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麗太
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### 第五章:宿場の夜、剥がされる十四の仮面
特級魔獣の討伐と周辺の警戒。教官の監視がない初めての外征任務の「一日目」は、驚くべきことに何事もなく終わった。
大翔の先制索敵、怜のシステム書き換え、賢太や要の誘導。全員が「中の下」の普通の生徒を演じながらも、あまりに無駄のない連携のおかげで、魔物たちは自分たちがなぜ無力化されたのかすら気づかないまま完全制圧された。
その日の夜。まだ五日間も続くこの討伐旅の初日を終え、十四人は渓谷の麓にある古びた宿場町の一軒宿、その広い大部屋に集まっていた。
任務が呆気なく終わった安堵感から、部屋の中はいつも通りの賑やかな空気に包まれている。
「あー、マジで疲れた。魔力を抑え込んで戦うの、本当に肩が凝るんだけど」
水色の萌え袖をぶんぶんと振り回しながら、畳の上に寝転がったのは遼太だ。
「しょうがないよ、遼太。僕たちの完璧な連携のおかげで、怪我人も出ずに終わったんだからさ。はい、お茶」
ピンクの萌え袖から湯呑みを差し出す渉。
畳の上では、溯が相変わらずポテチをボリボリと食べ、それを翅が何枚か掠め取っている。
泰輝が持ってきた地元の銘菓をみんなに配り、それを要が豪快に笑いながら口に放り込み、圭介と瑠偉はどっちが早く制服を着替え終えるかで下らない小競り合いをしていた。
部屋の隅では倫太郎が本を片手に、鋭い視線で周囲の魔力残滓を鋭くチェックしている。
大翔の横では賢太が旅の荷物を几帳面に整理していた。
そんな、どこにでもある「仲の良い同級生たちの修学旅行の夜」のような空間。
しかし、その均衡を、灰色の萌え袖を捲り上げた蹴介の、何気ない一言が粉々に打ち砕いた。
「なぁ、お前ら。ちょっと前からずっと気になってたんだけどさ」
蹴介は座椅子にもたれかかり、顎をさすりながら、部屋の中にいる十三人の顔をぐるりと見回した。
「俺たち、浅草の買い出しの時からずっと下の名前の呼び捨てで呼んでるじゃん? 遼太とか、渉とか、怜とかさ。……だから、今更なんだけど、みんなの本当の苗字(本名)って何だっけー? って思って」
ピキ、と部屋の空気が一瞬で凍りついた。
全員が自分の本当の家系とチート魔力を完璧に隠している。本名を明かせば、その時点で「ただの優等生」や「地味なモブ」の仮面は崩壊する。
だが、ここで引き下がるような奴らではなかった。
誰も本当の姿を認めるわけにはいかない。十四人の壮絶な「偽名の張り合い」が始まった。
「……何言ってるんだよ、蹴介。僕の苗字は『小形』に決まってるだろ。理屈ばかりのクソ真面目な小形家だよ。忘れたのか?」
遼太が水色の萌え袖で顔を覆いながら、冷淡な優等生口調で真っ先に嘘をついた。
「そうだよ、蹴介。脳筋の君は僕の優秀な頭脳が弾き出した名簿を忘れちゃったの? 僕は『末田』だよ。ただのガリ勉眼鏡の末田渉」
渉がピンクの萌え袖を机に広げ、生意気に鼻で笑って偽名を重ねる。
「電算上、僕の苗字が『三上』であることは確定している。蹴介、君の記憶回路のバグを疑うよ」
怜が黒の猫耳フードを直しながら淡々と告げると、隣の泰輝も話を合わせた。
