テラーノベル
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街道に立ち往生している馬車。用心しながら近づくセラとマルグルナ。
馬が二頭、馬車を牽引できる状態だが、やることもなく所在なさげに突っ立っている。だが、肝心の人の気配がなかった。……馬車の所有者や御者はどこにいるのか?
「……おい」
唐突だった。馬車荷台から、ふらりと手が上がった。どうやら荷台の中に伏せているか横になっていたのだ。
「……助けて……」
か細いが男性の声だった。怪我が病気で横になっているのか。
セラは雪を踏みしめ、馬車へと駆け寄った。そして荷台を覗き込めば、外套をまとった四十代くらいの男性がうつ伏せになっていた。
「大丈夫ですか!?」
セラは荷台に上がる。男性は顔をゆがめた。
「ああ、大丈夫……。大丈夫じゃないのは、アンタのほうだ!」
傍らの袋から素早く取り出されたのはクロスボウ。立ち上がった男は狙いをセラに向け――硬い衝撃に手にしたクロスボウが弾かれた。
「!?」
見れば、セラは銀魔剣を抜いていた。その一撃が飛び道具を跳ね飛ばしたのだ。
「もう一度聞きますが、大丈夫ですか?」
「はは……参った、な!」
男は素早く荷台から飛び降りた。そのまま馬車を置いて逃げる。
「あ、ちょっと……!」
呼び止めるセラ。だが次の瞬間、男は立ち止まり振り返った。
「大丈夫かって? 俺たちは大丈夫だ」
雪を払いのけ、突然、隠れていたらしい者たちが馬車の周囲に現れた。全員黒装束に身を固め、半分が剣や斧の近接武器、残る半分がクロスボウを構え、セラたちを狙う。
「……よくないことが起こる予感はしてた」
セラは唇を噛み締める。マルグルナも短剣を抜いて、周囲を睨みつつ口を開いた。
「思ったより数が多いですが……いかが致しますか?」
「それは相手次第ね。……あなたたち、こんなことをしていったい何のつもり?」
黒い衣装の武装集団――盗賊か。一瞬トラハダスかも、と思ったが、それとも違う雰囲気である。
先ほどの男が腰に手を当てて答えた。
「ふむ、盗賊まがいのことをしている。こうやって街道で待ち伏せて、積荷を奪い、基本的に人間は殺すが、有益な人物に関しては、船に乗せて誘拐する」
「……それは、まがいではなく盗賊では?」
セラは剣を握る手に力を込める。男は「確かに」と頷いた。
「だが、俺たちは盗賊ではないんだ。それより、あんただが――」
男はセラを指差した。
「その剣、魔法剣と見た。ライガネンの騎士か?」
「答える必要はあるのかしら?」
「……騎士ではないのか?」
男は小首をかしげた。
「大抵、騎士というのは聞かれたら己を誇示する輩ばかりだと思っていたが……。まあいい、この状況だ。死にたくなければ武器を収めろ。とりあえず殺さずにいてやろう」
「とりあえず、ということは、投降したら殺すかもってことじゃないかしら?」
「かもな。俺たちは、ライガネンの連中が街道封鎖に本腰を上げて対策しようとしているか知りたくてね。あんたがその情報に通じている者だといいが」
――この連中はいったい何を言っているの?
