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「本当にごめんなさい。迷惑たくさんかけて、みんなを傷付けて…」
俺の部屋にみんなで集まり、落ち着いたところでトラゾーが頭を下げてきた。
「お前は悪くねぇって言ったじゃん」
「…でも、それでも…俺のせいでぺいんとたちを傷付けたのも事実だ。だから、謝らせてほしい」
俺の手を握るトラゾーはそう言った。
その手を握り返して、俺も頭を下げた。
「俺も、トラゾーのこと傷付けた、ごめん…。勿論、許さなくていい。……俺、ガキだからさ、ただ頼ってくれないお前に拗ねてたんだよ」
「うん」
「ひとりで何でもできちゃうトラゾーにとって俺は頼るには値しないのかなって」
「そんなことない…!、でも、俺のやってることは特殊っていうか…迷惑かけたくないから…」
「その迷惑をかけて欲しかったんだよ。誰だって、好きな奴には頼られたいじゃんか」
「…へ」
握る手を引っ張る。
「好きだから、俺に頼ってほしい。お前のその迷惑だって思う感情も俺は欲しい」
「ぺいんと?」
「俺は親友で止まるつもりないし、それ以上の場所が欲しい」
「な…ん、…」
「トラゾー」
眉を下げて困った顔をしている、その顔も可愛い。
目元は赤く腫れて泣いた跡も残っている。
トラゾーは不恰好だと言ってたけど、それすらも可愛くて愛おしく思う。
「好きだ」
「…!」
「お前に嫌われたら俺、死ぬレベルだから。…マジであん時は病みそうだった。けど、嫌われたままも嫌だったから…ごめんな?自分勝手な俺で」
すりっと泣いた跡を撫でる。
「…トラゾー」
「ぺいんと…?」
「俺に、許してほしい。お前が頼ってもいいって思えることを」
柔らかいほっぺを包む。
「トラゾーのつらいこととか一緒に背負わせて」
ゆらりと緑が揺らめく。
「っ、…見たくないものとか、嫌なもの見ることになるぞ」
「いい。トラゾーのつらさが減るなら構わねぇ」
「ホントに、汚いことだってある…」
「そんなん俺らも一緒だよ。お前だけが手を汚してるわけじゃない」
「ぅ…、」
「一言、許すって言ってくれたらいいんだよ」
「……」
揺れる緑に映るのは不安な顔をする俺。
「トラゾー、お願いだよ。言ってほしい」
「、…ぁ…ッ」
何かを言いかけては口を閉じ、困惑するトラゾーはきゅっと目を閉じた。
「…………………ゆるす」
長い長い沈黙。
時間にすれば数十秒にも満たなかったかもしれない。
ただ、待つ俺にとっても、答えるトラゾーにとってもその時間はとても長く感じた。
「……許すよ、ぺいんと」
眉をこれでもかと下げ、苦笑いするトラゾーはそれでもどことなく嬉しそうだった。
すごく葛藤して、頭の中でたくさん考えて出してくれた答え。
「一緒に背負うよ。お前だけにつらい思いはさせないからな」
「うん、ありがとう…ッ」
涙腺崩壊とは正にこういうのを言うのだろう。
またボロボロと泣くトラゾーのほっぺを撫でる。
目元は擦れて痛いだろう。
「お前泣きすぎ。こんな泣き虫だったんか?」
「分か…んねぇ、よ…泣き方、なんてッ…忘れたと思ってたから……今は、止め方が分からんくて、…っ、困ってる…ッ」
ぎゅっと抱きついてくるのが頼られてる、甘えられてると実感できて嬉しくて顔がニヤけていた。
「ぺいんとさん、キモいですよ」
「うん、キモいね」
突然、割って入るようにしにがみくんとクロノアさんに言われた。
そういや、みんなでいるんだった。
まぁ実際、すっかり2人のことは忘れていたし。
「は?嫉妬ですか?ヤキモチ焼きはモテねーぞ」
しにがみくんは兎も角、クロノアさんの顔には見えない筈の怒りマークが見える。
「トラゾー」
「はぃ…?」
