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好きな子ほど、からかいたくなる。高校生の頃から、いや、生まれつきのの悪い癖だ。
「お前ってさ、ドジだよな」
「またその髪結びか。いつも一緒でつまんねー」
彼女のことが気になれば気になるほど、つい口が悪くなる。本人はきっと気づいていないだろうが、俺にとってはその何気ない日常が特別だった。
だけど――そのせいで彼女に「脈なし」と思われていたらしい。
ほんとうは、「綺麗だ」「可愛い」「好きだ」って伝えたかった。本人を前にして顔が紅くなるのもつい、隠してしまっていた。
夏祭りの日。
本当は二人で行きたかった。けど、気づけばからかいすぎて、約束すらできなかった。
結局、俺は友達の集団に混ざり、彼女も別の友達と来ていた。
人混みの中、ふと視線が交わる。
浴衣姿ではなかった。それでも、彼女は他の誰よりも輝いて見えた。
提灯の明かりに照らされた横顔が、胸に焼きつく。
俺はその場で立ち尽くしてしまった。声をかける勇気なんて、あるはずもなく。
彼女は友達と笑い合い、楽しそうに屋台を回っていた。俺はただ、それを遠くから見つめていた。
――ああ、やっぱり好きだ。
それ以上に踏み込めなかったのは、自業自得だ。からかってばかりで、素直になれなかった自分のせい。
あの日の夏祭りは、苦い思い出のまま終わった。
高校生の俺は結局何も伝えることはできなかった。
___
時は流れた。
大人になり、俺たちは同窓会で再会した。
久しぶりに会った彼女は、変わらず笑顔が似合う人だった。
「せっかくだから花火しようぜ!」
夏の夜、みんなで手持ち花火をすることになった。小さな火花が散る輪の中、彼女の笑い声が混ざる。
彼女の隣に向かい、一緒に花火をする。
「花火綺麗だね」
俺はその姿を見つめながら、心臓が高鳴るのを抑えられなかった。
花火の光が頬を照らす。
あの日の夏祭りと同じだ。浴衣じゃなくても、やっぱり彼女は綺麗だった。
勇気を出さなければ、また後悔する。
そう思った瞬間、気づけば声が出ていた。
「、、、綺麗だ」
花火の音にかき消されそうなほど小さな声だったけど、彼女は確かに顔を上げた。
驚いたように目を見開いて、俺を見返す。
「え?」
逃げるわけにはいかない。
俺は笑って続けた。
「今度こそ、ちゃんと言うよ。お前のこと、ずっと綺麗だって思ってた」
彼女の頬が赤く染まった。
それは花火のせいだけじゃなかった。
ツンデレで素直になれなかった俺の、何年越しの思い。
やっと届いた気がした。
「ずっと好きだった」