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「なあ、道浦!お前彼女出来てんの!えっ?どうして俺に教えてくれないかな〜」

まるで金を出せと言わんばかりに僕の周りを数人の男と女が囲っている。

…彼女?


「彼女って?だ…」

「楓果(ふうか)ちゃんだよお!!俺の推しだよぉ…」


楓果…!

….

どうしてかこの日から僕は僕らしくないことをしてしまったんだ。全身が、感覚が、僕の全てが一瞬固まった。ほんの一瞬…。始めての経験だった。僕の”何か”がこつんっ…と突如外れた気がした。その日…その瞬間から僕は変になったんだ。

僕は変になったんだ。

僕は変になったんだ。

これは僕じゃない…僕は変わってしまったんだ。

*違う、何も変わっていない*。

身体は羽根のように軽くなり…何処へでも…何物にでもなれる。生まれ変わったかのような気持ちだった。..でも分からない。何故僕は顔をうつむけ、皆にばれないようついつい笑みを零ぼしてしまうのか….

分かっていた。

このとき僕は喜んでいたんだ。

これは使えると。

自身に嘆く友人に向けこう言った。言ってしまった。もう、後戻りは出来ない。

後戻りなんてする気はない。


「うん。僕から告白したんだ。聞きたいか?」


嘘をついた。人生で始めての嘘ではない。今まで何度も何度も嘘はついている。しかし、これはただの嘘ではない。

正直もうどうなっても良かった。

嘘がばれて自分がどうなったとしても

ただただ楓果が欲しくて

どんな手段でも良くて

どんな手段からでも良くて


「聞かせろお…!女たらしが!」

「はあ?女たらしとか言うなよ。あのさ、どんな噂が回っているのかな?僕と楓果について。それ先聞かせてよ。」


やんわりと探りを入れてみる。

さっきからずっと自分の中から響く声が煩い。

楓果を見つけたらどうしたい?

取り押さえる?

欲しいな早く


「まず両思いになってるってこととか、…へへ。お前さあ…中々活かしたこと言ったんだよな。確か階段で…」


友人の言葉が頭に入らない。突如暴走し出した、謎の声が口から零れてしまうのを抑えていた。


「そう!階段で僕と君は同じだっ!!って」


別の友人が割り込む


「そこに痺れる憧れるううっ!!」

「ズッキュウウウン!!はした?」


うるさいなあ。わざと大袈裟なやり取りをしてるな。お猿さんのように大興奮。あまりはやし立てられると辟易する。


「何笑ってんのwwそんなに面白かったw?」


道浦の心からの笑顔に和やかな空気が流れた。当の本人は一瞬、時でも止まったかのように身体を強張らせ、吹き出しそうな程に冷や汗を流したが、皆が勘違いをしているもんだから流れに乗って話を続けた。


「ここだけの話な…手は繋いだ。キスまではしてないけどな」


心がひやひやと踊り続ける。僕も僕だよ。危ない。危なかった。

笑っていた。普通に。


「まじかよお!やるなあ!」

「というかさ昼に一人で食いに行くようになったと思ったら、こそこそ彼女と食ってたんかよお」

「そうだよ。御名答。」


ははは。といつもの調子を取り戻してみせた。


「えぇえ道浦くぅん。嘘だあ…嘘だあっ….」


ずっと話を聞いていた一人の女はかつての活気が失せており、語彙力が急激に欠如していた。僕の机から手を離さないでずっとそこに疎ましくいる…煩わしいな。僕のことが好きなのは前から知っている。しかし、興味はない。


「ねぇ他にはどんな噂が?噂なんてあんま当てにするなよ。本人が言った訳じゃないんだから。」

「分かってる分かってる。でもさ付き合ってるのは本当だったんだよな。で、結局告白はどんな感じでしたの?もしかして階段での台詞かな?」


自称、楓果推しの友人の名は”拓斗”。


「いや、普通にしたよ。僕と付き合って下さいって。そしたらあの子、私も好きです。よろしくお願いします…って言ってくれた。」


思いつきの嘘。照れくさそうに左下に視線を流してみせる。


「思ったよりシンプル笑笑、でも無難。いいじゃん…まあ、楓果ちゃんならいいんじゃね。」


一瞬、拓斗の視線が下に泳ぐ。

“拓斗は僕に好意を持っている。同性ではあるが。だかこいつは諦め癖がついていてどうも扱いやすい”


