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宇宙バス

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宇宙バス

1 - 宇宙バス

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2023年08月27日

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蝉の声が耳に張り付く夏。

私はバス停近くの木陰でぼうっとバスを待っていた。

教科書の入った鞄は重く、心さえも暑さでずっしり重く感じた。

すると、親子がやってきた。

子供は無邪気に笑い親に一方的に話しているようだった。

「きょうでんしゃのるよ!」

「ぐりーんしゃでおかしたべる!」

ふと、自分の幼少期を思い出す。

行き先も分からない、親について行くのに必死だった。

けれども、初めて見る街並み、大きなビル、行き交う多くの人々、可愛いお店、全てがキラキラと輝いて見えて、その小さなからだ全体で感動を覚えていた。

最近はバスや電車といったらほとんどの行き先は塾だ。

1人で向かい、1人で帰る。

そう思うとさらに体が重く感じて立っているのが辛くなってきた。

そこに丁度バスがやってくる。

カードをかざし、窓際の後ろの席に座った。

親子は切符をとり中へ入ると、横並びの前の席に座った。

ドアが閉まるとバスは走り出した。

直接当たる冷房と道の凸凹をなぞるような振動が眠気を誘う。

子供の目はキラキラと輝いていた。


しばらくすると、大きな橋に差し掛かった。

線路と道路をまたぐそれはそれなりに高さがあり、街並みをビルの隙間から広く見ることができる。

バスはどんどん橋を上がっていく。

どんどん、どんどん、どんどん。

子供が、「うちゅうまであがれ!」

と、これまた子供らしい絵本のような言葉を発した。

眠気により瞼を伏せたまま「可愛いな」なんて思っていた。

ガタガタ、カタカタ、カタン。

ふと、床の振動が無くなったことに気づく。

薄く重い瞼をあけ、ちらりと外を覗く。

その途端私の目は輝いた。

なぜなら、バスが浮いているのだ。

窓に反射した私の目はまるで子供のようだった。

体は軽く心は今にも弾けるような感覚がした。

子供は「すごい!うちゅうばすだ!」

と言いながらはしゃいでいる。

その間にもバスはふわりふわりとのぼっていく。

街並みが小さくなっていく。

鳥たちと一緒に風をきる。

あの大きな雲に手が届く。

輝く星を手に取ると、気づけばそこは宇宙だった。

「「すごい!!」」

思わず子供と言葉が重なる。

その後もバスはバス停に止まるように星々に着陸する。

その度に私は子供とおなじ反応をした。

月に止まればうさぎを探し、火星に止まれば宇宙人を探す。

土星に止まればぐるぐると目を回し、太陽に止まれば眩しさに目を瞑った。

そんなワクワクな感覚が身体中を駆け巡った。

「お客様。」

ふと、車掌の声に目を覚ます。

どうやら寝てしまっていたらしい。

先程の感覚がまだ指先に残る。

寂しさを感じながら身体を起こすと、車掌がある物を手渡してきた。

「またのご利用お待ちしております。」

私の手にはワクワクの詰まった小さな一等星が握られていた。

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