テラーノベル
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‘もしもーし、リョウ聞いてんのか?’
黙った私に颯ちゃんの声が届き、自分の意識が遠くに飛んでいたと気づいた。
慌てて耳元のスマホを握り直すと、にゅるっ……と手が滑りそうなほど汗ばんでいると知る。
‘リョウ?’
「はいっ⁉」
‘声デカッ’
「…ごめん」
‘会いたい’
「……」
‘5分だけでもいいから会いたい’
「颯ちゃん……」
‘会わないと伝えられないこともあるって気づけよ、バカ’
「ぇっ……ここで…バカ…?」
スマホを当てた右耳が熱い。
‘今日はこれくらいにしておいてやる。明日仕事あるんだろ?’
「…うん。颯ちゃんは定休日だよね?」
‘ああ。店は開けないが自転車は届く。一日中組み立てだな’
自転車は、メーカーから店舗へはハンドルやペダルが付いていない状態でガッチリ梱包され送られてくる。
各店舗での組み立て作業は自転車屋さんの大切な仕事だ。
「忙しい時期だね、頑張って颯ちゃん」
‘もう一度言え’
その夜……私は久しぶりに夢をみた。
現実ではない夢の世界……
小学生の私が隣のクラスの子に体操服を貸してと言われている。
夏だし嫌だなって思ったけど、困っているなら貸してあげようかと体操服袋を持った時、颯ちゃんが私の体操服を袋から出してTシャツの上から着た。
そして、寒いから貸してって言った。
寒いはずもない……現実に似たようなことはあったかもしれないけど、はっきりしない。
これは夢だなぁ、と思いながらも目が開けられないまま寝ていると……私が颯ちゃんと恵麻ちゃんと手を繋いで歩く……あの光景が映像のように流れ出す。
これ…この時……
どんな気持ちで…何を考えて……恵麻ちゃんは私と手を繋いでいたの?
永遠に続くかと思った映像をシャットダウンし、やっと目を開けた時には枕が冷たく濡れている。
そして、嫌な音をたてる心臓が頭の中にもあるかのようにドクドクと音をたてている。
ふーっ……落ち着いて…何時?
えっ………まだ2時?
12時くらいに寝たんだけどまだ2時間しか経ってない。
久々に長い夜になりそうだ……
私の思考は、恵麻ちゃんが何を考えていたのだろうかと考えるのを止められなくなっている。
なぜ?どうして?もう考えないで……でもどんな気持ち?
こうして吐きそうなのも久しぶりだ……まだ大丈夫…でも吐いちゃうかも……嫌だ、逆戻りは嫌だよ…気持ち悪い……やだ………っ……
私はベッドに座ると胸やお腹を擦りながら、逆戻りに無理やり抵抗するようにスマホをタップした。
‘どうした?どうした、リョウ?’
「…夢…みた……吐きそう…っ……でも吐きたくな…ぃ…前みたいなのは嫌なのっ…」
‘大丈夫だ、前みたいにはならない。こうして電話できただろ?大丈夫だ’
「颯…ちゃん……ごめん」
‘謝るな。電話は大正解、誉めてやる’
コメント
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颯ちゃんに電話できた、今の気持ちを言えた。うんうん大丈夫、大丈夫だから…