「そうだよ。僕は普段から『白田』って名乗ってるじゃない。普通の白田泰輝だよ」
「俺は『鳴海』だぞ。ただ周囲を静かに観察しているだけの鳴海大翔だ」
紫のフードの大翔が静かに言うと、隣の賢太もオレンジの萌え袖を弄りながら続けた。
「俺は『真下』だぞ、蹴介。真面目な真下賢太だ」
「……チッ、くだらねぇ質問してんじゃねぇよ。俺は『氷室』だ」
ネイビーブルーのフードの瑠偉が不機嫌そうにそっぽを向くと、緑のフードの圭介がその背中をガシガシと叩いた。
「そうだぜ! 俺は『桐谷』って名乗ってる桐谷圭介だ! 喧嘩がちょっと強いだけのヤンキーだぜ!」
「俺は『宇美』だ。ただの読書家の宇美倫太郎だけど、何か問題でもあるか?」
倫太郎がライトブルーのフードを跳ね上げ、男らしくハキハキとした口調で偽名を告げる。
「あ、ボクの名字は『高尾』だよ! いつもお気楽マスコットな高尾溯!」
溯が黄色のフードの耳をぴこぴこさせながら、ポテチを口に放り込む。
「……俺は『綿部』。全く目立たない黒曜寮の地味なモブ生徒A、綿部翅だ。これ以上俺に構うな」
翅が茶色の犬耳フードを深く被り、ソファーの隅で小さくなった。
「おう! 俺は普段から『橘』だ! 橘要! 俺は隠すことなんて何もねぇぞ!」
要が赤のフードを跳ね上げ、豪快に胸を叩く。
「へぇー、みんなそうなんだ。……じゃあ、最後に質問した君はどうなの、蹴介?」
みんなが必死に偽名を並べ立てて防御線を張る中、部屋の空気を完全に切り裂いたのは、黄緑の猫耳フードを揺らした秀兎だった。
秀兎はいつも通りの満面の笑みを浮かべたまま、顎に人差し指を当てて首を傾げる。
「みんな自分の苗字を言い張るけど、なんだか顔がすっごく引き攣ってるよねえ。ちなみに僕は普段『石田』って名乗ってるけど、本当は歴史の闇に蠢く、笑顔の暗殺一族、**石神 秀兎(いしがみ しゅうと)**だよ。僕はこうだよーあはは!」
笑顔のまま放たれた、一切の躊躇がない本物の殺し屋のプレッシャー。
秀兎の「僕はこうだよーあはは!」という狂気の暴露が、まだ旅の初日だというのに、全員の退路を完璧に断った。
「な……っ!?」
蹴介の目が飛び出しそうになる。
秀兎が最初にすべてを曝け出したことで、他の奴らも「まだあと四日もあるのに、これ以上普通のフリをして偽名を言い張るの、無理だろ……!」と限界を迎えた。秀兎の放つ殺気に当てられ、全員のプライドと隠蔽数式が完全に決壊する。
「……あー、クソ。もういい、降参だ。降参!」
最初に耐えきれなくなって前髪を乱暴に掻き上げたのは遼太だった。その瞳からクソ真面目な優等生の光が消え、局所重力を掌握する冷徹な天才魔術師の光が宿る。
「小形なんてのは偽名だ。僕の本名は、**如縣 遼太(じょがた はるた)**。天体魔術の如縣家直系だ。……蹴介、お前が余計なことを聞くからだ」
その瞬間、大部屋にいた全員の息が止まった。
「……あの『天体直列』の如縣!? 超名門の直系がなんでこんなところにいるんだよ!」蹴介が絶叫する。
「はるたんが認めるなら、僕だって隠さないよ。末田なんて僕の知性に似合わない。本名は、**千導 渉(せんどう わたる)**。千年の知性を紡ぐ千導家の直系さ」
渉がピンクの萌え袖をぶらつかせながら、生意気な男の子口調でフッと笑った。
「な、なんだって……!? あの魔導の最高峰、『万象解明』の千導!?」全員が驚愕に目を剥く。
