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第一話『入学式』 ー海道桜ー
僕は春が嫌いだ。
高校一年生の春。僕は笹野高校、訳して「さの校」に入学した。さの校は、最近できた学校で施設は綺麗だが偏差値が低く、地元ではバカ高呼ばわりされていた。
「これから、第5回。入学式を開式いたします。ではまず、校長先生のお言葉です。校長先生…」
入学式だというのに大雨で、体育館中に屋根に落ちた大玉の雨が落ちた音が響き渡った。
じめじめしていて居心地が悪い。早く帰りたい。そう思っていた矢先隣の人が声をかけてきた。
「どうしたの?体調悪い、?」
高校生とは思えないほど小さい女の子が小声で声をかけてきたのだ。
正直驚いた。
中学の頃僕はいじめられていて、まともに声をかけられたことがなかった。だからなのか、声をかけられて、数十秒固まってしまった。
「だ、大丈夫です、。」
声が震える。どう話せばいいのかわからない。緊張で『大丈夫』の一言でさえも頭がパンクしそうになった。不安だ。またいじめられるかもしれない。そう思うと冷や汗が止まらなくなった。
「はい。これ!使って」
普通のハンカチより一回り小さめのハンカチだった。小学三年生が使うかのような柄で、お世辞でもオシャレとは言えなかった。僕なら恥ずかしくて渡せない。そう思っていた。
「おーい、?大丈夫?ほら!これ使って」
「あ、ご、ごめん。あ、ありがとう、」
ハンカチを借り、汗を拭いた。
微かにお花のような匂いがして、少し緊張がほぐれた気がした。
「私、叶谷(かなや)桜って言うの。これからよろしくね」
「桜、?」
「うん!桜!貴方の名前は?」
「僕は、海道桜、です。」
「え!!さくら?!お揃いだね」
家族と先生以外に、名前を呼ばれたのは何年ぶりだろうか。少しだけ照れ臭かった。
「かいどう、ってどうやって書くの?」
「海に道で海道、です、」
「海に道かー!いい漢字だね!」
「か、かなやさんは、?」
「私は、叶うに谷で叶谷だよ!」
「な、なるほど。あ、いい名前、ですね、」
「でしょ!自慢の名前なんだー!」
僕には眩しく思えた。だって、 自分の名前を自慢できる勇気など、僕にはなかったから。
「…ありがとうございました。これにて、第5回入学式を閉式致します。1年生の皆さん。ご入学、おめでとうございます」
そうこうしているうちに、いつの間にか入学式が終わっていた。
副校長先生が閉式の言葉を言った後、退場の指示に従い次々と新入生が退場して行った。
「じゃあ、またね!」
そう言って叶谷さんは僕より先に退場した。
「あ、ハンカチ…」
しまった。ハンカチを返すのを忘れていた。
洗って返すほうがいいか。でも今日使うかもしれないよな。
そんなことを思っている内に、僕たちにも退場指示がかかった。前に続いて退場し、指定された教室に向かった。
(教室)
ーガヤガヤ
教室に入るとまだ初日だと言うのに、クラス内でグループが出来始めていた。
「ああ、また始まるんだ。」
思わず口に出てしまった。中学の頃の、あの地獄のような日々がまた始まる。そう思うと、怖くなった。
高校では、静かに過ごそう。誰にも近寄らず。必要最低限で話す。
そう思った。
ーガラガラガラ(ドアが開く音)
「席についてー。初めまして、一年B組の担任になりました。阪野平雪です。これから1年間お前らの担任をする。よろしく!」
男の先生だった。20代後半ぐらいだろう。身長が高く、綺麗な顔立ちをしていてまるでモデルのような人だ。正直羨ましいと思った。
「では、自己紹介をしてもらおうかな。」
あ、これから本当に始まるんだ。
どんな日々になっていくのだろう。
こわい、でも。すこしだけ、ほんのすこしだけなぜか少しだけ楽しみな部分もあったんだ。