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夏休みに入ると、拓馬達四人は部活帰りにMバーガーに集まるのが習慣になっていた。部活が終わって午後四時ごろにはみんなが集まり、ソフトドリンクにポテトかハンバーガーだけで他愛のない話をしている。ただそれだけだが、四人とも楽しんでいた。
「明菜、今日買い物に付き合ってくれない?」
部活が終わり、部室を出て自転車置き場に向かおうとした明菜は古沢から呼び止められた。
「ごめん、今日は彩達とカラオケに行く約束しているの。明日じゃ駄目?」
「えーっ、今日も?」
「ごめんね」
明菜は顔の前で両手を合わせて謝る。
「全く、恋をすると変わるもんだね」
「えっ、恋……恋って誰の事?」
明菜はキョトンとして古沢に聞く。
「ええっ、なにとぼけてんのよ! この話の流れであんた以外いる訳ないじゃん」
「ええっ! 私が恋?」
明菜は驚いて声を上げた。
「なにを驚いているのよ。最近のあんたってば、ソワソワしたり、うわの空になったり、かと思えば急にニヤニヤしてみたり。これで恋してなけりゃあなんなのよ」
古沢は呆れたように言った。
古沢にそう言われると、明菜にも思い当たる事がある。最近よく考え事をしている自覚があったのだ。
――私は恋をしているのかな……。でも、考えているのはいつも拓馬君の事なのに……。
「でも安心したよ、明菜も普通の女子高生だったんだね。落ち着いたら彼氏の友達を紹介してよ」
「うん、頑張るよ」
明菜は無意識のうちに「頑張る」という言葉が口から出てきた。それが不思議に感じて、私はいったいなにを頑張るつもりなの? と、自分自身に問い掛けた。
「おい、拓馬、今日ぐらいは付き合えよ」
部活が終わり、彩達と合流しよう思った拓馬は、部室を出たところで雄二に引き止められた。
「あっ、悪い。今日も予定があるんだ」
「お前、最近いつもそうじゃねえか。付き合い悪いぞ」
タイムスリップして以降、拓馬は宿工の友達と学校外では全然遊ばず、彩達と交流していた。
「知ってるぞ、お前彼女が出来たんだろ。北高の凄い綺麗な娘と帰っているのを見たんだよ。冷たいじゃないか、男の友情より女を取るのかよ」
雄二の言う彼女と言うのは明菜の事だが、通常の男女交際とは違うので、拓馬は誰にもその存在を話していない。明菜の存在をなんと言って説明すべきか、拓馬は迷った。
「いや、なんて言うか……今はまだ微妙な段階なんだよ。もっと、本当の彼女って言える段階になったら紹介するから……」
「お前、そんな事言って。もし彼女が出来たらその友達を紹介し合おうって約束しただろ」
「だから、本当に今は駄目なんだ。とにかく花火大会までは我慢してくれよ」
「花火大会? あの日は海に行って一緒にナンパしようって言ってたじゃないか!」
――そんな約束していたのか? 全く覚えていない。実際あの年の花火大会の日は部活仲間と海に行ったが……。
「悪い。本当に悪い。絶対に埋め合わせはするから……」
雄二は不服そうな顔をしていたが、なんとか拓馬は解放してもらった。少し時間が遅くなったので、拓馬は急ぐ。今日はみんなとカラオケに行く約束になっていたのだ。
駅前商店街の中にある「オンステージ」と言うカラオケ店で待ち合わせになっている。その店は値段が安いので宿工、盛北両校の生徒が良く使っていた。
角を曲がればすぐに店に着くところで偶然歩行者が多くなり、危ないと判断して拓馬は自転車を降りた。すぐそこなのでこのまま自転車を押して行こうと、曲がり角まで来ると目の前の喫茶店のスモークガラスに何やら揉めている雰囲気の高校生数人が映る。制服姿の男女がいたが、和也と彩と明菜に見える。急いで駆け付けようとしたその時、「女と一緒だからってカッコつけるなよ」と、いかにもモテそうもない不良が使うセリフが聞こえてきた。良く見ると、和也と揉めている男達に見覚えがある。ひげ面の男とグラサンの男の二人だが、そいつらは同じ宿工生の不良の三年だった。不良と言っても毎日遊び歩いているだけの奴らで、相手があれなら問題なくトラブルを処理出来ると拓馬はホッとした。
三人を助ける為に、改めてカラオケ屋に向かおうとした拓馬の足が止まる。
――和也はこのトラブルをどう切り抜けるのだろうか。もしここで無様な姿を見せれば、彩も呆れて想いも醒めるかも知れない……。卑怯かも知れないが少し様子を見るか。
拓馬は内心ゲスな考えだと思いながらも、その場で様子を見る事にした。
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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