できねぇよ!』
「も….////もう!!うるさい!!早く寝癖なおしてきてー!!!」
ばたばたしながら、それでもどこか笑いをこらえながら、2人は大慌てで朝を迎えた。
――昨夜の熱がまだ微かに残る寝室で、
めんどくさくて、愛しい朝が始まった。
『レトさん、いってきまーーす!!今日も愛してるよーー!!』
「ちょっ!!!キヨくん、近所迷惑だからやめてっ/////」
バタバタと玄関のドアが閉まる音がして、ようやく部屋に静けさが戻った。
レトルトはベッドの端に腰掛け、ふぅっと長い息をついた。
背中にじんと残る鈍痛、腰の奥の違和感、首筋の痕――
どれも全部、キヨが置いていったものだ。
「……っもう。めちゃくちゃしやがって…」
ぼやきながら、口元はどうしようもなく緩んでしまう。
昨日の自分を思い返すだけで、耳が赤くなってくる。
命令されて、泣いて、すがって――
でも、それが嫌じゃなかった。むしろ、嬉しかった。
「俺もなかなか……重症やんなぁ。」
笑って、ベッドに背中を預けようとしたそのとき。
――♪ ルルッ ルルッ ルルッ
普段使わない、聞き慣れない電子音が鳴った。
「……?」
レトルトは眉をひそめ、音のする枕元に手を伸ばす。
そこにあったのはキヨのスマホだった。
「え……キヨくんの…?」
バタバタしてたせいで、持っていくのを忘れていったらしい。
着信が切れたキヨのスマホを、レトルトはじっと見つめていた。
「……仕事で使うんだよな、これ」
ゲーム開発のリーダーなんてやってれば、メッセージも通話もひっきりなしに来る。
取引先やスタッフとのやり取りだって山ほどあるはず。
「ていうか、連絡とれないってめっちゃ困るだろ……」
レトルトは立ち上がって軽く伸びをした。
まだ身体の節々がギシギシ言ってるけど、キヨが焦ってる顔を想像したら、どうにか動く気になれた。
「仕方ないな、届けてやるか……」
洗面所で顔を洗い、簡単に髪を整えた。
クローゼットを開けて、外に出ても恥ずかしくない程度の服を探す。
準備を終えて、財布とスマホを手に取り、
部屋の鍵を閉め、ポケットに手を突っ込んだままエレベーターを降りていく。
「本当、手のかかる子だ。お礼に今度美味しいご飯でも奢ってもらお」
にやにやしながらエレベーターを降りる。
キヨのことになると、つい世話を焼いてしまう。
めんどくさくて、独占欲の塊みたいな男。
だけど、そのぶん全力で愛してくれる人。
キヨの会社に着いたとき、レトルトは少し緊張していた。
普段入ることのないオフィスビル。
受付を通って、スタッフに案内される。
「ここか……」
レトルトはスマホをポケットに入れ直し、扉の前に立った。
中から、男の声が聞こえる。
──キヨの声。
そしてもうひとつは──P-Pの声だった。
無意識に、扉に手をかける。
少しだけ開けたその隙間から、見えたものは――
「……え?」
言葉が出なかった。
中では、キヨとP-Pが、しっかりと抱き合っていた。
ただの挨拶や軽いハグじゃない。
音がすっと消えた。
心臓の音さえ聞こえない。
頭が真っ白になるって、こういうことなんだな――
レトルトはフラフラと後ずさり、扉をそっと閉じた。
どうして、なんで、なんで――
考えようとするたび、視界がにじんで見えなくなる。
ぐらぐらと、世界が揺れているみたいだった。
「……あれ、レトさん?」
廊下の先で声をかけられて、顔を上げる。
そこには、パーティーで挨拶した「ガッチマン」がいた。
「……キヨくんに、これ……渡してくれませんか」
震える手で、ポケットからスマホを差し出す。
ガッチマンは一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに真剣な表情になって受け取った。
「……分かりました。必ず、本人に渡します」
レトルトはそれだけを伝えて、ふらつく足で廊下を引き返していく。
心配そうにレトルトの背中を見送るガッチマンの視線など気付けるはずもなく。
感情が、言葉になる前に崩れてしまう。