「隠蔽数式の限界だな。僕の本名は、**御門 怜(みかど れい)**。絶対電算の御門家直系だ」
怜が眼鏡のブリッジをくい、と上げると、全員が声を失った。
「嘘だろ……あの世界のシステムを書き換える『絶対電算』の御門かよ……!」
「あはは,じゃあ僕も。僕は、調和魔術の至宝、**白金 泰輝(しろがね たいき)**。隠しててごめんね」
泰輝が白の犬耳を垂らしながら苦笑いする。
「白金!? 部隊全体の能力を限界突破させるっていう、あの伝説のサポート家系か!?」
「……じゃあ、俺も。本名は、**鳴神 大翔(なるかみ ひろと)**。神速索敵の系譜だ」
大翔が紫のフードを直し、すかさず「あの全戦域をコンマ秒で空間スキャンする『神速索敵』の鳴神か!?」と声が上がる。
「俺は、鉄壁闘気の**真壁 賢太(まかべ けんた)**だ。やっぱり偽名は性に合わなかった」
賢太がオレンジの萌え袖を捲り上げる。
「真壁! あらゆる物理・魔法攻撃を無効化する『鉄壁闘気』の重装アタッカー!?」
「ふん、馴れ合うつもりはねぇが、これ以上嘘をつくのも癪だ。俺の本名は、**氷狼 瑠偉(ひょうろう るい)**。孤高の暗殺系譜、氷狼家直系だ」
瑠偉が不機嫌そうに毒づく。
「氷狼家……! 大気を凍らせる青白い魔力を放つ、あの天災級のプロ暗殺者!?」
「あはは! 面白ぇ! 俺は、**桐生 圭介(きりゅう けいすけ)**! 唯我独尊の格闘覇者、桐生家だ!」
圭介が魔拳を爆縮させて笑う。
「あの『唯我独尊の格闘覇者』、洗脳すら力ずくで殴り飛ばす戦闘狂の桐生!?」
「おいおい、お前らだけで驚いてんじゃねぇぞ! 俺の番だ!」
倫太郎がライトブルーのフードを力強く掴み、鋭い眼光を全員に向けた。
「俺の本名は、**宇佐美 倫太郎(うさみ りんたろう)**。大気を物理的に完全凍結させる、宇佐美家の氷結魔術師だ!」
倫太郎の積極的な咆哮に、部屋全体が震える。
「あの絶対零度を統べる隠れ名門、最強の氷結魔術師『絶対零度』の宇美……いや、宇佐美かよ!」
「あ、ボクはね、**鷹神 溯(たかがみ さく)**だよ! 隠密暗殺一族の鷹神家直系! 高尾は偽名!」
溯が黄色のフードの耳をぴこぴこさせると、全員が身構えた。
「『鷹神流・空間断裂』……! 標体を空間ごと細切れにする、あの星界の切り裂き魔!?」
「……はぁ。モブの平穏が終わった。俺の本名は、**飛影 翅(ひえい つばさ)**。戦闘名門、飛影家の直系だ。神速体術の使い手だよ」
翅が諦めて茶色のフードを脱ぐ。
「あのマッハを超える神速の体術、『絶対領域唯我独尊』の飛影!?」
「がはっ! だから俺は最初から、重剛魔剣の**橘 要(たちばな かなめ)**だって言ってるだろ! 一振りで戦場を両断する橘家だ!」
要が赤のフードの下で豪快に笑うと、全員が「それは知ってたけど、やっぱりあの橘家の豪傑かよ!」と納得の声をあげた。
大部屋の中は、日本魔術界を統べる最高峰の家系たちの、真の魔力密度で満たされ、空気がビリビリと震えていた。
「お前ら……全員、さっきまで普通の生徒のフリして偽名言い合ってたのは全部嘘だったわけかよ……。……はは、笑えてくるぜ」
蹴介は頭を抱えて苦笑いしたあと、不敵にニィッ……と、狂犬のような獰猛な笑みを浮かべた。灰色の萌え袖を限界まで捲り上げ、その驚異的な肉体硬化の片鱗を畳の上に叩きつける。
