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ゆうき あきや
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#心理描写重視
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第94話、めちゃくちゃ癒やされました…!体長3mのヒグマを「ただの大型犬(たぶん)」って言い張るアキヤさんの適応力バグが最高ですw 小春ちゃんの松ぼっくりツッコミも鮮やかで、読んでるこっちまでぽかぽかした気持ちになりました。シロが頭の上でとろける光景、目に浮かびます。こういう「何もしない昼寝」が一番の贅沢だよなあ、としみじみ。ゆうきあきやさんの描く peaceful な空気感、大好きです!
第94話:ヒグマとの平和な昼寝〜最強のクッションと、ただの大型犬(たぶん)〜
猛烈な春の嵐が過ぎ去った翌日。
北海道十勝地方の限界集落は、嘘のように澄み切った青空に包まれていた。
嵐が運んできたチリやホコリがすべて洗い流され、新緑の木々はキラキラと太陽の光を反射している。
空気を胸いっぱいに吸い込むと、湿った土と若い草の、むせ返るような春の匂いがした。
「ふぁぁ……。今日は本当に、お昼寝日和ですねぇ」
縁側で、小春ちゃんが両手を大きく伸ばして背伸びをしている。
俺——アキヤは、温かいほうじ茶の入った湯呑みを片手に、庭のど真ん中を占拠している『巨大な物体』を見下ろしていた。
昨夜、猛烈な暴風雨から我が古民家をその巨体で守り抜いた、体長3メートルの巨大ヒグマである。
嵐が過ぎ去った後も、彼は森へ帰るそぶりを一切見せず、庭の芝生の上でゴロンと横たわり、平和な寝息を立てていた。
ブラッシングで整えられた茶色い毛並みは、春の陽光をたっぷりと吸収し、ふかふかに膨らんでいる。
「……昨夜の激務(防風クッション)の疲労回復のため、十分な休息が必要なようだな。需品科の観点からも、兵站の維持に休息は不可欠だ」
俺は湯呑みを縁側に置くと、庭へと降り立ち、ヒグマの巨大な背中へと歩み寄った。
ジンバルに固定されたスマホの画面では、三百万人のリスナーたちがその様子を固唾を飲んで見守っている。
『主、ヒグマに近づいていくぞww』
『寝込みを襲う気か!?』
『いや、あの主のことだ。絶対にまた何かバグったことをするはずだ』
俺はヒグマの背中の前で立ち止まると、おもむろにクルリと背を向けた。
そして、その巨大でフワフワの背中に向かって、全体重を預けるようにドスゥンと寄りかかったのだ。
「おお……。これは、想像以上の弾力と温かさだ」
高級ホテルのソファなど比較にならない。
大自然が作り出した、極上の生体クッション。
寄りかかった瞬間、ヒグマの分厚い毛皮が俺の体を優しく包み込み、じんわりとした体温が背中から伝わってくる。
『グゥ……』
背中に俺が寄りかかったのを感じたヒグマは、怒るどころか、気持ちよさそうに喉を鳴らして寝返りを打ち、さらに俺の体にフィットするように体勢を整えてくれた。
『ヒグマを背もたれにしてるううううう!!!!!』
『野生の王者をビーズクッション扱いする男www』
『しかもクマの方も完全に受け入れてるの草』
『これが限界集落の王の玉座か……』
「お兄さん、私も! 私もヒグマさんに寄りかかりたいです!」
小春ちゃんがパタパタと駆け寄ってきて、俺の隣でヒグマの背中にコテンと寄りかかった。
「わぁぁ……! すっごくあったかくて、フカフカですぅ……」
さらに、縁側から俺たちの様子を見ていた『もふもふ達』も黙ってはいなかった。
『ミャウ』
神獣シロが優雅に歩み寄ってくると、ヒグマの巨大な頭の上へとヒョイッと飛び乗る。
春の陽光を受けて神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――をキラリと輝かせたかと思うと、一番見晴らしの良い場所で心地よさそうにスライムのようにとろけ始めた。
『コンッ!』
『キュゥ!』
コン吉とコン次郎のキツネ兄弟も大喜びで駆け寄ってきて、ヒグマのフサフサの脇腹に潜り込み、黄金色の尻尾を抱えて丸くなった。
体長3メートルの巨大ヒグマ。
その上に乗る純白の神獣。
脇腹に収まる二匹のキツネ。
そして、それに寄りかかって目を閉じる俺と小春ちゃん。
種族の壁を完全に超越した、致死量レベルの『究極のもふもふ昼寝フォーメーション』が完成した瞬間だった。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A piece of heaven! Master, I will pay one million dollars for a 10-minute nap in that bear cushion!“(ここは天国か! 主よ、そのクッションでの10分間の昼寝に100万ドル払おう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”This is the most valuable relaxing asset in the world! My portfolio is nothing compared to this peace!“(これは世界で最も価値のあるリラクゼーション資産だ! 私のポートフォリオもこの平和には敵わない!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Akiya! Move over! I’m booking a flight to Hokkaido right now!“(アキヤ! 場所をあけて! 今すぐ北海道行きのフライトを予約するわ!)』
