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「へえ。賑やかな町だなぁ。え?あれは浴衣か?。露店もたくさんあるし。(まるで日本の温泉街だよ。微かに硫黄の匂いが漂ってくるし…)」
「あらぁ。ユカタを知ってるなんて。もしかしてレオちゃんは『日ノ本の国』から来たのかなぁ?。…この街は移民ばかりだから色んな国の文化に触れられるわ。資源供給の要衝でありながら人気の湯治場でもあるの♪」
「まるでクイーンの繁華街を、ギュッと凝縮したような町だね。でもゴツい身体の男の人もたくさんいるし、労働者の街ならではなエネルギッシュさを感じるよ。…こんな街に…クイーンの繁栄は支えられてるんだなぁ。」
「はいはい。こんな所に来てまで優等生な感想はいらないわよぉだ。ねぇ?お腹空いたでしょ。…日ノ本料理もあるからどこかに入りましょ♪」
メギドの町に着いたのは日没前だった。夕焼けに染まる町並みは活気に満ちて、道行く人たちは皆、日本の浴衣に似た着物を纏っている。カラコロと鳴る下駄の音が聞き馴染みも無いのに少し懐かしい。町並みに沿うように並ぶ高い電信柱。そこから這い伸びる電線にノスタルジーを感じる。
古き良き時代の日本を思わせる町並みなのに、ところどころに小高いビルがあって、更には石組みの洋館まで建っていた。和洋折衷ながらも新古まみえた町の佇まいに、不思議な国に迷い込んだのではと錯覚してしまう。因みに車両は町に持ち込めない。正門の横にある預かり所にフロッグを預けた。相当に珍しいのか、老若男女の見物人にあっと言う間に囲まれた。
「ほらほらあそこ。川魚料理専門店だって。入ってみる?」
「そうしたいんだけど問題があるのよ。さっき気がついたんだけど…このクイーン金貨、メギドじゃ価値が高すぎて使えないのよねぇ。お釣りがありませんって言われちゃうの。釣りはいらないよ。なんて勿体ないし… 」
「金貨の価値が違う?。そんな事が…あ、為替みたいなもんか。じゃあ換金所とかないの?この街で使える紙幣とかなら大丈夫なんじゃないか?」
「…ん〜。そう思って探してるんだけど…看板がないし。…あ。…思い出した。ギルドよ♪。討伐者ギルドに行けば貨幣交換してくれるはずよ?」
旅慣れない俺は落ち着きがなかった。通りに点在する見たこともない食べ物の屋台や、アクセサリーや木彫りの土産物やらの露天が珍しくて仕方がない。目に入る黄昏時の風情ある風景に、真新しさと懐かしさと、得も知れぬワクワクを感じてしまうのは、まるで…母に連れられた幼子の様だ。戦闘中も違和感なく背中を任せられるサクラさんの存在に甘え過ぎかも…
「そうなんだ。…あ。あの建物じゃないか?。…とにかく換金しないと飯にもありつけない。…ちょっと急ごうか。泊まる宿も探さなきゃだし。」
「え?宿に泊まるの?。…わたしの部屋があるんですけどー?」
「俺さ、旅行とか全然したことなくて、こうゆう温泉街とか初めてなんだよ。だから…どうせならちょっとくらい贅沢したいなあってね。…だめ?」
「もう。またズルい顔するんだからぁ。…いいわよ。つきあってあげる。その代わりぃ〜たくさんスルからね?。朝まで寝かさないんだからぁ♡」
「はーい。ありがとうサクラさん…付き合ってくれて。…大好きだよ?」
「大好きって。レオちゃんは時々ズルいわよねーもうっ。…うふふっ♡」
お金のムダ遣いを嫌うサクラさんとの交渉もなんとか成立した。ポーカーには沢山のお金を賭けるのに、こーゆー物にはお金を使いたがらない彼女が不思議だ。もっとも、そのポーカーでも、博才の欠片もない俺にすら勝てない。それなのにムキになって続けるから財布はいつも空っぽなのだ。
それでもしっかりと残す物は残しているらしく少し安心した。虚数空間に浮かぶ彼女の部屋はとても豪華で、質良く品のある調度品にも拘りがうかがえた。流石は長い時を生きる黒魔女さまだ。見た目は若くとも、私生活については意外としっかりしている。…大酒呑みなところは目を瞑ろう。
「あのさ…キキ。」
「ん〜?なんだよロロ。」
「いい加減に手を離してくれる?。運転の邪魔なのよ。」
「えー?。せっかく良い感じなのにやだよぉ。ほら…気持ちいいだろ?」
「エアバの高速運転中に!後ろからチチモミされても気持ち良いわけ無いでしょ!?。ほらっ!?。さっさと離さないと振り落とすわよっ!?」