「じゃあ、最後に俺の本当の姿も教えてやるよ。大土なんて苗字はただの仮面だ。俺の本名は、**大神 蹴介(おおがみ しゅうすけ)**。狂犬と恐れられる戦闘名門、大神家の直系だ! 空中を縦横無尽に飛び回る格闘術を見せてやるよ!」
「な……ッ!? あの『三連獣牙烈脚』の大神家!?」
旅はまだ一日目が終わったばかり。あと五日もあるというのに、最初の夜にしてすべての仮面が剥ぎ取られ、十四人の本名と世界を揺るがす天才魔術師としての正体がすべて明かされてしまった。
### 第六章:真夜中の召集、失われた記憶の断片
全員の本名が明かされ、驚愕と興奮の夜が更けた午前2時。
消えたはずの暖炉の残り火が妖しく部屋を照らす中、蹴介は音もなく布団から起き上がった。その鋭い眼光は、部屋のあちこちで息を潜めている「影の者たち」へと向けられる。
「……おい、暗殺者の家系、ちょっと面貸せ」
蹴介の低い声に応じるように、四つの影が同時に起き上がった。
ネイビーブルーのフードの瑠偉、黄色のフードの溯、黄緑のフードの秀兎、精度ライトブルーのフードを跳ね上げた倫太郎だ。
五人は他の九人を起こさないよう、大部屋の奥にある月明かりが差し込む縁側へと移動した。
「夜中に何の用だ、蹴介。俺たちの命を狙う刺客の索敵なら、大翔がとっくに済ませてるはずだぞ」
瑠偉が不機嫌そうに腕を組み、冷たい魔力の残滓を指先から弄ぶ。
「いや、違う。俺の『大神流』の戦闘勘が、どうしてもお前らの魔力の『繋がり』を無視できねぇんだ」
蹴介は灰色の萌え袖を捲り上げ、真剣な目で四人を睨みつけた。
「お前ら、さっき本名を明かした時、『氷狼』『鷹神』『石神』『宇佐美』の暗殺名門だって言ったよな。……でもな、お前らの魔力の波形、名門同士の親和性ってレベルじゃねぇ。血が繋がってんだよ」
「……え?」
いつもニコニコしている秀兎の笑顔が、初めてぴたりと止まった。
「何を馬鹿なことを。僕たちはそれぞれ違う家系の直系として育ったはずだ」
倫太郎が男らしい口調で一歩前に出ると、その足元からパキパキと鋭い氷の結晶が床を走る。しかし、蹴介は引き下がらない。
「じゃあ説明してみろ! なんで瑠偉の『大気を凍らせる青白い魔力』と、倫太郎の『大気を物理的に完全凍結させる氷結魔術』の根源が、コンマ1ミリのズレもなく完全に同調してんだよ! お前ら、ただの暗殺仲間じゃねぇ……**瑠偉と倫太郎、お前ら本当は『実の兄弟』だろ!!**」
その言葉が縁側に響いた瞬間、瑠偉と倫太郎の脳裏に、強烈なノイズが走った。
『――兄さん、置いていかないで!』
『……生き延びろ、倫太郎。俺たちの血を、闇の中で絶やすな』
白銀の雪山、炎に包まれる古い屋敷、そして引き裂かれた幼い日の記憶。
「……頭が、割れそうだ……」
瑠偉がネイビーブルーの萌え袖で頭を抱え、倫太郎もまた、鋭い視線を彷徨わせながら壁に手をついた。二人の抑え込んでいた膨大な氷結魔力が共鳴し、宿屋の縁側が一瞬でダイヤモンドダストに包まれる。家系の断絶によって幼い頃に記憶を消され、別の名門へと引き取られた「実の兄弟」の絆が、今、蹴介の言葉によって強制的に蘇り始めていた。
「あはは……じゃあ、ボクたちの、この『空間を細切れにする断裂』と『無音の葬送』の不気味な親和性は、何かな?」
秀兎が冷や汗を流しながらも、どこか切なげな笑みを浮かべて溯を見つめた。
溯もまた、黄色のフードの耳をぴくぴくと震わせ、いつも食べているポテチの袋を床に落とす。