胸の奥が、ぐしゃっと潰れたように痛い。
どうして。なんでなの。キヨくん。
その言葉が頭の中でぐるぐると回り続ける。
振り返らなかった。
振り返れなかった。
ただ、ひとつだけ――
キヨの腕の温もりが、
まるで嘘だったみたいに、今は遠かった。
《キヨ視点》
「で、ここをもう少しアクション寄りにしたら、ユーザーの反応も拾えると思うんだよね」
P-Pがホワイトボードに書き込む図を指差しながら、楽しそうに話す。
キヨはその横顔を見て、ふっと笑う。
『お前、昔っからこういう時だけやけに真面目になるよな』
「は? 褒めてんの? それともバカにしてんの?」
『褒めてんだよ笑』
大学の同期ということもあって、話は驚くほどスムーズだった。
互いの癖や好みもなんとなく分かってる。
テンポもいい。アイディアも噛み合う。
仕事の打ち合わせというより、昔に戻ったような、そんな空気だった。
──けれど。
ふと、手元の書類に視線を落としていたキヨの目の前にいつの間にかP-Pが立っていた。
熱を帯びた視線でキヨを見つめていた。
『……なに?』
そう問いかけた瞬間だった。
「──好きだったんだよ、ずっと」
言葉と同時に、P-Pがキヨに抱きついてた。
強引でも、無理矢理でもなく、
でも確かに、明確な“告白”だった。
キヨの体が凍りつく。
『は……? なに、言って──』
「ずっと…好きだったんだ。僕ならキヨくんの良いところをもっと引き出せる。好きな人がいるのは分かってる。でも、僕ならキヨくんをもっと幸せに出来る」
P-Pは真剣だった。
呆然とするキヨの耳に、カチリと小さな音が届いた。
ーー社長室のドアが静かに閉まる音ーー
ハッと我に返り、キヨはP-Pの肩を強く押して引き剥がした。
『やめろよ……何してんだ、マジで』
息が少し乱れていた。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
P-Pは、黙ってキヨを見ていた。
『P-Pの気持ちには応えられない。お前は、大学の同期で友達で仕事仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない。俺を幸せに出来るのはレトさん以外いないんだよ!俺の特別はレトさんだけだ!』
P-Pの瞳がわずかに揺れた。
P-Pに背を向けて社長室を出ていくキヨ。
社長室の扉を開けた瞬間、キヨの足元に何かが落ちていた。
――カニのキーホルダー。
レトルトがふざけて「これ、俺っぽいでしょ?」と笑いながら買ってくれたもの。
キヨのスマホにいつもつけていた、小さなカニ。
今、そのカニが、床に落ちていた。
『……え?なんで、これが…ここに』
キヨの指先が、震えた。
信じたくない想像が、頭を支配する。
レトさんが……ここに来ていた?
そして……さっきの……
P-Pと、抱き合っていたあの場面を――
『っ……!』
喉の奥から、焼けつくような焦燥が吹き上がる。
呼吸がうまくできない。
カニのキーホルダーを握りしめたまま、キヨは走り出した。
『レトさん……レトさんっ……!』
その時――
「あ!キヨ!」
声をかけてきたのは、ガッチマンだった。
キヨは反射的に振り返る。
「レトさん、来てたよ。キヨがスマホ忘れてたから届けにって。俺に預けてったけど……顔、真っ青だったけどレトさん大丈夫か?」
『っ……どこで会った!?」 』
「玄関のとこだけど……だいぶフラついてたし大丈夫かなぁ。」
キヨの胸が締め付けられる。
『レトさん……』
後悔が胃を焼く。
最悪の形で、最悪な勘違いをさせてしまった。
言い訳も、説明も、全部後回しでいい。
今すぐに――会って、抱きしめて、何もかも伝えなきゃいけない。
『ありがとう、ガッチさん』
キヨはスマホを握りしめたまま、走り出す。
何度も、何度も、レトルトの名前を呼びながら。
つづく
コメント
2件
ありがとうございます😭 胸がぎゅっとなる展開になっていきます〜🥲
はぴぃぃぃぃぃ、、最高過ぎて尊死しますて、、