「ひっ!?ひいいいいいっ!。わっ分かったよ!ゴメン!ゴメンてぇ!」
街が揺れた数分後、ギルマスに呼び出された私たち姉妹は、拝借した旧時代のエアバイクを飛ばしてネオ・クイーン配下の城砦へと向かっている。新人討伐者でありながら既にB+ランカーだとゆうレオ・ヤツカドとゆう男の身柄を拘束し、共に行動している愛人らしい魔女を連れ帰るためだ。
報酬はクイーン金貨十枚とゆう羽振りの良さだが、その裏には危険性が孕んでいるのだろう。そうでなければクイーンズギルドのSランカーな私たち姉妹が呼ばれる訳がない。しかし同じギルドのメンバーと、しかも低ランカーと剣を交えるのは何となく気が引ける。確実に殺してしまうから。
「情報通りね。あそこにフロッグもあるし。…キキ?降りなさいよ?」
「ううう…エアバに酔ったぁ。…だから姉ちゃんのおっぱいを揉んで…うぷっ!?。…はぁはぁ。…気を紛らわしてたのにぃ。う…あ〜目が回るぅ…」
「はぁ…。さっさと降りる!。…その様子じゃ捜索は無理ね。とにかく宿を取るからアンタは休んでなさい。…ほらぁ。自分の脚で歩くっ!もう…」
「うううう〜。ロロねぇちゃん…うぷっ!?。…揺らさないでくれぇ。」
予定よりもけっこう遅くなってしまった。それとゆうのも、乗り物酔いの酷い妹が途中で何度も休憩を欲しがったからだ。馬車や馬なら平気なのになぜだか高速移動する古代の乗り物にはめっぽう弱い。困ったものだ…
「ほら?ちょっと起きて。お布団を敷いてあげるからそこで寝なさい…」
「え〜?布団はやだよぉ。床着きするから嫌いなのぉ。はぁはぁ…でもタタミは気持ちいいンだよなぁ。ん〜良い匂いだなぁ。…おうぷっ!?」
「はあ。…もう、好きにしなさい。あたしは出掛けるからね?」
「ふわい。いってら〜。……うっ!?ううっぷ!」
妹の顔色の悪さから、わたし達は正門にほど近い大きな旅館に宿を取る。妹は獣人系の血を引いているから水平を保つ三半規管が繊細なのだろう。種違いであるだけに外観も違い過ぎるからあまり姉妹とは思われない。
フロントの係が前金だと言うからクイーン金貨を渡したら『釣りが無い』と慌てふためいて言い出した。釣りはチェックアウト時で良いと言い渡して無理矢理に握らせてやったが、青褪めていたのは少し気の毒だったか。
「…………。(『ヤツカドは追われていることを知らない』とムラサキ様は言っていた。と、ゆうことは…ギルドに顔を出している可能性があるな…)」
わたしは両腿に着けた銃のホルスターを軽く締め直す。あの天災を葬ったとゆう男だ、抵抗されれば魔術を使われる前に動けなくする必要がある。そして、格下が相手だと油断し侮ると碌なことがないのは過去に学んだ。
奴は簡易詠唱を使用すると聞いている。ならば先に攻撃しなければこちらが危ない。『生け捕りが好ましい。』と言っていたからにはそうするつもりだが、魔術の恐ろしさは知っているつもりだ。最悪は…死んでもらおう。
「はぁ♪。とっても広くて良かったねぇ温泉♡。周りもカップルばっかりで気がねなくイチャイチャできたし♡。混浴の文化って素敵だわぁ♪」
「ああ。だけど…他の男達の眼がサクラさんに集中してたのがなぁ。ホントに、湯衣着てくれてて良かったよ。でも大丈夫だったのかサクラさん。その…アソコにお湯とか入らなかった?。他のカップルは騒いでたけど…」
「うふふふぅ♡。そんな隙間なんて1ミリも無いわよ〜だ♡。あったかいのもあって凄く感じちゃった♡。また後でシようね?。うふふふふっ♡」
「………。(なんなの?このバカップルは。まさか、お、温泉の中でまぐわったの!?。でも…隙間が無かったら入らないんだ…お湯。…はっ!?)」
わたしが旅館の暖簾を潜った直後に目に入った、背の高い若い男と黒髪な若い女。嬉しそうな顔で見上げている女と、穏やかに見下ろしている男。どちらもこの旅館のロゴの入った浴衣を着ている。そして二人ともが東アジア系の顔立ちをしていて、今は無き日ノ本の国の固有民族にも見えた。
何にしても旅館の軒先でいちゃついているのには少々ムカつく。わたしは生まれてこの方、男に恵まれた事が一切ないとゆうのに!。この黒髪の女はなぜ、こんなにも優しそうな若い男をゲットできたのだ?。どう見ても男の方が年下だろう!?。もしかしてアレか?寝技で手なづけたのか!?
