テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
誓い
・・・・・・・・・・
私の家は、戦国時代から続く、いわゆる“旧家”と呼ばれるものだった。祖父母、両親、歳の離れた兄と姉、そして私の7人家族。何不自由なく暮らしていた。
長く繁栄してきた家というからか、兄も姉も私も、“いつどこに出しても恥ずかしくないように”と幼い頃から礼儀作法や教養や芸事を厳しく叩き込まれて育った。毎日のようにお稽古事。先生が家に来たり自分たちが通ったり。それが当たり前だったから不満に思ったことも特にないし、家族は厳しくも優しかったから、そんな日常が好きだった。
それなのに。ある日突然、私の“普通”の生活が壊された。1人の鬼の男によって。
夜中、家の玄関扉を叩く音が聞こえて父が応じようと戸を開けた。普段は寡黙な父の、聞いたことのない叫び声を聞き、何事かと家族が飛び起きて廊下に出ていく。
「来るな!みんな逃げろ!!」
見ると既に片腕をふっ飛ばされた父。その向こうには玄関先に佇む謎の男。紅梅色の瞳、青白い肌、両手はポケットに入れているのに、背中のほうから触手のような長い管が縦横無尽に蠢き、あっという間に家に大小様々な傷をつくっていく。
「ひよちゃん!!」
「柊依!!」
いちばん最初に10歳離れた姉が私をぎゅっと抱き締めた。その上から更に4つ歳上の兄が覆い被さった。そこに祖母が重なる。そして母。
ズギャギャギャッッ!!
ブシィィッ!!
ドスッ!!
自分に覆い被さる家族の腕の間から見えたのは、謎の男の触手によって、瞬きひとつの間に身体を斬り刻まれる父や祖父。それでも2人は床に這うようにしてこちらへ来て、更に私たちに覆い被さった。
何が起こっているのか、理解が追いつかなかった。
なんで?あれは誰?どうしてこんなことをするの?
家族が自分に覆い被さっているので身体が重たい。男が一歩こちらに近付いた。その時、開けっ放しだった東向きの玄関から朝日が差し込み、男は慌てたように一瞬で姿を消した。
私は恐怖と息苦しさで、そのまま気を失ってしまった。
知らない匂いと知らない声。頬を軽く叩かれる感覚。居心地の悪い筋肉質な腕の感覚に、私はそこでようやく意識を取り戻した。目を開けると鮮やかな色をした髪の男性が私を抱き起こして顔を覗き込んでいた。彼の言葉に目線を動かすと、全身血塗れで横たえられた家族6人。子どもの自分にも、家族がもう既に事切れていることが分かった。何が起きたのかをたずねられ、私は震える声で事情を説明した。
「きぶつじむざんが来たの……!」
「鬼舞辻無惨だと!?」
当時よりもっと幼い頃に見たことのある古い古い本。私の先祖が“鬼殺隊”のある人物から特徴を聞いて描いた鬼の始祖の人相書きに、家族を襲った男がぴったり重なっていたことを思い出したのだ。
駆けつけてくれた男性に背負ってもらい、“鬼舞辻無惨”の描かれた古い本を保管していた祖父の書斎へ案内した。人相書きと、私の話す“鬼舞辻無惨”の特徴が一致していたので男性はとても驚いていた。彼は“鬼殺隊”の“炎柱”で、家族を皆殺しにされた私を保護して本部へ連れて行ってくれた。
“鬼舞辻無惨”なんて、“鬼”なんて、本当にいると思わなかった。子どもの自分たちが悪さしないように、夜更かししないように、良い子でいるように大人が作り上げた都合のいい脅しだと思っていた。でも違った。鬼は実在したし、その始祖である鬼舞辻無惨によって大好きな家族を皆殺しにされた。
悲しい。悔しい。腹立たしい。…そんな生ぬるい言葉では表せない感情が、当時8歳の私の中に渦巻いた。
許さない。許せない。絶対に。
大事な人をいっぺんに奪っていったあの男を、私は必ず倒すと心に誓った。鬼殺隊に入り、たくさん鍛錬して修行した。家族と暮らしていた頃は手に持つのは扇や楽器だったのに、それに代わって刀を握り締めて鬼を狩る。
鬼殺隊には自分と同じように、鬼によって大事な人を失った仲間がたくさんいた。どれだけ涙を流したか分からない。みんなで励まし合って、つらいことも一緒に乗り越えてきた。けれどもそんな中、志半ばで命を散らした仲間も大勢いた。
