テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「アベ、リョウ…ヘイ。綺麗な名前だね。でも長いから…リョウって呼んでいい?」
「…お好きなように」
「じゃ、俺も好きに呼ぶし、好きに呼んでね」
「…………」
カタン。小気味良い音に釣られ掌の隠しを外し、そちらを見遣る。いつの間にやら立てられていたテーブルに紅茶が置かれていて、そして、いつの間にやら俺は、椅子に腰を掛けていた。
……なんだ?どういう仕掛けだ…?
薄ら寒い恐怖も不安をも、一瞬で知的探究心が覆した。理由もなく無から有は生まれない。必ず何かしらの現れ出た起因がある筈。トリガーは目の前の男だろう。…絶対に暴いてやる。
対面の椅子に掛けて微笑むめめに瓜二つの顔を睨め付け、俺は慎重に言葉を紡いでいく。
「紅茶とテーブルが突然出現したのはタネがある、それはマジックでよくあるから理解出来なくはない。だったら俺が知らない間に椅子に座っていたのもマジック…で合ってる?」
「…え?マジック?ん~…とね、リョウが考えてるようなタネも仕掛けもなくてさ。さっき言ったように願った事が叶ってるだけなんだよ」
「そんな訳ない。タネも無しに物を簡単に出したり出来たらマジシャンは皆苦労しないだろう。…仕掛けを教えて、ジョン・ドゥさん」
「ジョン・ドゥ?」
「匿名ってヤツだよ。日本でだと名無しの権兵衛にあたる」
「めめは止めたの?」
「めめは俺にとってこの世にただ一人だから」
「ふぅん…ま、何て呼ばれてもいいや。で、話の続きだけど。本当の本当に仕掛けはなくて、俺が魔法使いってワケでもないんだ。リョウの願いがそのまんま形になった…以外に説明のしようがない、かな」
「……俺が願ったから、紅茶が出て来て椅子に座っていると?」
「うん、そう。だから他のリョウのお願いも叶えたいって思ってる」
俺はそっと溜息を零してまだ温かい茶器を両手で包む。筋も理屈も通らないが、男が嘘を言っていない事だけは勘で分かる。揺るがない眼差しで計った限りではあるが。普段は頼らない勘に従いアッサムをゆっくり啜り、多分己が望んでいるのであろう濃潤な味わいを堪能してから問いを投げた。
「願いを叶える…て事は、この紅茶を淹れたのはキミ?」
「違う、ココが創り出した。でも次のリョウのお願いは俺が関係してるから、ココにはどうにも出来ないみたい 」
この妙ちきりんな空間が創った…、…飲んじゃったぞ。美味しかったけど。…まぁ飲んだものは仕方がない、具合が悪くなったらその時に善処するとして。ジョン・ドゥにして貰いたい事なんてあったっけ?首を捻って何気なく尋ねる。
「その俺の願いってなに?」
「俺とセックスしたいんでしょ?リョウがいいなら今からしよっか」
「ぶっふぅ…~っ!」
受けた物凄い衝撃が口から息になって飛び出し、紅茶にダイレクトアタックした。吹き出しで零れた乳茶色がテーブルに広がる。慌てて拭くための何某かを探すもポケットは空振り、縋るように目の前を見れば眉根を寄せるジョンがいて。心配してますを浮かべたその表情が〝挿れる直前のめめ〟と重なって、俺の心臓がバックンと大きく鳴った。
セックス……って言ったよな。俺が見ず知らずのこの男としたい、なんて思ってる?…まさか、有り得ない。いくらめめに似てるからって、セックスしたいなんて思うもんか。めめ以外の輩に指一本触れられるのでさえごめんだ。
惑わされるな。…これは、めめじゃない。
自分で自分を戒める間にジョンは手にした布巾でざっと水気を拭い、テーブルの隅へ塊で寄せる。そんな仕草ですらそっくりで心が揺らいだが、目力を強めて正面を見据え、意識して腹からの声を出す。
「セックスをしたいのはめめであって、キミじゃない。悪いけど断らせて貰うよ」
「…そう言うと思った。悪いけどって付けるのが優しいリョウらしくて好きなんだけど…無理強いはしたくないし、諦めとくね」
ほっ…と安息を胸中で溶かす。もしも力ずくで来られたら、抗えずに組み敷かれてしまうだろう。相手の容姿はめめそのもの。手を上げるなんてとても出来そうにないから。
そんな心理を読んだか穏やかな顔付きに変えたジョンが俺を覗き込み。
「……めめの傍に帰りたい?」
めめの声でそう問いて来た時。俺は勝手に目から雫を垂らしてハッキリ答えた。
「帰りたいよ。帰らせて、くれるの?」
「帰らせてはあげられない。だけどね、めめの様子を見るぐらいなら出来るかな」
帰らせてはあげられない。
確かに、聞き取った。
絶望が俺を襲う。酷い目眩で視界が暗む。
過呼吸になり掛けの器官を短い息継ぎで励ましながら、固く握った手の平に爪を食い込ませて、最後に付け足された希望に頷いて見せる。
「……見れ、るんだ」
「目を閉じて。めめの面影を思い浮かべて……ほら、見える? 」
言う通り閉じた瞼の裏にめめの姿を浮かべ、一心に追う。
やがて見えたのは、めめを高い所から見下ろすビジョン。近くには翔太と舘様、ピンク色は…佐久間だな。なんの話をしているんだろう。
「見えたなら話も聞こえるかもよ。試してみたら?」
俺の握りこぶしを擦るジョンに促され、俺は耳を澄まして会話を盗み聞く。
照…とふっか、が…なんだって?
#BL
Kow
8
#閲覧注意かも
コメント
5件
どうなるんだろう…気になる!!!

闇の世界にいるって事 それとも作り上げた世界… 気持ちを強く めめのところに帰ろ
読了しました。めめそっくりな相手と突然の♡♡♡発言、どきっとしましたね……。それでも「めめじゃない」と自分に言い聞かせるリョウの心の強さと、それでも似た仕草に揺れる弱さ、その両方がとてもリアルで胸が締め付けられました。「帰らせてはあげられない」の台詞にはゾッとしましたが、最後にめめの様子が見える希望が。次がどうなるのか、気になりすぎます……!