「ええっと。…俺たちになにか用ですか?。クイーンズギルドの関係者さんですよね?。ほら、手の甲にフォロン着けてるし。ちがいますか?」
「!!?。あ。まぁ…その。(なんなのこの男は!?。あ!この黒髪!ヤツカドだわ!こいつ!。あ!だめ!それ以上来ないで!。ひゃああ!。おっ!男が来るぅ!?こんな近くに男がぁ!?しかもいい匂いするしー)」
わたしが悶々としたジェラシーに囚われていたところに、バカップルの男が声をかけてきた。スラリと背が高くて肩幅が。そのせいか凄く小顔に見えてしまうのだがっ!。玄関先に吊るされた丸い提灯の灯りに照らされてイケメンに見えてしまう!。しかも!ちっ!近い!。わたしが手を伸ばせば届いてしまう距離だ!なんだこの男は!?わたしに触られたいのか!?
「ん〜?。アナタ…どこかで見た顔ねぇ。…あららぁ…焦ってるんだぁ♪。でも大丈夫よ?いきなり焼き殺したりしないから、Sランカーなロロちゃん♪。あら、レオちゃんを拘束しにきたのぉ。そんなの許さないわよ?」
「!?。(まさか?炎獄の麗人!サクラ・ヴァイオレット!?。何が愛人の魔女よ!話が違うじゃない!ギルマスっ!。…高位の黒魔法使いは人の心を見透かすって本当だったのね。…しかも彼女は無詠唱で爆炎の魔法を使うって言うから、銃を抜く間もなく爆破されるか焼かれてしまうわ…)」
わたしは反射的に身構えてしまった。色気が凄いヤツカドはどうあれ黒魔女はマズい!。無詠唱魔法なんて防御不可だ!。しかもわたしは風属性!炎系との相性は最悪と言っていい!。もしもいきなり仕掛けられれば防げないだろう!恐らく避けるのも無理だ!。もー!地属性のキキが居れば!
「ほい。サクラさんもロロさんも、もうコレくらいにしとこうよ。こんな玄関先で騒ぎを起こしたらせっかくの温泉旅行が台無しだ。…3階の右奥の部屋だから話があるなら来るといい。……行こうか?サクラさん。」
「え?いいのレオちゃん。…Sランカーをほっとくの危なくない?。拘束するって言ってるしぃ。一発ドカーンって吹き飛ばしておいたほうが後腐れがなくて良いかもよぉ?。…んひゃん!?。…んもぅレオちゃんはぁ♡」
「え!?。(なに!?。あれがお姫様抱っこなの?。す、素敵すぎる♡。あ。ごめんなさいギルマス。確かに愛人で魔女だわ。…間違ってない。)」
一瞬、黒魔女のオーラを感じた。恐らくそうなってから魔法を放つのだろう。彼女の赤黒い髪が浮き始めた瞬間、わたしはとても羨ましい光景を目の当たりにしてしまう。生のお姫様抱っこだ!。あんなの漫画やアニメーションや恋愛ドラマでしか見たことないのに。わたしの憧れが今そこに…
「うらぁああああっ!。ヤツカド見いつけたぁああああっ!!!」
『ズギャーーーーンッ!!!!。ギッ!ギリリリリッ!!。ビキキッ!』
わたしが、お姫様抱っこし、されている浴衣姿の二人に呆然と見入ってしまっていた刹那、はるか頭上から妹の声がした。その声を追い越し振り下ろされた白銀の大剣。地の属性を持つキキは、大地の引力を増幅した攻撃ができるのだ。つまり彼女の大剣の切っ先は軽く音速を越えているはず。
「ふう。危ないなぁ。…それよりお前の足…大丈夫なのか?痛くないの?」
「なっ!?。コイツ…あたしのグランド・ブレイドを受け止めやがった。ん?あら。魔晶鋼鉄の大剣ボロボロじゃん。魔力の障壁かーやるねぇ♡」
それなのにヤツカドは身動ぎもせずに受け止めた。彼とお姫様抱っこされている黒魔女の周りには、薄い膜状の術式結界が張られているらしい。長年つれ添ってきた妹の愛剣が…呆気なく折れてしまった。これは悪夢よ…ダンジョンに出現する上位の魔物でも、都市を襲う大型魔獣の討伐でも、キキの必殺技に耐えられる者は皆無だったのに。何が…どうなったのよ?
