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コメント
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うわあ、この回、すごく良かったです……。斬月が「武神にならなくてもいいんだろうか」って初めて口にするシーン、震えました。ずっと押し込めてた問いを、やっと出せたんだなって。岐雲の「決められる状態まで戻ることだけ考えてろ」って台詞も、優しくて泣けます。答えを押し付けず、ただ隣に座り続ける選択、沁みました。
第5話 武神にならなくてもいいのか
岐雲は、あれから毎日のように顔を出していた。
木剣を持ってくることは、もうなかった。
ただ椅子に座り、斬月の呼吸や、視線の揺れや、言葉に詰まる間を、黙って見ていた。何かを言いたくなるたびに、自分で自分を止めているのが、傍目にも分かった。
その日も、いつも通りの沈黙から始まった。
「……戦場が怖いだけなら、まだよかったんだ」
斬月が、ぽつりと言った。
岐雲は、何も言わずに続きを待った。以前の岐雲なら、すぐに何か返していたはずだった。
「剣も、金属音も、確かに怖い。でも、それだけなら、鍛えれば済む話だと思ってた」
指先が、膝の上で小さく動く。
「俺が怖いのは……」
言葉が、そこで止まる。
岐雲は、口を開きかけて、止めた。窓の外で、風が何かに触れる音がした。
「俺が、あの人たちにとって何になるのかだ」
斬月はようやく続けた。
「祠を建てられて、祈られて。……もし俺が本当に武神になったら」
声が、かすかに震える。
「また誰かが、俺の名で殺されるんじゃないか」
処置室に、沈黙が落ちた。
岐雲は、拳を握りかけて、開いた。
「……そう思うのは、当然だろ」
その一言だけを、静かに置いた。
斬月は俯いたまま、拳を握る。
「……俺は」
言いかけて、また止まる。
今度は、岐雲も待たなかった。
「言えよ。ここでは、それでいい」
斬月は、ゆっくりと顔を上げた。
「……俺は、武神にならなくてもいいんだろうか」
初めて口にした問いだった。
言ってしまってから、自分でもその重さに驚いているようだった。
岐雲は、すぐには答えなかった。
いつもなら軽口で埋める間を、今日は黙って抱えていた。
「それを、俺が決めることはできない」
「じゃあ、誰が決める」
「お前だ」
斬月は、岐雲を見た。
「ただ、今のお前に」
岐雲は言葉を選ぶように、一度間を置いた。
「決めろとは言わない。武神へ戻れとも、諦めろとも言わない」
「……じゃあ、何を」
「今は、決められる状態まで戻ることだけ、考えてろ」
斬月は、その言葉を何度か頭の中で繰り返しているようだった。
「決められる、状態」
「ああ。恐怖から逃げるために辞めるんでも、恐怖を否定するために戻るんでもなく」
岐雲の声は、いつもより落ち着いていた。
「お前が、お前自身の意思で選べる場所まで」
窓の外の風が、また何かに触れた。
斬月は、しばらく黙っていた。
やがて、小さく頷いた。
「……分かった」
その声には、まだ迷いが残っていた。
だが、初めて、迷うことを許された声でもあった。
岐雲は、それ以上何も言わなかった。
ただ、隣に座り続けた。