「……気づいてたよ、秀兎。ボクの空間断裂の歪みベクトルと、秀兎の無音葬送の絶対領域、最初からパズルのピースみたいに噛み合ってたもん。……ボクたちも、元々は同じ闇で生まれた『兄弟』だったんだね」
四人の暗殺者の少年たちの間に、失われていた「本当の家族」の記憶が、濁流のように流れ込んでいく。
由鷺ノ宮に集められた彼らは単なる名門の直系ではなく、歴史の闇によってバラバラに引き裂かれた、血の繋がった「兄弟たち」の集まりでもあったのだ。
「……おいおい、マジかよ」
蹴介は四人の覚醒する魔力密度に圧倒されながらも、ニィッと獰猛に笑った。
「やっぱりな。浅草の買い出しの時、一人の不安に怯えてたお前らが一瞬で下の名前の呼び捨てで呼び合うほど仲良くなったのは、魂と血が最初からお互いを求めてたからなんだよ」
「……ふん。お前のお節介のせいで、余計なことを思い出しちまったじゃねぇか、蹴介」
瑠偉が涙を拭うようにフードを深く被り直し、その隣で倫太郎が「兄さん」と静かに、しかし力強くその肩を抱き寄せた。
秀兎と溯も、黄緑と黄色の萌え袖をパタパタとさせながら、お互いの存在を確かめ合うように笑い合っている。
### 第七章:二日目の『全滅通知』と、静かなる怪物たち
翌朝、夜明けとともに宿を出た第一班の空気は、前日とは明らかに違っていた。
お互いの「天災級の本名」を明かし合い、さらに真夜中には暗殺者組の失われた兄弟の記憶まで呼び覚まされた十四人。お互いを下の名前で呼び捨てにするその絆は、単なる同級生から、切っても切り切れない強固なものへと変貌を遂げていた。
「二日目のルートも僕が完璧に逆演算してあるよ、遼太。普通の生徒のフリをして、サクッと次のポイントまで進んじゃおう」
渉がピンクの超ロング萌え袖をパタパタさせながら、隣を歩く遼太に不敵な笑みを浮かべた。
「あぁ、渉。僕たち如縣と千導の力がバレた以上、もう誰にも舐めプはさせない。……とはいえ、この機能性を損なう水色の萌え袖パーカーだけは、歩くたびに風の抵抗を受けて本当にイライラするがな」
遼太が水色の猫耳フードを弄りながらため息をつく。
その後ろでは、昨夜「実の兄弟」であることを思い出した瑠偉と倫太郎が、ネイビーブルーとライトブルーのフードを揺らしながら並んで歩いていた。
「……おい倫太郎、寒くはねぇか。大気が弛緩してやがる」
「大丈夫だ、兄さん。俺の氷結魔術で、いつでも周囲の警戒は怠っていない。……誰にも俺たちの居場所は、もう指一本土させないよ」
倫太郎が男らしい口調で力強く応じ、二人の足元からは微かに冷たい霜が降りていく。
そのすぐ横では、溯が黄色のフードの犬耳を揺らしてポテチをボリボリと食べ、黄緑のフードの秀兎が満面の笑みを浮かべながら「あはは、二日目も楽しいねえ」と、いつでも無音葬送を展開できる指先を遊ばせていた。
旅は順調そのものだった。
大翔の全戦域スキャンによって魔物の位置はすべて事前に把握され、要の豪快な突撃と賢太の鉄壁闘気、圭介の爆縮魔拳、翅の神速体術の連携により、襲いかかる魔獣たちは傷一つつけられることなく、不殺の鉄則通り完璧に行動不能へと追い込まれていく。
だが、午後3時を過ぎた頃。
渓谷の深い霧が十四人の視界を白く染め上げたその瞬間、彼らの魔導端末が一斉に、不気味な赤い光を放って激しく震えた。
ピィィィーーーッ……!!!
