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「……ほんとに、ほんとに……ただの同僚なの……?」凛の声は、まるで少女のように震えていた。
敬太は苦笑しながら、優しく頷いた。
『うん。本当に。誓って。俺が欲しいのは、凛だけだよ』
「……絶対に?」
『絶対に』
その言葉に、凛はようやく少しだけ笑った。
けれど……
その笑顔の奥……
目の奥のどこかが、壊れていた。
”絶対に”。
なら、もう、試すしかない。
敬太が本当に、自分だけを見てくれているかどうか。
それから数日間。
凛は“ある実験”を始めた。
スマホを黙って見張る。
仕事の帰りを何分遅れたかメモする。
敬太の服に、知らない香りがついてないか毎日確認する。
カレンダーアプリの予定と、実際の行動にズレがないか調べる。
LINEの返信が遅れるたび、「事故に遭ったんじゃないか」とパニックになった。
それは、愛じゃなかった。
でも、やめられなかった。
不安はどんどん形になり、凛の頭を支配していった。
「わたしが信じてるだけじゃ、足りない」
「あなたを信じるには、あなたを壊すしかない」
そう、心の中で誰かが囁いた……。
ある夜。
凛は、夕飯にワインを出した。
珍しくフルボトル。
『記念日でもないのに?』と敬太は笑ったが、凛は何も言わず、ただ笑った。
その夜、敬太はぐっすり眠った。
いつもより深く。
そして……
目を覚ましたとき……
敬太は、自分の両手がベッドの柱に縛られていることに気づいた。
『凛……?』
「起きた?」
凛は、優しく笑った。
いつもと同じ、いや……もっと穏やかな、満ち足りた表情で。
『凛、これは……何?』
「だって……これで、もう逃げられないでしょ?」
敬太の顔が強張る。
けれど凛は……
そっと……
その額に口づけた。
「愛してるよ、敬太♡」
『……俺も、愛してるよ。でも、どうして……こんな……。』
「怖かったの。あなたが、どこかに行っちゃう気がして」
『どこにも行かないよ、俺は……』
「でも、人の心って簡単に変わるでしょ?」
『違うよ、俺は……!』
「じゃあ証明して。ここにいて。わたしだけ見て。わたしだけを、愛して」
凛の声は穏やかだった。
その手には、敬太のスマホがあった。
「この人にはもう返信しなくていいよね?」
『凛、それは……!!』
「大丈夫、もう連絡は全部消しておいたから」
敬太の瞳が揺れた。
そこに浮かぶのは、恐怖か、それとも諦めか。
凛は、敬太の頬に手を当てる。
「私ね、あの時思ったの。“愛してる”って言葉は、自由を与えるためにあるんじゃなくて、“愛してる”って言われた人を、縛るためにあるんだって」
『凛……』
「私は、あなたを愛してる。あなたも、私を愛してる。だったら、どこにも行かなくていいよね?ねえ、敬太……このまま、一緒に、ずっとここにいようね。」
──ガチャ。
凛はゆっくりと、部屋の扉に鍵をかけた。
その音が、2人の世界を”外”から切り離した。
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
どれだけ言っても、足りなかった言葉は、ついに、”形”になった。
それは、拘束。
それは、支配。
それは、境界線の消失。
でも……
二人は、確かに笑っていた。
それが”狂気”と呼ばれても、”病気”と呼ばれても、2人にとっては、それが1番の……幸せだったのだから。