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ゆゆゆゆ
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カードが配られる音だけが、静かに響く。
一枚。
二枚。
三枚。
テーブルの上、二人の間にあるのは——
ただの紙切れ。
なのに、
その重さは、明らかに違う。
「……」
マフィオソは一切表情を変えない。
指先でカードの端を整えるだけ。
対して——
「いいね」
チャンスが軽く笑う。
「やっぱり、この空気だよな」
カードを覗き込みながら、わざとらしく肩をすくめる。
「無駄口が多いな」
「緊張してる?」
「する理由がない」
即答。
「そりゃそうか」
チャンスはコインを弄びながら、
「負ける気、ないもんな」
「当然だ」
短い返し。
そのまま、チップを置く。
「ベット」
「強気だな」
「いつも通りだ」
「いいね」
チャンスも乗る。
「コール」
——沈黙。
カードが一枚、場に出る。
さらに一枚。
さらに一枚。
じわじわと進む展開。
その中で——
「……なあ」
チャンスがぽつりと口を開く。
「部下たち、みんないいな」
「……」
マフィオソの指が、ほんのわずかに止まる。
だが、それだけ。
「コンシリエーレ」
チャンスが指を一本立てる。
「相談役」
次に二本。
「カポレジーム」
「幹部」
三本。
「ソルジャー」
「兵士」
四本。
「コントラクティー」
「ヒットマン」
ゆっくりと指を折る。
「いい役割だ」
静かな声。
「……何が言いたい」
マフィオソが低く問う。
チャンスは、カードを見たまま答える。
「みんなさ」
一拍。
「名前、捨ててるんだよな」
その言葉。
空気が、わずかに揺れる。
「……」
「役割で呼ばれて」
「肩書きで生きて」
「個人じゃなくて、“組織の一部”になってる」
カードを一枚、置く。
「それでも」
目線だけを上げる。
「ついてきてる」
沈黙。
「……それがどうした」
マフィオソの声は、変わらない。
「いや?」
チャンスは軽く笑う。
「すげぇなって思ってさ」
「……」
「普通、できねぇよ」
チップを指で弾く。
カラン、と乾いた音。
「名前捨てるってのはさ」
少しだけ、声が低くなる。
「“自分”捨てるのと同じだ」
静寂。
「それでもあんたの側にいる」
「理由、何だと思う?」
問い。
だが、答えは求めていない。
「……」
マフィオソは、ゆっくりとカードを整える。
「ベット」
静かに置く。
「逃げるなよ」
「逃げているのはどちらだ」
即返し。
チャンスが笑う。
「いいね」
「その顔」
「……」
マフィオソの目が細くなる。
「お前は」
低く言う。
「何も持っていないから、そういうことを言う」
空気が、一段冷える。
「……はは」
チャンスは笑う。
だがその笑いは、少しだけ鋭い。
「否定はしねぇよ」
「だから欲しいんだよ」
カードを開く準備をしながら、
「“ああいうの”」
ほんの一瞬だけ、
真顔になる。
「……」
マフィオソは、その一瞬を見逃さない。
(今の)
だが——
すぐにいつもの顔に戻る。
「で?」
チャンスが言う。
「どうする?」
「乗るか、降りるか」
「……」
数秒の沈黙。
「……コールだ」
マフィオソが言う。
「降りる理由がない」
「だと思った」
チャンスがカードを揃える。
「じゃあ——」
ゆっくりと開く。
「見せようか」
カードが、テーブルに広がる。
役が揃う。
強い。
明らかに。
「……」
マフィオソの目が、わずかに動く。
「悪いな」
チャンスが笑う。
「今回も——」
勝ちを確信した声。
だが、
その瞬間。
マフィオソが、カードを開く。
「……何?」
チャンスの笑みが、ほんの一瞬止まる。
そこにあるのは——
さらに上の役。
静寂。
「……」
「……」
数秒。
完全な沈黙。
そして——
「はは」
チャンスが、ゆっくり笑う。
「なるほどね」
「……」
マフィオソは何も言わない。
ただ、カードを揃える。
「いいね」
チャンスが椅子に深くもたれる。
「これだよ」
心底楽しそうに。
「こうじゃなきゃ意味ねぇ」
負けたはずなのに、
全く悔しそうじゃない。
むしろ——
満足している。
「……」
マフィオソが静かに言う。
「まだ終わりではない」
「当然」
チャンスが前に戻る。
「ここからだろ」
チャンスは笑ったまま、カードを揃える。
(やっぱり)
(こいつ、最後まで落ちないな)
そして思う。
(だからいい)
勝負はまだ、終わっていない。