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次は体育の授業だ。おらふくんはあからさまに嫌な顔をする。
体育の先生には、おらふくんが日向に出られないのはもう知っている。
だが、雪女病なのは知らない。
「今日は体育、何やるの?」
おらふくんが興味ないであろう事を聞いてきた。俺が黙っていたから、沈黙に耐えられなかったのだろう。
「サッカーだった気がする。蒸し暑いから嫌だなぁ。」
梅雨の時期だからか、朝からもの凄い湿気だ。雨は全然降らないけど。
「おんりー、サッカーできるの?」
「うーん……。そこそこかなぁ……?」
おらふくんは笑顔で「応援してるね!」と言う。
と、突然後ろから何かが倒れる音がした。
「あははっ!お前、大丈夫かよ?」
どうやら、クラスの陽キャ共の1人が豪快に転んだらしい。本人はケラケラと笑っているが、本当は相当痛いだろう。
………おらふくんを傷つけるからだよ。
俺は心の中でそう呟いた。
蒸し暑い。朝、登校してきたときよりも湿気が増している。
服が肌にくっつく感触が嫌になる。早く終わってほしい。
おらふくんは、校舎の物陰で雪だるまくんとお喋りしているようだ。
「今から、10分間の休憩に入る!熱中症にならないように注意しろー。」
体育の先生の笛と言葉の合図で、みんなが走って校舎の陰に入っていく。
俺も日陰に足を踏み入れる。急激に汗が冷えて気持ちいい。
水分補給をしていると、おらふくんの後ろに誰かがいるのに気がついた。
いじめっ子だ。男子3人。
おそらく、おらふくんを日向に突き出そうとしているんだろう。
俺は、そいつらの後ろに瞬間移動する。
────そう。瞬間移動だ。
「ねぇ、何やってんの。」
低い声で彼らに話しかけると、彼らはビクッと肩を揺らす。
「なっ…。お前、いつの間に…!?」
いじめっ子の声に気付いて、おらふくんがこっちを向いた。
「なに。おらふくんを日向に移動させようとしてたの?」
「えっ……?」
俺の言葉に、おらふくんは蒸し暑い時期だというのに顔を真っ青にする。
「おっ、お前には関係ないだろっ……!」
関係ないはずない。おらふくんは”大切な人”だから。
騎士病。
それは、俺に授けられた奇病。
今まで騎士病になった人は誰一人残らず、25歳までに死んでいる。
騎士病は、”大切な人”を絶対に守らなければ、という正義感に押しつぶされた人がなってしまう奇病だという。
俺の場合だと、おらふくんだ。
おらふくんは8歳、小学2年生の頃に雪女病になった。そんなおらふくんは、両親を雪女病で殺してしまっている。
雪女病になってしまった人の皮膚の温度は、信じられない程に下がるという。実際、何度か計測できないほどだ。雪女病になってしまった人に触れると、もちろん、皮膚が死ぬどころか、命に関わってしまう。
おらふくんは、それを知らずに両親に触れてしまい、おらふくんの両親は亡くなった。
それから、おらふくんは「悪魔の子」とされて遠ざけられるようになった。
そんなおらふくんを、俺は責任を持って守らばければ、と思っていた。そして、俺は9歳の頃。騎士病になった。
騎士病になった人は「大切な人」いわゆる守らばければならない人が1人できる。
そう。おらふくんだ。
大切な人が傷つくと、俺の寿命は縮む。
騎士病の呪いとして、大切な人を傷つけた人は、その代償の大きさの怪我をする。あの廊下で転んでた奴だ。
大切な人が傷つく度、俺の寿命は縮んでいく。戻ることはない。だから、騎士病になった人は若き年齢で死んでしまうのだ。
他にも、騎士病をもってる人は大切な人を守るために、何もないところから剣を出すことができる。恐ろしい能力だ。
守りきれなかった場合は、精神的に暴走してしまうんだそう。
剣士のように、敵の気配には敏感になる。気が抜けないな。
放課後、おらふくんとショッピングモールに来た。
「あのね、あのゲームでね……。」
他愛のない話をしながら2人で歩く。
おらふくんの話が面白くて、笑ってしまった。気が緩んでしまった。
その瞬間だった。
──ドンッ…。
その音と共におらふくんがよろける。
まずい。誰かがおらふくん”に”当たって来た。
「あぁあああ‼‼」
店中に響くような声で叫ぶぶつかってきた人。
その人を見ると、明らかに柄の悪そうな人だった。左肩をおさえている。左肩が当たったのだろうか。
「きゃぁああ‼」
「誰か!誰かぁっ‼」
悲鳴が響き渡る。おらふくんも俺も、唖然として動けない。
俺が、俺が……、気を抜いたから……っ!守れなかったっ……!おらふくんを…。
「あぁああ……!」
自分の不甲斐なさにうずくまる。
おらふくんは、俺の名前を繰り返し呼んで「ごめんね。」と言う。
違う、違う。おらふくんのせいじゃないんだ……!俺のせいで……。
「あぁああ……!」
おんりーは、頭を抱えてうずくまってしまった。
騎士病がおんりーの心に漬け込んで、暴走しているんだ。
「おんりー…?おんりー……。」
丸まったおんりーの背中を撫でたい。「大丈夫だよ。」って落ち着かせてあげたい。なんで、俺は何もできないんだ。
元々、俺が前を見てなかったから。そのせいで、あの人にぶつかってしまったんだ。俺のせいなんだ。
「おんりー、ごめんね…。」
俺が、おんりーを抱きしめてあげられたら……、おんりーは安心できるのだろうか。
俺の雪女病は、哺乳類に触れると相手が冷たくなってしまう。
だから、おんりーに触れてしまったら……。
「何があったんですか…!」
いつの間にか、警察が到着していた。終わりだ。俺はつれていかれる。
警察が目撃者から話を聞いていると、被害者は、
「あいつだ!あの、あの白髪と緑髪のやつだっ……!」
彼は痛みに耐えながら、必死に言葉を綴っていた。
違う…!違うんだ!おんりーは何もしてないんだ……。
警察がこちらに向かってくる。
はじめに、おんりーに手をかけようとする警察。俺は警察がおんりーに近づいた瞬間、おんりーの前に立って手を広げた。
「違うんです……。この子は、違うくて……。」
必死に違うと伝える。本当におんりーは何もしていないんだ。警察が歩いてくる。そして、俺に手を伸ばしてきた。
まずい、と思い、咄嗟に叫ぶ。
「触んなっ……‼‼」
その瞬間、警察が目の色を変え、無線で応援を呼んだ。
またたく間に俺とおんりーは警察に囲まれてしまった。そして、警察は俺を拘束しようとする。
「お願い!俺には触らないでっ…!見たでしょう?あの人を。」
警察はビクッと肩を揺らし、俺を人気のないところへついてくるように指示した。
俺は、おんりーをおぶって警察についていった。
コメント
3件
騎士病...!?なんかかっけぇ...!(?) え、待って?おんりー瞬間移動出来るん?いろいろと身体能力がずば抜けてますねw