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「……それで、どこに行くんだ?」
気まずい沈黙の後にそう尋ねられて、またしても面食らってしまう。
手ずから車で来たのに、行き先も決まってないなんて、どういうわけなんだろうと……。
これまでの彼の言動に、あまりいい印象を持つことができなくて、口をつぐんでいたけれど、運転席でハンドルを指でトントンと叩く仕草に、これ以上苛立たせてもと、「では、そこのホテルのロビーにある、カフェにでも」と、フロントガラスの先に見える有名ホテルを指差した。
マンションから程近いホテルには、すぐに着いて、車を駐車させると、カフェの座席に向かい合わせに座った。
そうしてメニューを頼み終わってしまうと、再びどんよりとした不調和なムードがのしかかった──。
テーブルの通路側に座った彼の方は、腕を組んだまま特に喋り出すような素振りもなくて、重苦しい雰囲気にも耐えられなくなり、私の方から話題を振ってみることにした。
「……今日は、お会いできてよかったです……」
とりあえず社交辞令的なあいさつを口にする。
「ああ、そうだな」
相も変わらない素っ気のない答えに、本当にそう思われているんだろうかとすら感じる。
もしかしてこれって、私のお父さんが話していたことじゃないけど、『貴仁君がおまえを気に入らなくて──』とかで、最初から私のことなんて眼中になかったのかも……。
だったらもうはっきり言ってもらった方がいいからと、ネガティブになるばかりの思考に見切りをつけるためにも、「あの、」と、私は意を決して切り出した──。