テラーノベル
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月曜日。
「…………疲れた」
大学から帰ってきた俺は、玄関を開けるなり床に座り込んだ。
「おかえり」
「ただいま……」
みどりがぱたぱたと近づいてくる。
「疲れた?」
「疲れた」
「ご飯は?」
「……何食いたい?」
「肉」
「それ以外で」
「……………」
「……お前ほんと肉好きだな」
俺は立ち上がり、冷蔵庫を開ける。
「何かあるかな――」
「…………」
冷蔵庫の中。
棚の端に。空の牛肉パックがあった。
俺は静かに冷蔵庫を閉める。
「今日もいるな」
「うん」
「何で?」
「牛肉だから」
「だからパックだって」
もう考えるのをやめた。
夕方にて。
ピンポーン。
「……誰だ?」
玄関を開ける。
「す、すみません……!」
「…………」
そこに立っていたのは、一人の青年だった。少し疲れた顔。
そして――
「……泣いてる?」
「えっ」
青年は慌てて顔を拭った。
「ち、違います!」
「いや、明らかに泣いてますよね」
「これは……その……」
「?」
「……仕事で……」
「あぁ……」
なんとなく察した。
「……零雨さん?」
「え?」
「コンタミで会った人ですよね?」
「あ……はい」
伊田場零雨。
コンタミの常連。
そして――
「……どうしてここに?」
「それが……」
零雨は俯いた。
「道、分からなくなって……」
「……ここ、俺の家ですけど」
「はい……」
「なんで来たんですか?」
「……分かりません」
「分かんないの!?」
みどりが横から顔を出す。
「こんにちは」
「…………」
零雨が固まった。
「……え?」
「?」
「……やっぱり……ドラゴン?」
「うん」
「…………」
零雨は数秒黙った。
そして。
「……かわいい」
「そこ!?」
とりあえず、零雨を部屋に入れた。
「……すみません」
「いや、別にいいですけど」
「ご迷惑じゃ……」
「大丈夫ですよ」
みどりが零雨の隣に座る。
「泣いてる」
「…………」
「悲しい?」
「…………仕事が……」
「大変?」
「……はい」
「そっか」
みどりが少し考える。
そして。
「元気出して」
「…………」
「…………」
零雨の目から、また涙が落ちた。
「えぇ……」
「ご、ごめんなさい……」
「いや、何で謝るんですか」
「嬉しくて……」
「そっち!?」
みどりが首を傾げる。
「変なの」
「……すみません」
「またあやまった」
「すみません」
「また」
「…………」
「…………」
俺は思わず笑ってしまった。
「なんだこれ」
しばらくして。
俺は三人分の飲み物をテーブルに置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます……」
零雨がカップを両手で持つ。
「……あったかい」
「落ち着きます?」
「はい」
みどりが零雨を見る。
「レウ」
「はい?」
「また来る?」
「……え?」
「またここに来る?」
「…………」
零雨は少し考えた。
「……いいんですか?」
「俺は別に」
「オレも、いいよ」
みどりが笑う。
「じゃあ……また来ます」
「どうぞ」
なんだか。
いつの間にか。
俺の部屋が人の集まる場所になってきている。少し前まで、一人暮らしの静かな部屋だったのに。
「……変なの」
「何が?」
みどりが聞く。
「いや、なんでもない」
夜にて。
零雨が帰ったあと。
「…………」
俺は窓の外を見ていた。
「らだ男」
「ん?」
「レウ、また来るかな」
「たぶん」
「よかった」
「……なんで?」
「寂しそうだったから」
「…………」
みどりは意外と、人のことをよく見ている。
「お前、優しいな」
「そう?」
「うん」
「らだ男も優しい」
「俺?」
「うん」
「……そうかな」
「うん」
みどりは笑った。
ふと俺は思い出した。
「……てか、零雨さんって確か迷子じゃなかったっけ。」
「………。」
零雨が戻ってくるのは。
そう遠くないかもな。
深夜にて。
冷蔵庫の中。
空っぽの牛肉パックが――
——ブルッ。
「…………」
みどりが寝返りを打つ。
そんな間も牛肉パックは、
——ブルブルッ。
*——ブルッブルブルブルッ*。
冷蔵庫の中で、激しく揺れた。
「…………」
誰も起きない。
牛肉パックは静かになった。
今日もまた。
何事もなかったかのように。
コメント
1件
第12話、読み終わりました。零雨さんが突然訪ねてきて、しかも泣きながら「道が分からない」って……もう、なんだか切なくて可笑しくて、胸がぎゅっとなりました。みどりちゃんが「元気出して」って言ったらさらに泣いちゃうのも、二人の距離感がじわじわ縮まっていくのもすごく好きです。最後の牛肉パックの震え、何事もなかったかのように終わる日常の裏側に、まだ何か潜んでる感じがしてゾクッとしました。続きが気になりますね……!
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