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家庭の事情ってやつで。って、軽く言えるほど気楽なものでもない。 重たい身体をどうにか起こして、視線を腕に落とす。

そこには、昨日、衝動的にカッターナイフで引っかいてしまった細く赤い線が何本か、無言で存在をうるさいほど主張していた。

 痛みはほとんどない。でも、見ているだけで心の奥がじくじくと痛む気がする。

 見つからないように、慣れた手つきで包帯を巻いた。これももう、日常の一部みたいになってしまっている。

ようやく鞄の準備に取りかかる。


 落書きだらけでボロボロな教科書、ページの半分が取れかけているノート、多分布が擦り切れて中身が見えそうな筆箱。

 どれもこれも、他人に見せるには少し恥ずかしい状態だけれど、自分に言い聞かせる。「まだ使える」って。

 壊れても、買い替える余裕なんてない。だから、壊れる一歩手前まで使うのが当たり前になった。

シャーペンが3本…あれ? 昨日より1本減ってる気がするけど、まあ、気のせいかもしれない。気にしないでおこう。

 消しゴムは小さくなって、もう指の腹でつまむのもやっとだゴミになりそうだけど使えるからよし。芯ケースはまだ中身が残ってたはずだしいいや。あれ、何故かのりは見当たらないから、帰りに100均で買うとしよう。

 課題は昨日の夜、なんとか終わらせた。何故か隠されててすぐにできなくて焦っていた。内容が合ってるかは分からないけど、提出だけはしないとね。

 鞄は外側に落書きがべたべた書かれている。黒いマジック、赤いペン、何本も。洗ってもまた誰かにウザイほど書かれるから、もう諦めてそのまま放置している。

制服に袖を通す。少しくたびれてるけど、これでもまだ着られる。

 スマホで時間を確認すると、画面の隅に入ったヒビが光を反射してきらりと光った。

 それでも、まだ使える。壊れても、もうしばらくは我慢するつもりだ。

深く、ゆっくりと深呼吸をひとつ。

 息を吸って、吐いて、自分を整える。


「…よし、行こう。」



気がつくと、もう学校に着いていた。


 その瞬間、周りの音が少しだけ遠く感じられる。心の中で、今からまた一日が始まるんだと実感する。でも、身体が思うように動かない。足を引きずるようにして靴箱へ向かう。いつもの通り、誰かが仕込んだ画鋲のことなど、もう何も考えていなかった。

 上履きに手を伸ばした瞬間、鈍い痛みが指先に走る。













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