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「ご、ごめんなさい!どっちも微妙ですよねっ。なんかおばあちゃんが作ったおにぎりみたいで…っ」

「いや…」

おにぎりを見つめて考えている課長を見て泣きそうになる。

こんなハーフのきれいな人に、しそ味噌とおかかなんて…。せめておばあちゃんが送ってくれた鮭にすればよかった…!

しばらく迷ったあと、課長は味噌が頭にちょこんとついている方を取って、おそるおそる口に入れた。

うー、しそ味噌かぁ。お口に合うかなぁ…。

「…美味い」

「え」

「すごい美味い。なにこれ?」

「なに…って、しそ味噌ですけれど」

「シソミソ?知らねぇぞ、そんなの…」

とぼやくように言いながら、淹れたてのお茶をずずと一口。そしてまたがぶり。

へぇ…しそ味噌知らないんだ。

たしかに若者向けの具材じゃないだろうけど、ちょっとびっくり。

お総菜とかあんまり食べない人なのかな。それかすごい都会っ子とか。

「実家のおばあちゃんの味なんです。気に入っていただけるなんて意外です。けっこう渋好みなんですね」

「渋…うるさいな…」

あ、赤くなった。

これも意外で…なんかうれしい。

「この具材って、キミが作ったの?」

「あ、はい、一応…」

「キミ、ダメ社員だけど料理は上手なんだね」

ダメ社員は余計だけど…でも、味を褒められるのは素直にうれしい。

だって、なにをやってもドジなわたしが唯一まともにこなせることと言ったら、お料理しかないんだもの。

まぁ、働きづめのお母さんに代わってみっちり仕込んでくれたのはおばあちゃんだから、ちょっとお年寄り好みの味付けだったりするんだけど…。

「ありがとうございます。わたし取り柄ったらこれくらいしかないから、お世辞でもすごくうれしいです」

ぺこりと頭を下げると、課長はまた驚いたように目を開いて、そして穏やかに細めた。

あ、これ…。

昨日わたしに向けてくれたのと同じだな。

ふんわりとした、やさしい微笑…。

課長は、もしかしてすっごくお腹すいてた?って思うくらいあっという間に平らげてしまうと、次は頬杖をついて、ちびりちびりと食べるわたしをじっと見つめた。

「あの…なにか…」

「ううん」

と首を振りながらも、視線ははずさない。

なんだろう…緊張するんですけど…。

「よ、よかったら、わたしのも食べます?」

「いらないよ。もうキミが食べてるでしょ。もらったら、間接キスになっちゃう」

か、間接…

…墓穴を掘った…。

顔が火照るのを、湯呑に口をつけてごまかす。

けど…「間接キス」なんて言葉を聞いたせいで、思い出さないようにしていたことを思い出してしまった。

昨晩、唇に感じたほのかな感触…。

かぁあと熱くなって、ごくごくお茶を飲み干した。

わたしってば、なに考えてるんだろう。あれは誤解。妄想!キスなんて、されたわけがないのに…!

「ね」

「へ?」

「今度、キミの手料理食べてみたいな」

「え!?」

突然の言葉に、思わず叫んだ。

「俺、キミの料理気になっちゃった。おにぎりだけでこんなに美味いんだもん。ぜひ他のも食べてみたい。作り立てほやほやの」

「そんな!わたしの料理なんてお口に合いませんよ」

「食べてもいないのにそう言われてもなぁ。ね、一度でいいから。…困る?」

「…困ります…」

クスと笑ったその顔は、イジワルな表情を浮かべていた。

いかにも、わざと困らせてたのしんでいるような…。

無理だよ…こんないかにも普段からお洒落な料理を食べていそうな人に、庶民派料理なんて披露できるわけがない。ここはなんとしてもつっぱねなきゃ…。

と思ったところで、

「あ、もうこんな時間…!」

目に入った壁時計の時刻に目を見張った。いつのまにか九時を回っていた。

「ごめんなさい、もう最終の時間が」

「最終?ふふ、上手くはぐらかしたね」

「いえ、ほんとにバスの時間が…!」

「わかったよ。返事はまた訊くからそれまで考えといて」

また訊く?

また課長に会えるってこと?

すこし胸が高鳴った。

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