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ruruha
不思議の国のアリスをご存知だろうか。いや、知らない人は多分いないと信じているため、説明は省こう。
私は不思議の国のアリスが大好きなのだ。だから何度も読み返した。……ただ、まさかこうなるとは思わなかった。
「……私がなぜ、こんなところに」
不思議の国、と言って差し支えない空間に来ている。なぜかは分からない、目が覚めたらここにいたのだから。
原作通りに進むのか、はたまた私はアリスじゃないから上手に行かないのか……どちらにせよ、生きて帰れることを祈ろう。
まずは周囲を確認することにした。不思議の国とはいえ、原作の『不思議の国のアリス』と何か差異があるかもしれない。
道なりに進み、あたりを見渡す。それだけのことだ。歩いていると、何やら紅茶の香りがしてきた、すごく騒がしい。
「……お茶会、だろうか」
物陰から様子を伺ってみる。ウサギ……の耳が生えた少年が一人、もう一人、帽子を被っている少年と……机に突っ伏して寝ている少年が一人?
耳を澄ませてみれば、何か聞こえてきた。どうやら、彼らは「アリスがどこに行ったのか」について話しているらしい。今私が行っていいのか分からないが……とりあえず、挨拶してみよう。
「そ、そこの諸君……」
変な入り方をしてしまった。二人、いや、眠りネズミだと思われる少年も目を覚ましてこっちを見ている。気まずい。すごく気まずい。人生で一番気まずいかもしれない。
「……おや! おや! アリスじゃないみたいけど、まぁよかろう! いらっしゃい! ティーパーティーへ!」
「ん……うるさくしないなら、それでいい……」
「はは、眠りネズミは相変わらずだなぁ、まぁいいだろう。お嬢さん、こちらにおいで」
とりあえず、原作通りなら席が空いていないと言われてしまうが……。
「都合よく眠りネズミが椅子を出してくれるから、座れるよ!」
「え、ぼく……? まぁいいけど……」
眠りネズミ、と呼ばれている少年が指を鳴らすと、虚空から綺麗な色の椅子が出てきた。
「ささ、座りたまえ、君の名前を聞こうじゃないか」
「はは、アリスだったらどうするんだい?」
「それは……その時でしょ……」
とりあえず、言われるがままに椅子に座ってから、脳内で自己紹介の分を組み立てる。私は一番初めに自己紹介するのが苦手だ。前の人の構成を使いまわして自己紹介するのが常だから。
「有栖、と言う」
「アリス?」
「そう、有栖」
「アリスなんだ……」
「三月ウサギ、多分、アリスじゃなくて有栖の方だと思うよ、漢字の方」
帽子屋であろう少年が助け船を出してくれた。その通りだ。三月ウサギ……と呼ばれた方は、「あ」とでも言いたげな間抜けな顔をしている。
ぼーっと二人を眺めていたら、隣に座っていた眠りネズミが紅茶のカップを差し出して、もう一度突っ伏して寝始めた。彼はなかなか自由人なようだ。
そして、三月ウサギと呼ばれた少年が話し始めた。やけに明るく、やけに大きな声で、やけに壮大な身振り手振りをつけて。
「君はどうしてここに来たんだい? 君も白ウサギを追いかけてきたのかな? それともただ迷い込んだだけ?」
「……あー、私は、起きたらここに」
「じゃあ眠りネズミの知り合いじゃないか!!」
「え、ぼく……? ちがうとおもう……」
眠りネズミの、知り合い?この世界の人間と知り合いな気はしないのだけど……。
でも、眠りネズミと言われた少年はそれ以上を言わなかった。本当に知らないのか、覚えてないのか、はたまた面倒だから答えなかったのか。私には分からない。
「まぁ、いいよ、アリス」
「有栖だって言ってるじゃないか、三月ウサギ」
「……有栖。今度ハートの王に会いに行ってみなよ! 面白いよ!」
「……王?」
なぜ王の方なのだろうか。彼は相当……言っちゃ悪いが、影が薄かったはずなのだが。でも、この世界は不思議の国のアリスそのものではない可能性がある。なんせ、この三人も”少年”なのだから。
「そうだぁ、有栖、僕たちと一緒に行こうよ、王のとこ」
「私は嫌なんだけどね……」
「ぼく、二人が行くなら行く……」
……断れる雰囲気ではなさそうだ、とりあえず、頷いておいた。頷いただけなのに、三月ウサギと呼ばれる少年は飛び上がり「やったぁ!」と喚き。嫌だと言った割に、帽子屋と呼ばれる少年はティーカップを机に置いた。眠りネズミと呼ばれる少年でさえ、起き上がって前髪を整え始めた。
「さぁ、行こう、有栖」
「置いていくよ」
「あ、まって……」
「分かった、今行くよ……」
とりあえず、さっき眠りネズミが差し出してくれたティーカップを一気に飲み干してから、立ち上がって三人を追いかけた。紅茶の中身はアールグレイだった。変な物じゃなかったのが幸いと言うべきだろうか。
三人について行くと、尚更周りが”不思議の国”らしくなってきた。空が歪んだり、縮んだりしている。目が回りそうだが、置いて行かれるのはもっとまずいので、とりあえず、頑張ることにした。
そうやって長いこと歩いていると、黒と赤の城が見えてきた。……黒と赤?こっちの方でも、イメージと少し違うというか。私のイメージだと、白と赤なのだけれど。
「じゃ、ノックするよ、五回」
「それ前もやって怒られたじゃないか、三月ウサギ」
「ぼくがノックするから……ウサギは下がってて……」
眠りネズミが三回ノックをした。中から「入って良いですよ」という声が聞こえたため、三人で扉に手をついて、頑張って推そうとしている。……全く開きそうにない。
「あ、有栖ぅ……手伝って……」
「そ、そういえばこのドア、重いんだったね、はは」
「うぅ……」
なんだか可哀想になって来たので、とりあえず私も扉を押すために手を出した。全員でぐっと扉を押すと、ようやく、ゆっくりと開いた。中も赤と黒で飾られており、基本的に白というものが存在していないように見える。
中を覗くと、綺麗な男女がそこに立っていた。あれが女王と王なのだろうか。
「わ、わわ、えと、えと、どうも、ハートの王です、えへ、うへへ、会いに来てくれて、あ、ありがと、うへ」
「……気持ち悪いですよ、ハートの王」
「え、えへぇ、ごめんね、女王に怒られちゃった」
……想定外だった。まさかこんなことになっているとは思わなかった。ハートの王と呼ばれた男はハートの女王の腰に抱き着いているし、めっちゃ情けない声を出している。ハートの女王に至っては敬語を使っているじゃないか。原作との差異どころか、だいぶ変わっている気がする……。
「王、女王! 三月ウサギが紹介するね! これ、有栖」
「……アリス?」
「ハートの王、有栖です」
「あ、ああー……ごめんね、ごめんね有栖……うへへ、間違えちゃった……」
これ、私、原作の知識でやっていけるのだろうか……。
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