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「アベルさん。あれは……」
ダンジョンに入って数時間。通路は区切られたように開けた場所へと続いていた。
その奥は袋小路になっていて、カインの指さした突き当りの床が青白く発光している。
「下層へのゲート……だな」
ダンジョンには階段というものがなく、各階に転移ゲートがあるのみ。
青白く光るゲートは下層へ、黄色に光るゲートはダンジョンの入り口へと繋がっている。
つまり、下りるのに時間はかかるが、帰りは一瞬で脱出することが出来る。
「これで目的の半分は達成だ。よし、引き返すぞ」
あとは戻りながら脱出用のゲートを探すだけ。いや、すでに他のパーティーが見つけているかもしれない。どうやら今日中に帰ることが出来そうで一安心した。
「おい!どこへ行くんだ!」
すでに引き返そうと振り返っていた俺の背後でカインの声がした。
慌てて振り向くと、クロードのパーティー四人が広間の中へと侵入し、その先のゲートに向かって走っていくのが見えた。そしてそれを追うカインたち。
「せっかくのチャンスを見逃せるかよ!俺たちは下へ行くぜ!」
カインたちを振り切ろうとゲートに向けて走るクロードたち。おいおい、勘弁してくれ。カインたちは止めようとしてるんだよな?一緒に下りるつもりじゃないよな?
もしも下りてしまったら、彼らだけで戻りのゲートを探さなければならなくなる。このランクのダンジョンならそれほど問題ではないかもしれないが、それでも俺の責任としては連れ戻しにいかなくてはならない。
せっかく早く帰れると思ったところだったんだから、これ以上の面倒は起こさないでくれよ。
俺も二組のパーティーを追って走りだした。
すでにクロードたちはフロア中央辺りまで進んでいたので、どうやっても追いつきそうにはなかったが、それでも追わないわけにはいかなかった。
しかし走り出した瞬間、ダンジョン全体を地震のような激しい揺れが襲った。
前を走っていたクロードたちも一瞬立ちすくみ、慌てて足を止めた。クロードたちの顔には不安と警戒の色が浮かんでいた。彼らもこの揺れが何なのか理解しているようだ。
俺は今まで進んできていた通路を振り返るが、すでにそこに通路の姿はなく、ただ岩の壁が広がっていた。
「アベルさん!これはまさか!」
「ああ!ボスが出てくるぞ!全員戦闘態勢をとれ!」
下層へのゲートのあるフロアにはボスと呼ばれる魔物がいる。しかしそれは通常であれば五階層以下にしか存在しないはずで、こんな一階層から出現するなんて聞いたことがない。
「クロード!そこから離れろ!」
クロードたちの周辺の床が赤く輝きだす。その光は次第に大きく広がり始め、フロアの中央から半径十メートルほどの大きさにまで拡大した。
「何だよこれ!こんなデカい召還ゲートの見たことねーぞ!」
全速力で光から逃れたクロードが信じられないといった声を出す。
召喚ゲートから閃光のような光が天へと伸びる。
そしてその光の中に浮かび上がってくる巨大な影。
「ハンス!サレン!」
「おう!」
「支援します!」
カインの声に素早く反応する二人。
ハンスは大盾を持ち前衛に、サレンは二人に支援魔法をかけるべく詠唱を開始する。
イレギュラーにどれだけ対応出来るかも探索者としての資質であるが、そういう意味でもこの三人が如何に優れた能力を持ち合わせているのかが解る。
そして俺も剣を抜いて戦闘態勢に入った。
「なんだ……こいつは……」
逆にクロードたちは呆然と立ち尽くしたままで影を見つめている。チッ。
「クロード!ボケっとするな!」
俺が叫ぶと同時に光を突き破るように巨大な蛇のような頭が姿を現す。
一つ、二つ――合計三つの頭が鎌首を上げたような体勢でこちらを睨みつける。
「でかい……」
胴体の部分はまだ光の中にあって見えないが、突き出ている首の長さだけで十メートルはあるように見える。これほどまでに巨大な魔物は今まで見たことがない。
それが三匹いるのか?それとも……。
「カイン!鑑定を!」
ハンスが盾を構え、魔物から目を逸らすことなく後方のカインへ叫ぶ。
「駄目だ!さっきからやってるけど全部弾かれる!」
鑑定スキルが弾かれるということは、カインと魔物との間に大きなレベル差があるということ。
その差というのが、果たして今いるメンバーで協力すれば倒せる範囲の差なのかどうか……。
もしかしたら、今回の人生はここで終わるのかもしれない……。
せっかく転生したというのに、どうにもつまらない人生だったなと、半ば諦めの気持ちが湧き出してきたのを感じていた。