俺に抱きついたまま泣きながらクロノアさんを見上げる。
端的に言えばその顔は可愛いすぎてヤバかった。
「俺も一緒に背負わせてよ。トラゾーがつらいのは俺、嫌だな」
「ぅ゛…」
ふるふると首を横に振る。
「どうして?」
幼子に言い聞かせるように優しく聞くクロノアさん。
一方、トラゾーは子供みたいに嫌々している。
「くろのあさんは、だめ…よごれちゃいます…」
「…ッッ……ぺいんとも言ってただろ?俺らは同じように手を汚しているって」
顔を再び俺の胸に埋めたトラゾーは知らない。
こんな悶絶したクロノアさんを。
ただ一生知らない方がいいかもしれない。
クロノアさんの為にも、トラゾーの思い描いているクロノアさん像を壊さない為にも。
「それでも、いやです…」
胸元の服はトラゾーの涙で濡れているが、そんなことどうでもいいくらい、気分が良かった。
「……」
「……」
ぱちりとクロノアさんと目が合う。
途端にムッとした表情になった。
「トラゾーは、俺じゃ頼りないって思ってるの…?」
クロノアさんが弱々しい声を出す。
この声にトラゾーが弱いことを分かっていて。
勿論、俺としにがみくんには顔が見えていて、それはとてもとても弱々しい顔をしてるとは言えないものだった。
「違っ…違います、そうじゃなくて…!」
パッとトラゾーが顔を上げた瞬間、演者かのように悲しげな顔に切り替えた。
因みにトラゾーはこの顔にも弱い。
なのでよく騙されている。
そして、騙されていることには全く気付いていない。
「トラゾー…俺、悲しいよ…。トラゾーの”本音”聞けたこと、嬉しかったのにな…」
「うぅ…」
「俺も頼られたら嬉しいな…?」
「っ、…ちょ、…ちょっとなら…」
押し負けたトラゾーが搾り出した言葉はそれだった。
「うん、ちょっとでも嬉しいよ」
優しげに笑うクロノアさんを見てトラゾーもホッと小さく笑った。
「僕にも、ほんのちょっとでいいから背負わせてください。トラゾーさんの逃げ場になれるよう頑張りますから」
しにがみくんがそう言う。
トラゾーは驚いた顔をしたあと、優しく笑った。
「うんッ…しにがみさんも、ありがとう…」
その返答にしにがみくんは嬉しそうに笑った。
「あ、そうだ、俺もトラゾーのこと好きだからね」
「……へぁ?」
「あ、そうそう。俺も言ったじゃん好きだって」
「え?」
「さっき」
「ぁ、え…?」
「俺もさっきと、その前にも言ったじゃん」
「ぇ、ぁ…ん?」
困ったトラゾーはしにがみくんに助けを求めるように視線を送った。
「トラゾーさんはただでさえ思い出したばかりで、まだ不安定なんですから困らすようなこと言わんでくださいよ。可哀想じゃないですか、僕に助けを求めるくらい困惑して。こんな困った顔珍しいですよ。まぁ、逃げ場にしてくれようとしてるんなら嬉しいですけどね?」
ほらおいでーと手を伸ばすしにがみくんのところに素直に行くトラゾー。
その背後に隠れきれてないが隠れてしまった。
「あらら、トラゾーさん今度は真っ赤な顔して可愛いですねぇ。可愛い担当僕たち譲らないとですね」
その真っ赤な顔とやらはしにがみくんで全く見えない。
「可愛くないです…!」
「「トラゾー」」
じりじりと近付く。
「ぅ、あ…」
しにがみくんの後ろには入り口が。
しまったと思った時にはトラゾーは脱兎の如く逃げ出した。
「あっ!」
「しまった」
慌てて部屋の外に出るも、そこには影も形もない。
あの足の速さでは俺らじゃ追いつくことはできないから。
「逃げられた」
「トラゾーさん、隠れるのも上手だから早く追いかけた方がいいんじゃないですか?」
「そうする」
「ぺいんと、勝負だ」
「負けませんよ。トラゾーは渡さねぇ!」
左右に別れて逃げたトラゾーを追うことにした。