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彼女に惹かれたのは、高1のあの日だった。廊下を歩いていた時、偶然耳にしたざわめき。覗いた隣のクラスで、ひとりの生徒がいじめられていた。周囲は気づいていたはずなのに、誰も声を上げなかった。見て見ぬふりを決め込むように、みんなが目を逸らしていた。俺だって驚くだけで足は動いてなかった。
その中で、ただひとり――彼女は迷わなかった。
クラスも違うのに、何のためらいもなく足を踏み入れた。
大きな声を張り上げ、いじめっ子の前に立ち塞がり、堂々と戦った。小柄な子を背中に隠すようにして守りながら、毅然とした態度でにらみつける姿。
――かっこいい。
その瞬間、俺の中で何かが変わった。
困っている人がいたら、真っ先に駆け寄る。正しいことを正しいと貫ける強さ。誰よりも背が高く、運動神経も抜群で、男顔負けの度胸を持つ。そんな彼女を見てから、ずっと目を離せなくなった。
俺は犬系で、どちらかといえば「可愛い」と言われることが多い。背だって平均くらいだし、彼女の堂々とした立ち姿の前では子犬みたいだ。
だけど、彼女の行動のひとつひとつに胸を打たれてしまった。
それからの2年間、俺はずっと片思いを続けた。
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接点なんてほとんどなかった。
クラスも違えば、部活も違う。廊下ですれ違うときに、ただ目で追うだけ。彼女はいつだって人に囲まれていて、俺が入り込む余地なんてなかった。
それでも俺は、彼女の噂を耳にすれば心臓が跳ね上がった。体育祭で活躍したとか、文化祭でリーダーシップを取ったとか。クラスの誰かを助けたとか。
そのたびに「やっぱりあの人はかっこいい」と思って、ますます惹かれていった。
ただの憧れ。そう思い込もうとしたこともある。
けれど、気づけばいつも目で追ってしまう。廊下で見かければ嬉しくなり、声が聞こえれば胸がざわつく。
誰かに告白されたと聞けば苦しかった。
――これが、恋じゃなくて何だろう。
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そして迎えた高3。
奇跡が起きた。ついに彼女と同じクラスになったのだ。
最初にクラス替えで、彼女の名前を見つけた瞬間、心臓が飛び出るかと思った。二年間、遠くから見ていただけの存在が、やっと同じ空間にいる。俺はこのチャンスを逃したくなかった。
だから、勇気を出して話しかけた。
授業中わからないところを聞いたり、ペアになったときに笑顔で接したり。何気ないことでさえ、俺には大冒険だった。
彼女はいつも自然体だった。媚びることなく、飾ることなく、自分らしくいる。俺が必死にアピールしても、からかうように笑って流すこともあれば、そっけなく「そうなんだ」とだけ返すこともあった。
でも、それでもよかった。
彼女と話すたびに、俺の心はときめいていた。
一緒にいることができて嬉しかった。
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そして――ついに決意した。
このまま卒業を迎えたら、絶対に後悔する。
2年間の想いを伝えたい。届かなくてもいい。けじめとして、この気持ちを言葉にしよう。
放課後の教室。夕日が差し込む窓際で、彼女の背中に声をかけた。
「、、ずっと、ずっと好きでした!」
驚いたように振り返る瞳。
その視線に捕まえられて、胸が張り裂けそうになる。
「私、他の子みたいに可愛くないよ。頼ったりしない」
彼女は少し照れくさそうに、けれどはっきり言った。
俺は首を振った。
「俺が、頼られる人間になる」
俺の方が頼ってばかりなのはわかっている。けれど、だからこそ言葉にした。
「可愛い系じゃないし、背も高いし、強いし、、」
「俺は、自分らしく生きてるところが好きなんだ」
勉強も運動もできて、高いところにあるものも届く。堂々としていて、男前で。俺よりずっとかっこいい。
でも、それでいい。むしろ、だからこそ好きになった。
「俺は、君のそんな、、素敵なところが大好きだ」
声は震えていた。けれど、心からの本音だった。
彼女は少し黙って、やがて小さく笑った。
その笑顔を見ただけで、2年間の片思いが報われた気がした。
――告白は、受け止めてもらえた。
手を伸ばしたら届く距離。肩が隣り合わせになる距離。
彼女の素敵なところを隣で見ることができて幸せだ。