「いま3階から飛び降りてきただろお前。…ん?獣人か。しかも猫人系だな。それなら多少の落下は大丈夫か。ほらサクラさん、部屋に戻るから怒らないの。ほらほらぁ♪サクラさんの性感帯♪知ってるんだぞ?かぷ。」
「ひぃゃあん♡レオちゃあん♡。耳はダメェ♡。……もうっ。エッチ♡。そんなことするとぉ♪部屋についたら即入れ♡しちゃうんだからねぇ?」
「サクラさん?その前にご飯だろ。もう夕飯の用意もできてるはずだし。」
「じゃあ〜♪。シながら食べる?。ふたりで新しい扉を開きましょー♡」
「こらこらサクラさん?。性欲と食欲を同時に満たそうとしないのっ。」
「……………。(ハメながら食うのか。悪くないなぁ。…あ〜腹減った…)」
「………。(ああ…お姫様だっこがぁ。…わたしもされてみたぁい♡)」
そのバカップルはお姫様抱っこなまま、何事もなかったかのように旅館の暖簾を潜っていった。しかもイチャイチャ♡ちゅっちゅ♡しながら。わたしの夢がすぐそこにある。生きた年数=処女なわたしが、時折り夢に見る恋人と過ごすラブラブな時間。それをあの黒魔女は既に手に入れている。
恥を忍んでぶっちゃければ!凄く妬ましいし!凄く羨ましい!。どうやったら恋人が作れるのかを黒魔女サクラ・ヴァイオレットから是非とも聞き出したい!。なんならレオ・ヤツカドをレンタルしてくれないかしら?。クイーン金貨が9枚もあるんだし交渉次第ではイケるかも?。頼もうっ!
「アイツやるなぁ。並の障壁じゃ、あたいの剣は止まらないってぇのに。あいつ…レオ・ヤツカドは簡単に反射しやがった。なんて魔力濃度だよ…」
「反射?。…そうか、受け流したわけじゃないのね。…だから周りの建物や道路にも斬撃の影響が及んでいない。…そこまで考えてたのかしらね…」
「まぁ。何にしてもロロ?。あの男ならあたいは抱かれてもイイぜ?。純血種だぜぇアイツ。股間が前に膨らんでんの、チラッと見えたんだよ♪」
「なっ!?。それ…ホントなの?キキ。…ヤツカドって亜人じゃないの?」
「ちげーよ。アイツは間違いなく人間だ。敵対種族だった旧白人系とは違うけど間違いなくヒューマンだよ。かーっ!そりゃギルマスがトップシークレットにする訳だよ。あの女…ヤツを拘束して独り占めする気だぜ?。それこそ毎日ヤリまくるんだろうなぁ。エルフはドスケベらしいしよ?」
妹の突飛な言葉に、わたしの身体は一気に熱を帯びた。レオ・ヤツカドが純血種だとするならば、ひと目見て惹かれてしまった意味がわかる気がする。それは同種族の持つ血の絆のような物。わたしの母は元人間だった。それは同じ母体から産まれたキキも同じはず。だから同じ様に惹かれた?
「……キキ?。わたしもエルフの血を持っているんだけど?。わたしの父がエルフのクオーターなのを知ってて言ってるでしょ?。(す…スケベなのは認めるとしても…ど。じゃないからね?。ど。じゃない…ハズよ?)」
「まぁ〜アタイの父ちゃんは半獣人だからなぁ。獣人ならではな発情期を無視して、年がら年中発情するのは娼婦やってたかーちゃんの血だけど。まぁ、そのお陰でアタイたちは…一人前の討伐者になれたんだけどな?」
「ふん。わたしは母さんを認めない。いくら不老だからって、一生娼婦でいいなんて。(わたし達がギルド登録した途端に姿を消す母親なんか…)」
何となく、ヤツカド拘束が難題になってしまった。彼の未知数な強さは、既にSランカーの私たち姉妹を凌駕している事を証明した。キキが放ったグランド・ブレイド以上の威力を持つ攻撃は持ち合わせていないのだ。姉妹で連携すれば倒せない相手では無いのかも知れないが、彼の背後にはあの黒魔女がいる。サクラ・ヴァイオレットには皇国の大賢人たちが束になっても敵わなかったとゆう逸話があった。敵に回せば国が滅びかねない…
こんなにもハードルの高い依頼が、クイーン金貨をたった10枚ずつだなんて割が合わない!。もしも拗れれば、わたしたち姉妹の生命だけでは済まなくなるのではないか?。それこそ寝た子を起こして、火中の栗を拾うような物だろう。ギルドマスターリン・ムラサキは何を考えているのだ?