世界中のVIPたちが、画面越しに伝わってくる圧倒的な癒やしのオーラに狂喜乱舞し、極彩色のギフトを限界突破の勢いで投げ込み続ける。
春の陽気と、ヒグマの一定のリズムで上下する呼吸。
そして、頭の上から降り注ぐシロの極上のゴロゴロ音(マイナスイオン)。
俺の元・社畜としての研ぎ澄まされた警戒心は、この最強の平和空間の中で、完全にドロドロに溶け去ろうとしていた。
「……最高だな。これなら、何時間でも眠れそうだ」
「はい……。ぽかぽかして……すぅ……」
小春ちゃんは、すでに完全に夢の中へと旅立っていた。
コン吉たちも、ヒグマの毛皮の中で幸せそうな寝息を立てている。
俺もそのまま意識を手放し、一時間ほど深い眠りに落ちた。
……。
「……はっ」
自分のいびきで目を覚ました俺は、慌ててジンバルの画面を確認した。
配信は回ったまま、三百万人のリスナーが『俺と小春ちゃんと動物たちの集団昼寝』をただただ無言で見守り続けていたのだ。
『主が起きたww』
『最高に平和な一時間だったわ……』
『この配信、不眠症治療に絶対に効く』
『でかいクマに寄りかかって寝るなんて、童話の世界かよww』
俺は大きく伸びをして、首の関節をポキポキと鳴らした。
世界中のリスナーが、俺がこの童話のような奇跡の空間をどう締めくくるのか、画面越しに待ち構えている。
だが。
俺は寝癖のついた頭を掻きながら、元・社畜としての『どんな奇跡の昼寝にも屈しない鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……世界中の皆さま。俺たちが猛獣をクッションにして童話の世界を体現していると感動しているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『寝起き一発目からブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・もふもふ昼寝編ww』
『さあ、このヒグマのクッションをどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「皆さまは重大な勘違いをしています。俺の背後にいるのは野生のヒグマなどではありません。これは、極端な交配によって誕生した『ただの大きな犬種』です。おそらく、チベタン・マスティフやニューファンドランドの系統を引く、突然変異の超大型犬でしょう(たぶん)。ええ、犬が飼い主に寄り添って昼寝をするのは、極めて一般的なコンパニオン・アニマルの行動学に基づいた日常風景に過ぎません」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
いつの間にか起きていた小春ちゃんが、落ちていた松ぼっくりを俺の頭にパーン!と投げつけた。
「体重数百キロのチベタン・マスティフがどこにいるんですか!! しかも最後に(たぶん)って言って自信なさそうにしてるじゃないですか!! どう見たって山の主である巨大ヒグマが、お兄さんとシロちゃんに完全に懐いて甘えてるだけでしょ!! 自分の手懐けスキルを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの寝起き松ぼっくりスマッシュ炸裂www』
『ただの大きな犬種(体長3メートルのヒグマ)』
『突然変異の超大型犬(たぶん)』
『適応力バグおじさん、ついに生物の種族分類まで適当にごまかし始めるww』
『言い訳のキレが寝起きでちょっと鈍ってるの草ww』
俺の理不尽極まりない生物学的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ない物理ツッコミに、三百万人の視聴者たちは癒やしの余韻から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(良いベッドだったわね)』
ヒグマの頭の上で、シロが大きな欠伸をして目を覚ます。
ヒグマもまた「グゥ?」と首を傾げ、俺の顔を巨大な舌でザリッと舐めた。
「……まぁ、犬だろうとヒグマだろうと。温かくてよく眠れたなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、顔のヨダレをタオルで拭き取った。
莫大な富を持ちながらも、限界集落の古民家で過ごす日々。
「でかい犬(たぶん)」の背中に寄りかかり、神獣とキツネたちと一緒に昼寝をする。
このバグった世界で一番平和な俺たちの聖域は、春の優しい風に包まれながら、今日も最高に怠惰で温かい時間を紡ぎ続けるのだった。