「あの子は本当に素敵な人だよ。本当に…」


これは本心である。思わずうっとりと呟いてしまった。


「っちょいちょい!そんな台詞しゃあしゃあと吐くな。こっちが恥ずかしくなるだろ。」

「いいなあ彼女俺も欲しい」


少し2人で話をする時間をくれないか。


「トイレ行くわ…拓斗もな」


俺はいいやと断りそうな雰囲気だったから、そいつの肩を軽く叩いてみせた。自分の制服には触り慣れているが、他人のに触れるのはまた違った感触がした。


「おう」


ちゃんと察してついて来てくれた。



なあ拓斗

面白いことを思いついたんだよ

聞いてくれよ拓斗


「拓斗…ありがとな。お前のお陰でもあるんだからな。」


静かな廊下で拓斗を諭す。拓斗はひえっと顔を正面に向ける。動揺しているのか。悟られまいと笑みを作っているのが分かる。


「お前は親友だよ。お前にしか僕、心開けないから。いつも…家族のこととかもな…」


拓斗は話を聞いている。何か言いたげな表情をしている。


「あの子さ少し気難しい部分もあるんだ。でもさ、彼女が僕のこと好きってことが分かって本当に嬉しかった。」


拓斗は身体を強張らせているようだった。そうだったんだ。と、笑顔で軽く返答をする。笑みが胡散臭い。トイレに着き、中には誰も居ないことを軽く確認する。では、本題に移るとしよう。


「ねえ、拓斗…僕のこと好き?今も」


そっけなく聞いてみせた。拓斗は思わずびくりと微かに身体を跳ね上がらせる。触られたくない気持ちに触られたもんな。そりゃ怖いよな。


「….まだ覚えてんの。いや、まあ…そりゃな。」


よかったよかった。取り敢えず安心して僕は壁にもたれかかる。


「僕さ、お前のこと好きだよ。でも秘密な。誰にも言うな」


拓斗は口が固い。挙げ句僕のことが好き。都合がいいので、使ってやろう。さらっと言った衝撃的であろう言葉に驚きを見せつつ拓斗は矛盾点をきちんとついた。


「おい…それはよくない…楓果ちゃんと両思いなんだろ。」

「そうだよ。でも大丈夫。」


拓斗は混乱しているようだ。喜べよ。叶わないと諦めていた恋が今叶ったぞ。もちろん僕は本気でこの台詞を吐いた訳じゃないがな。


「お前…最低だぞ、彼女を裏切ることになるんだぞ…最低なやつだぞ…」


違う違う


「僕はお前のことも好きなんだ。男同士なら友達付き合いだって思ってくれるだろう?」

「俺のこと”も”?だめだろ。おいっ…そんな奴だとは思わなかったよ…」


かわいいやつだな。断らないんだ。僕からの告白。手放したくないんだね。僕からの好意。


「拓斗…世の中には多様な人間の性があるのは知ってるだろう。僕もその一人さ。あの子のことも好きだ。でもお前がいなきゃ僕は生きてけない。ゲイもレズもアセクシャルも…いろいろあるが僕のは知らない。知られていない。お前も僕を軽蔑するのか…?理解してくれるって信じてるのに…存在しちゃ駄目か?僕みたいなのは…」


寂しそうに呟く。…….お前の抱いているだろう心情も乗せてやったよ….どうした。挙動が可笑しいな…迷ってる迷ってる。


「でもあの子…俺が道浦のこと好きだって知ってるよ。いつも相談にのってくれた….」


そんなことを話していたのか…2人のやり取りを思い出してみる。あの頃からどうもむず痒かった。どうして2人は仲がいいのか。気になってしょうがなかったんだ。


「大丈夫。浮気しような。僕と。」

大丈夫。お前のことは僕が一番知っている。

「お前…お前最低だからなその考え….」

最低、か…

“意気地なしのお前がそんな綺麗事を心の底から言えるようには思えないけどな”

お前だって同類だろう?


「お前さ…分かって言ってんの?俺と隠れて付き合うにしても、俺は….お前のこと…..。止めとけ俺と付き合うのは。楓果ちゃんだけを想え。….俺のお前に対する想いとお前の俺への想いには、ずれがある。お前は俺と付き合えない。」


….一瞬なんのことだろうと考えた。もぞつく拓斗をしばらく眺める。ああ、そういうこと。

僕は拓斗にゆっくりと顔を近づけた。


「多分こうゆうことだよな?お前が叶わないって諦めてること」


拓斗は目を見開き驚いていた。僕がお前にしていることは大胆な筈なのに、お前は一歩も逃げようとしなかった。衝撃的だったから動けませんでした。なんて言い訳通用しないからな。求めていたから動かなかったのだろう?


叶えてやるからこれからもよろしくな

僕はするりと彼の頬を両手で包み込む。

不自然なほどに偽りのない優しさに溢れた柔らかい笑みを彼に向けてやった。


画像

[16話完結]僕は君を愛してる

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コメント

10

ユーザー

描写が綺麗でとっても面白かったです!セリフも個性的なキャラとマッチしてて尊敬します!

ユーザー

更新ありがとうございます🙇‍♂️ まさかそのまま偽り続けるとは思いませんでした…😲 最後の場面も情景描写が細やかで、手に取るように想像出来ました!

ユーザー
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