テラーノベル
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気づけば、私は眠っていたようだ。天井が白い。光が、目に入るたびにほんのり痛い。…待て。なぜ、そんなことがわかる。
ガバリ、と起き上がった。赤い髪の少女が、ドアの奥で私を覗いている。誰だろう。
「おねちゃ!起きたー!」
そう言うと、白い猫っ気の、優しそうな笑みを浮かべた子と、青緑の細長いツインテールに、鋭い目をした子が顔を出す。
「あら、起きたのね。死んだかと思っ─」
「患者さんっ!♡おはよ!1番のこと見える〜?えへへ、かわいいでしょ!前よりも、もっとも〜っと撫でていいよっ♡」
その声には、聞き覚えがあった。甘えん坊の白い天使と、絶対零度の視線。
はにかむ彼女の頭に恐る恐る、手を伸ばす。今まで同じことをやってきたはずなのに、ほんのりと怖かった。触れる。ふわり、と髪が私の手で押された。彼女が笑う。私は、言いようのない感情に襲われた。
何度も言葉を探して、やっと出てきた。
「…私に、外を見せてくれてありがとう。」
歓喜のあまり、二人を抱きしめた。どちらも、温かい。氷のような彼女の面持ちが、ほんのり溶けたような気がした。
「…母はどこですか。この目で、見たいです。」
1番は、待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。
「貴方の隣で、眠っているよ。」
指を指した先に視線を向ける。
それは。
白いシーツに包まれた、ひとりの女だった。長い髪が、枕の上に広がっている。肌は、ひどく白い。
まるで眠っているようだった。
「……母さん?」
声が震える。
手を見つめた。べっとりとした、赤がついていた。その女を見る。一部が、えぐれてしまっていた。嫌な気分に襲われる。
目の前にいる人だけを見つめる。
知っている。
この匂いを知っている。
この手を知っている。
この温度を知っている。
何度も私の名前を呼んでくれた人。
私が眠るまで、そばにいてくれた人。
「……母さん。」
近づく。
そして、ようやく気づいた。
母の唇は、紫色だった。
頬には、生気がない。
髪には何かが絡みついていて、シーツには黒ずんだ染みが広がっている。
目を逸らそうとした。
けれど、逸らせなかった。
だって。これが、私の母なのだから。
「…………」
鼻の奥が、つんとした。
あの日からずっと嗅いでいた、あの臭い。
吐き気を催すほど嫌だった臭い。
それが、目の前の母から漂っている。
「……あ。」
喉から、声にならない音が漏れた。頭の中で、記憶がひとつに繋がっていく。
返事がなかった朝。
冷たかった部屋。
何日経っても帰ってこない母。
ハエの羽音。
空っぽの胃。
何度呼んでも返ってこなかった声。
全部。
全部、この人だった。
「……嘘。」
視界が滲んだ。初めて知った。涙というものは、こんなにも視界を邪魔するのだ。
「嘘……なんだよね?」
誰に聞いているのか、自分でもわからない。
母の肩に手を置く。
冷たい。
あの日、何度も触れたはずなのに。今までなら、それだけだった。けれど今は、見えてしまう。
母の顔が。
#こめんとくーださい!
熱い冷やし中華
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#この物語はフィクションです
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母の身体が。
母の死が。
全部。
「……お母さん。」
震える手で、その身体を抱きしめた。
返事はない。
いつものように、頭を撫でてくれない。
「ねえ。」
声が震える。
「私、見えるようになったんだ。」
返事はない。
「母さんの顔、見えるよ。」
返事は、ない。
「……ねえ、笑ってよ。」
返事、は、ない。
視界が大きく歪んだ。涙が、とめどなく溢れる。
初めて見る世界は、あまりにも眩しくて。
あまりにも、残酷だった。
コメント
1件
あおいです🌷 第8話、読み終わりました…。沈黙が返ってくる僅かな間が、ひとつひとつ重くて、胸が締め付けられました。主人公が「見えるようになった」世界で、最初に目にしたのが母の“死”だったという展開が、本当に残酷で美しかったです。特に「ねえ、笑ってよ」のところ、返事がないことの静けさが読んでいるこちらにまで突き刺さりました…。視覚を得た祝福と、同時に訪れる訣別とが、あまりに切なくて。続きがとても気になります。