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一応晴陽さんとは連絡先を交換したのだが、まだ彼女からは「よろしくね!」の一言と何やら可愛らしいスタンプ以外は送られてきていない。自分も「よろしくお願いします。」と少々堅苦しいような返信をしただけだ。きっと友達なんて皆こんなものだ。もしくは遊ばれていたんだ。いや、まず自分から連絡を取ってみるべきか。自分の中の天使も悪魔も弁護士もコンサルタントも学者も、全員別々のことをいう。悶々と考えていると気づけば大学も夏休みになっていた。1日中ゴロゴロする同じような日々の連続。快適と言えば快適だがそれ以上になにか虚しささえ感じる。スマホの通知が鳴る。晴陽さんだ。『海、いかない?』ただそれだけ。けれどただそれだけなのに私はなぜこんなに嬉しいと思っているのだろうか。
普段おしゃれなんてしない私は待合せ10分前に珍しくもワンピースを着て集合場所の駅の改札口にたっている。自分は一体何をしているのだろうかと、晴陽さんに変に思われないだろうかと考えながら無意識に麦わら帽子のつばを触る。
「紫雨ちゃん。」
顔を上げる。華奢な肩が見える服を着た晴陽さんが私の顔を覗き込んで微笑んでいる。
「早いね。絶対私のほうが早く着くと思ったのに。」
「は、速い電車に乗れたから。」
自分の声が思っていたよりもずっと小さくて、つい目をそらしてしまう。
「紫雨ちゃんワンピースかわいいね。ほら行こう!」
私の手首を優しくも力強く引きながら晴陽さんが海の方へ歩いていく。そのまま慣れた手つきでレジャーシートやらパラソルやらを開き、晴陽さんはあっという間に海に足をつけに行ってしまった。きっと晴陽さんは何回も海に来ているのだろう。おそらく他の友達と。振り返ってこちらに手を振る彼女は眩しくて本当に太陽のよう。
砂の城作ったり水遊びしたり泳いだり、とにかく遊んで、久しぶりにはしゃいで、そしたら気づけば夕方だ。今日はなんだかたくさん笑った気がする。海水浴客も引いてもうあと数組しかいない砂浜に私達はまだパラソルもレジャーシートも片さずに座っている。太陽がもうすぐ近くで手を伸ばせばきっと届く気がするのだ。
「紫雨ちゃん、私ね。晴れの日ってあんまり好きじゃなかったの。なんだかギラギラしてるし、なによりあまりいい思い出がないからさ。でも、紫雨ちゃんに言われてからなんか特別に感じるんだよね。」
晴陽さんはこちらへ向き直して笑みを浮かべる。
「紫雨ちゃんのこと雨の子とか言ったけど今日一日でわかったんだ。笑顔は誰よりも眩しくてまさしく晴れの子。」
これはとても驚いた。生まれて一度もそんな事は言われたことがない。私が晴れの子?自分ではよくわからないけれど晴陽さんが言うから説得力がある。手を伸ばしてポニーテールからほどけた晴陽さんの髪を右耳にかける。
「晴陽さんは自分の光がわかってないんだよ。そのきれいな瞳だって世界が集まってるみたい。」
照れて少し赤くなる晴陽さんだけど本当のことだ。ずっと綺麗だと思っていた。でも黄金色の陽に照らされた今の晴陽さんの瞳はキラキラと、世界に存在するすべての光が宿ったように見える。トクン。なぜだろう、不整脈だ。とても可愛い私のオトモダチは他の人にもこんな顔をするのだろうか。とんだ人たらしだ。