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配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に登場したまひろは、今日は明るい赤色のトレーナーに緑のハーフパンツ。小さな缶バッジを胸元に付けていて、ぱっつん前髪の下の大きな瞳は無垢にきらきらと輝いていた。
隣のミウは、薄桃色のブラウスにクリーム色のロングカーディガン、灰色のプリーツスカート。髪は肩でふんわり揺れ、耳には小さなリボン型のピアス。にこやかに微笑みながら、カメラに向かって軽く手を振っていた。
まひろが少し不安げに声を出す。
「ねぇミウおねえちゃん。ぼく、最近すごく人気のあるアイドルさんを見ててね。テレビでも雑誌でも“清純派”って言われてるんだけど……ほんとにそうなのかなぁって思っちゃったんだ」
コメント欄がざわつく。「わかる!」「イメージ強いよね」と書き込みが流れる。
疑惑の芽生え
ミウが首をかしげ、ふんわりと笑う。
「え〜♡ 清純って言われるのは素敵だけどぉ……もし裏ではちょっと違ってたら、びっくりしちゃうよねぇ」
まひろは小さくうなずき、無垢な声で続ける。
「ぼくはただ、“ほんとにそのまま信じていいのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄には「確かに裏はわからない」「でも信じたい」と揺れる意見が飛び交った。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
1. 国民的アイドルZさん、“清純”イメージに揺らぎ?
2. SNSで拡散されたプライベート写真『夜の街で友人と』
3. 過去発言との矛盾『恋愛禁止』の裏で自由な交友?
4. ファンコミュニティ動揺「信じていいのか」
5. 専門家コメント『偶像のイメージ管理は限界』
記事は一見事実の羅列だったが、写真は無関係の友人と外出しただけのもので、キャプションを操作して“裏の顔”をにおわせる構成にしていた。
裏では、ミウが匿名アカウントで「この写真見てショックだった」と書き込み、炎上を仕組んでいた。
群衆の暴走
SNSは瞬く間に炎上。
「裏切られた」「清純なんて嘘」「恋愛禁止は形だけだった」
まとめサイトは「アイドルの素顔」と見出しをつけ、深夜番組は問題の写真を何度も流した。
やがてスポンサー企業が「イメージを重視する」としてCMの契約を打ち切り、所属事務所は火消しに追われた。
ファンの間では擁護派と批判派が真っ二つに分かれ、コミュニティは崩壊寸前になった。
クライマックス
数日後、アイドルZはSNSで「ただの友人との食事でした」と否定の投稿をした。
しかし、その一文は翌日また記事になった。
「否定はしたが“裏の顔”は説明せず」
沈黙も釈明も、すでに世間の信頼を取り戻すには遅すぎた。
結末
夜の配信。
まひろは赤いトレーナーの裾をいじりながら、無垢な瞳でカメラを見つめた。
「ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに」
ミウはやさしく微笑み、両手を胸の前で合わせる。
「え〜♡ でも、みんなで考えるきっかけになったんだから良かったんだよね。
ほんとの清純って、きっと見た目だけじゃなくて心から出るものだもん♡」
コメント欄は「目が覚めた」「真実を見極めなきゃ」であふれた。
その裏で、ミウのPCには次のターゲットの見出しが並んでいた。
「映画監督の裏金疑惑」「スポーツ選手の不祥事」「文化人の過去発言」。
記事の雛形はもう完成していた。
> 無垢な声とふんわり同意、その裏で“偶像”は崩れ落ちていった。