「おんりー!早く〜!」
「待ってよ!おらふくん!」
記憶に刻まれている、この日の記憶。
「あれ、なんだろう、これ…?」
道端に置かれている雪だるまの人形。
「可愛いね!」
そう言って触れてしまったおらふくんに、悲劇が舞い降りた。
このときは、こうなることなんて誰も想像してなかった。
その雪だるまは、突然動き出しておらふくんの頭の上に乗っかった。
「っ冷たいっ……‼」
真夏の夕方、まだ汗ばむほどに暑いはずなのに、おらふくんはそう言った。
少し前にいるおらふくんの髪の毛が、漆黒から雪色に変わっていく。
心配になって、顔を覗くと、真っ赤だったはずの瞳は、真っ青に変わってしまっていた。
「っえ…。おらふくん……?」
まだ子供だった俺には、何1つ状況を理解できなかった。
──ただ、あの人形だったものがニヤリと笑みを浮かべたのは、今でも震えるほど覚えている。
「んぁ………。」
目の前に映るのは、真っ白な天井だった。
………なんだ、夢かぁ…。
そう思って起き上がると、視界の端に青色の帽子と赤いマフラーを付けた雪だるまと、雪色の髪の毛の頭が見えた。
「あれ、おんりー。おはよう。」
俺の寝ているベッドを背もたれにして、ゲームをしているのはおらふくんだ。
「うわっ…。びっくりした……。いつからいたの…?」
朝からゲームとは、目に悪すぎる。朝ご飯は食べたのだろうか。着替えもまだじゃないか。寝癖は全くついていない。また寝れなかったのか?
「丁度10分くらい前からだよ。」
「朝ご飯は食べたの?」
「おんりー待ってたからまだ。」
ゲームしてる余裕があれば、ご飯食べてていいのに……。
そう言おうと思ったけど、やめた。傷つくかもしれない。
「ほら、先リビング行ってて。」
おらふくんは「はーい。」と返事してリビングへ向かった。
俺は、着替えと鞄を持って部屋を出た。向かった先は、洗面所。
顔を洗って、軽く髪の毛を整える。
深い緑髪がサラリと揺れた。黄緑色の目は、今日も気持ち悪いほどに綺麗に瞳孔を映し出していた。ちゃちゃっと着替えて、リビングに行く。
リビングに行くと、おらふくんがまだゲームをしていた。
それを無視して、朝ご飯を作り始める。適当に目玉焼きだけで良いか。
卵を割ると、運が良いことに双子だった。いや、ここで運を使い切ってしまったかもしれない。
フライパンに蓋をして、いい感じに焼き上がるまで待つ。
その間に、スマホで天気を確認しようと思い、スマホを開く。
すると、一番に出てきたのはホーム画面ではなく検索欄に「雪女病 治療法」と書かれているサイトだった。
そうだ。昨日はこれを調べてたら寝てしまってたんだ。
目的の天気を確認する。今日も太陽マークがついていた。
「おらふくん、今日も晴れだよ。」
「えぇっ、梅雨の時期なのに全然雨降らないじゃん。」
雨が好きな人なんてあまりいない、と思っただろう?
おらふくんも、俺も、雨は好きじゃない。
湿気を感じるこの季節の雨は、俺とおらふくんは大嫌いな時期だ。
でも、雨になってほしい理由がある。
「こんな晴れ続いたら、俺いつか火傷するよ……。」
おらふくんは、雪女病という奇病を抱えている。
雪女病は、日向に行くことができない。日向へ出ると、火傷してしまう。暑すぎて。いや、どちらかと言えば、おらふくんが冷たすぎて。
それは、あの雪だるまの妖精……雪だるまくんに聞いたそうだ。
俺は、声を聞いたことはない。おらふくんだけが雪だるまくんと話せるそうだ。おらふくんが言っていた。
思考を巡らせてる間に、目玉焼きが焼けた。少し焦がしてしまったが、しょうがない。
俺たちが2人きりで同居しているのは”バレない”ためだから。
教室に入ると、すぐに教室は静まり返った。
おらふくんの席の近くにいた人は、ササッとどいていった。
俺とおらふくんの席は、少し離れているからここからはおらふくんの表情は見えにくい。
だけど、おらふくんが傷ついたことは分かった。俺の寿命が縮まったから。
俺は自分の机を持って、おらふくんの席に行く。
おらふくんの席と俺の席を入れ替える。案の定、おらふくんの席には黒いマジックで悪口がいくつも書かれていた。
バレないため、と言いつつも、もうバレてしまっている。
少なくとも、親には心配かけまいと同居している感じだ。
廊下の方から、こちらを見る気配がした。多分、陰口なんだろうな。
だけど、俺はおらふくんと机を入れ替えて、自分の席へ戻った。
廊下にいるのは、気配からして6人ほど。多分、このクラスのA軍共だろう。
まぁ、陰口ならいいか。
俺は俺の寿命が縮まるのをお構いなしに、おらふくんへの陰口を無視した。
コメント
6件
新連載だぁ! おんりーも寿命が縮む奇病...?もってるのかな?
新連載おめでとうございます!(?)おんりーの寿命が縮まる...?見たところドクンッって言ったら縮まるっぽいな...おんりーもなにか奇病を抱えてるんですかね...?