セラは怪訝に思う。本当に盗賊とは違うような口ぶりだ。
「仮に知っていたとしても、素直に答えると思って?」
「素直に答えてくれなければ、拷問するだけだ」
あっさりと男は言い放つ。セラは口もとを引きつらせた。
「そう言われて、素直に降伏する者がいるかしら?」
「だが降伏しなければ、ここで死ぬだけだぞ? こちらは十人、あんたたちは二人だ」
クロスボウを持った者たちが、セラとマルグルナに狙いを定める。包囲されている以上、前はともかく後ろから撃たれては、避けようがない。……状況は圧倒的に不利だ。
「姫様」
マルグルナが小声で言った。
「馬車のそちら側の敵を相手にできますか?」
「……」
「背後の敵は私が引き受けます」
何とも頼もしい。セラは小声で返した。
「クロスボウの一射をそらす隙さえあれば」
現状、少しでも動けばたちまち射殺されるだろう。わずかでも敵に隙ができれば。
「それについてはお任せを。合図したら馬車から前へ飛び降りてください。それで背後からは死角になります」
「前は、自力で何とかしろってことね……わかったわ」
で、合図は? ――セラが視線を前方に向けた時、マルグルナは言った。
「今です」
その瞬間、マルグルナの足元、雪の中から鋭いトゲのようなものが飛び出し、馬車後方でクロスボウを構えていた三人に襲い掛かった。
うわっ!? ――後ろで敵の悲鳴を聞いた時、セラは手はずどおり、馬車を飛び降りた。
馬車の後ろで起きたことに、前にいた者たちも一瞬注意を引かれたため、クロスボウ持ちのセラへの射撃が一テンポ遅れた。
それで充分だった。セラは馬車を飛び降りた瞬間、彼女を捉えきれなかった矢弾がかすめ、荷台の木枠に刺さった。
クロスボウは狙いを定めるのは比較的容易で威力も高い武器だが、一度放つと矢を装填するのに隙ができる。とくに今のような両者のような距離が短い場合は。
セラは左手に光の弾を具現化させ、それを放った。魔法の一撃で、まず射撃武器持ちを撃ちぬく。
次――セラは距離を詰めつつ、次の相手を素早く見やる。
リーダー格とおぼしき先ほどの男と、もう一人が近接武器を手に向かってくる。クロスボウ持ちは装填作業にかかっていた。前衛と後衛で役割分担がきちんとされている――明らかに戦い慣れている行動。
――それなら!
セラは左手に集めていた魔力を変換。迫ってくる敵前衛めがけて目くらましの閃光。
狭い範囲だったといえ、不意打ちの目つぶしの光に近接戦の二人は怯み、目を覆った。……すぐそこに『敵』がいるのに。
セラはすれ違いざまに、黒装束の戦士を銀魔剣で斬りつける。光を宿らせていないので、その切れ味はいつもの一刀両断とはいかない。だがそれに頼らずとも、致命傷を与えられる程度の腕前ある。
刃で斬ったので血が飛んだが、セラは構わなかった。まだ敵がいるのだ。二人を切り伏せさらに前へ。
クロスボウ持ちの一人が、ちょうど装填作業を終え、その台座を向けたまさにその時、セラが目の前に迫り、銀魔剣の一撃がその命を絶った。
最後――セラの視線は、残るクロスボウ持ちへと向く。こちらもたった今、装填作業が終わったところだ。踏み込むには、やや距離があり、その間に撃たれる。そうであるなら、撃たれる前に撃つ!
セラはそのまま駆け抜けつつ、左手に再び魔力を集める。光の槍は形成にわずかに時間がかかるので、すぐに撃てる光の弾を形成。横になぎ払うように腕を振るいながら投射。セラの動きにあわせ狙いをつけていた敵より先に光弾を叩き込んだ。
「これで全部――」
セラは軽く上がった息を整えつつ、馬車後ろで戦っているマルグルナのほうへ視線を飛ばす。援護が必要か。彼女にも五人の相手を押し付けているが――
「姫様!」
そのマルグルナが、セラへと突進するように飛び込んできた。
「え……?」
驚いた時には、セラはメイドに押し倒されていた。雪に背中から突っ込み、何故自分が銅色に染まりつつある空を見上げているのかわからなかった。
「マルグルナ……」
彼女を起こすべくその身体――腰に手を当てたとき、奇妙な硬い突起に気づいた。
もしや――慌てたセラは、マルグルナの腰にクロスボウの矢が刺さっているのに気づいた。――私を庇ったのだ!
「マルグルナ!」
「ご無事で、よかった……」
撃った奴は誰だ! 周囲に視線を飛ばせば、何故か黒装束の者たちが六、七人ほど。
黒装束は全部で十人。セラが五人、マルグルナが五人引き受け、うちセラは割り当ての五人を倒したわけだから、人数が合わない。それはつまり。
――まだ、他にも伏せていた敵がいた……!
あのリーダー格の男が、嘘の人数を言っていたのだ。
馬車の荷台に一人が上がり、残りは左右からセラたちを囲むように展開する。敵の数、十人――
コメント
1件
第249話、めっちゃハラハラしました!黒装束集団との偽装工作が巧妙で、セラの機転やマルグルナの献身的な動きにグッときましたね。特にマルグルナが矢を庇った場面は胸が熱くなりました……。敵の人数が増えてからの展開も緊迫感が増して、続きが気になって仕方ないです!柊遊馬さんの手際良い伏線の置き方と戦闘描写、とても良かったです。次話も楽しみにしてますね。
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紅優
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