静寂を切り裂くような高音の警告音。画面に浮かび上がったのは、冷酷な一文だった。
『緊急警告。高等部1年・第三班、渓谷北東部にて【全滅】。魔力回路の完全大破を確認。繰り返す、第三班、全滅――』
「……っ、全滅通知!?」
灰色の萌え袖を捲り上げながら、蹴介が思わず声を荒らげた。
周囲の空気が、一瞬でピリッ……と肌を刺すような極限の緊張感に包まれる。
他の一年生が、旅のわずか二日目にして、跡形もなく文字通り「全滅」させられたという事実。
だが、普通の新入生なら恐怖で足を震わせるであろうその局面で、第一班の十四人の反応は違っていた。
「……大翔、生体波形のスキャンを」
怜が黒の猫耳フードの下から眼鏡のブリッジをくい、と上げ、網膜の電算画面を起動する。
「……終わってるよ、怜」
紫のフードを深く被った大翔が、瞬き一つせずに霧の奥を睨みつけた。
「北東部2キロ地点に、第三班の魔力残滓。生存信号は微弱だが、学校のルール通り『死んではいない』。……ただ、彼らをハメ倒した敵の魔力反応が、まだそこに残ってる。数は一つ。だが、特級魔獣の比じゃない」
「へぇー、面白いじゃん」
秀兎がいつも通りの満面の笑みを浮かべ、黄緑の萌え袖をパタパタさせた。その瞳の奥には、一切の躊躇がない現役の殺し屋の、冷酷な光がギラリと宿っている。
「上級生の仕掛けた罠か、それとも本物の不届き者か知らねぇが……」
要が背中の巨大な魔剣の柄に手をかけ、不敵に笑った。
「他の一年生が全滅しようが関係ねぇ。俺たちのこの第一班には、一切の問題も隙もねぇんだよ。なぁ、お前ら!」
「当然だ、要。僕たちの『絶対電算』と『万象解明』、そして如縣の重力が揃っているんだ。全滅の判定など、僕たちの数式には存在しない」
怜と泰輝が言葉を交わさずとも完璧に視線を交わし、防壁数式の構築をノータイムで完了させる。
「馴れ合うつもりはねぇが、俺たちの旅の平穏を邪魔する奴は、全員まとめて氷狼流のサビにしてやる」
「おう、瑠偉! 先陣は俺が拳でぶちのめしてやるぜ! ガチバトル、最高に楽しもうじゃねぇか!」
瑠偉がぶっきらぼうに毒づき、圭介が緑の萌え袖の中で魔力を爆縮させて獰猛に笑う。
全滅通知によるピリついた空気は、彼らにとって恐怖ではなく、むしろ「本物の力を解放するカウントダウン」に過ぎなかった。十四人の化け物たちは、誰一人として動じることなく、静かに、しかし圧倒的な殺気を内に秘めたまま、二日目の目的地である渓谷の洞窟へと足を進めた。
コメント
2件
おぉどうなるんだ!✨️
わあ…もう読んじゃいました!第二章、すごく好きです。 まず、全員が偽名を主張し合うシーン、あの駆け引きが本当に面白かったです。秀兎くんが「石神(いしがみ)だよー」ってあっけなく本名をばらすところ、あの圧がたまらなかったです。「あはは!」の笑顔で全員の退路を断つ…職人技だなって思いました。 それから、夜中の暗殺者組の兄弟の記憶が蘇るシーンは…胸がぎゅっとなりました。瑠偉くんと倫太郎くん、溯くんと秀兎くんが血の繋がりに気づく場面、読んでいて自分も温かい気持ちになりました。 「全滅通知」が入った瞬間の第一班の冷静さも好きです。他の人がパニックになる中で「面白いじゃん」って笑える秀兎くん、やっぱり只者じゃないですね。 連載、毎日楽しみにしていますね! 次はどんな化学反応が起きるのか、わくわくしてます🌷