私は水の呼吸を習得した。その派生である花の呼吸も使いこなせるようになった。階級がどんどん上がる。殉職した親友に替わり花柱にもなった。でも足りない。もっともっと強くならなくちゃ。
ひたすら鬼を狩る日々。私のように、鬼によって幸せな日常が突然壊される経験をする人が少しでも減るのなら。名前も知らない誰かの穏やかな日常を守ることができるのなら。
“始まりの呼吸”の剣士の末裔である双子の兄弟を弟子にとった。私にとって初めての弟子だった。2人とも、とても素直で真面目で、ぐんぐん上達していった。弟の無一郎くんは霞柱にまで登り詰めて鬼殺隊を支えてくれている。兄の有一郎くんはとある任務から鬼と戦うのが難しくなってしまったけれど、前線から離れても自分にできることを精一杯やってくれている。
任務に出ようが出られまいが、剣を扱えようが扱えまいが、そんなの関係なく私は2人のことが大切で大好きだった。ありがたいことに、2人も私を慕ってくれているのが伝わってきていた。
失いたくない。守らなければ。新しい家族を。可愛い弟たちを。できれば2人には、鬼狩りなんかせず屋敷で穏やかに過ごしてほしいというのが本音だけれど、彼らは彼らなりに自身のできることや才能を活かして鬼殺隊に貢献しようとしてくれているから、そんな彼らの覚悟を踏みにじるようなことはしてはいけない。
鬼になった妹を連れた隊士…、“竈門炭治郎”と名乗る男の子が我が家へ稽古に来た。その際、私が上弦の壱と戦ってからのことを覚えていた有一郎くんが竈門家に伝わる“ヒノカミ神楽”について聞き出してくれて、それを実際に見せてもらうことになった。炭治郎くんはその“ヒノカミ神楽”を使うことで鬼への攻撃力が上がり、水の呼吸を織り交ぜることによって体力の消耗を抑えながら戦っているのだそう。
無一郎くんの提案で私と有一郎くんも“ヒノカミ神楽”を教えてもらった。12個もある型を覚えて舞うのはかなり体力を必要としてきつかったけれど、お稽古事に興じていた幼少期を思い出し、懐かしい気持ちになった。そして、新しいことを覚えるのが単純に楽しいと感じた。
“ヒノカミ神楽”を練習するようになって、それを実際に任務で使ってみるようになって、奇妙な夢を度々見るようになった。驚くことに有一郎くんが見ていた夢と、私の夢の内容が一致していた。
夢の中の男の子の額には、炭治郎くんのとよく似た痣があったし、彼の家に神楽と一緒に受け継がれてきたという耳飾りも着けていた。
夢の中の人物たちは誰なのだろうか。そして、あの夢は一体“誰”の目線なのだろうか。私の家族を皆殺しにしたあの憎い男まで登場しているものだからどうしてもあれこれ考えてしまう。
夢に登場する老剣士の目を見張るような、鮮やかで美しい剣技も気になる。よくよく思い出し考えてみると、“ヒノカミ神楽”の動きと似た部分もあった。…だとしたら、やっぱり“ヒノカミ神楽”は鬼の始祖をも倒す助けになるのかもしれない。
夢の内容は毎回同じ。決して楽しい内容じゃない。むしろ嫉妬心や敗北感、焦燥感という負の感情が大きい。でも2人の人間が何度も同じ夢を見ているのだから、これを戦いに活かせるのなら、多少しんどい夢でも何度だって喜んで考察する。
鬼舞辻無惨を倒せるのなら、誰かの幸せを守る結果に繋がるのなら、夢でも神楽でも何だって利用してやる。
鬼はいる。およそ1000年前から。その存在を知らない人のほうが多いのかもしれないけれど、そんな鬼によって普通の日常や幸せを突然奪われた人たちがいるのも事実。
諦めない。絶対にこの世界から鬼を殲滅する。自分1人じゃ無理だけれど、鬼殺隊にはたくさんの仲間がいるから。みんなで力を合わせて鬼を滅ぼすの。この命を懸けて。
続く
こと🎀🌌
134
雫玖
36
#女の子
コメント
1件
**みぅ🤍🥀** うわあ……第18話、家族を守るために覆い被さるシーン、もう涙が止まらなかったよ。8歳で全部を奪われて、それでも「誓い」を胸に刀を握る強さに心震えた。花柱として弟子を守りながら、それでも無惨を倒すために尽くす姿、本当に尊い。ヒノカミ神楽と夢の伏線も気になるし、有一郎くんとの絆も好き。続き、待ってるね🌙