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「ほう。顔が真っ赤だぞ? わしのことを考えておったのか?」
「ち、ちげーわ! 誰がアンタなんか……っ!」
煌が真っ赤になって叫ぶのを、朱雀はどこ吹く風で受け流し、ゆったりと部屋の長椅子に腰を下ろした。長い足を優雅に組み、黄金の瞳をすっと細める。
「たく、人の部屋に来て我が物顔でくつろぎやがって……」
ただでさえ狭い私室だというのに、朱雀という圧倒的な存在がそこにいるという事実だけで、部屋の空気が一気に狭くなった気がする。なにより、昨夜から自分の理性を狂わせているあの甘苦しい沈香の香りが部屋中に満ちていくのが、どうにも落ち着かない。
「細かい男は嫌われるぞ?」
「うっせ! ほっとけ!」
「まぁ、わしはそんな事でお主を離したりはせぬ。寧ろ、そういう真っ直ぐな其方だから好いているのだ」
「す……っ~~~~ッ」
(涼しい顔して、何言ってんだこのジジイは……ッッ!!)
煌の思考回路が完全にショートした。女子からの告白どころか、まともな恋愛すら経験のない16歳の男子高校生だ。それなのに、未だかつて経験したことのないような熱を孕んだド直球の愛の告白を、事もあろうに絶世の美貌を持つ神から連日ぶつけられている。どう対応していいのか、どんな顔をすればいいのかすら分からず、ただただ心臓がうるさいほどに警鐘を鳴らすのを聞くしかなかった。
「ハハッ、童は本当にすぐに顔に出るな。やはりお主では囮は無理だ。……それに。煌に見破られたと気付いた静遠は、今や燕花のことすら強く警戒しておるはず」
煌が頭から湯気を立てて固まっていると、朱雀はふっと表情を和らげ、どこか楽しげに、けれど鋭い声音で切り替えた。
「確かに、朱雀様のおっしゃる通りかもしれません……。静遠殿の慎重さを考えれば、私や童殿が動けば、罠だとすぐに見破られてしまう。……ですが、それでは一体、誰を囮にすれば良いのですか?」
燕花が困惑したように眉をひそめ、神妙な面持ちで朱雀を見つめる。
「なぁに。案ずることはない。――わしがいるではないか」
朱雀は不敵に口角を吊り上げると、まるで「今夜の晩飯は何だ?」とでも聞くような、恐ろしいほどの軽さで言い放った。
「……はぁっ!?」
煌と燕花の声が、綺麗にシンクロして部屋に響き渡った。
「いやいやいや。何考えてんだよ! アンタが一番穢れをダイレクトに受けやすいクセに!」
「そうです! 朱雀様に何かあったら、我が国は滅んでしまうのですよ!?」
「お前ら、声を揃えてわしを病人扱いするな」
二人がかりの猛抗議に、朱雀は耳を塞ぐような素振りを見せながら、呆れたように笑った。だが、その黄金の双眸からお調子者の色がスッと消え、冷徹で理知的な、最高神としての冷ややかな気配が部屋を満たす。
「静遠の真の目的が何なのかは未だ見えぬが、あやつが裏で動き、宮殿に妙な物を流通させておるのは、わしを『弱らせる』ために行って居るのだろう? これまでの動きを見るに、あやつらはわしが深く瞑想にふけるタイミングを狙っているようにも思える。神力を極限まで内へと集中させる瞑想の最中は、外からの干渉に最も脆くなるからな。……ならば、だ。わしが敢えてその罠にハメられた振りをし、無防備に瞑想へ入って見せれば、さすがの静遠も油断が出よう。尻尾を出すどころか、自ら首を差し出しにやってくるのではないか?」
「っ……、理屈は分かるけどよ……!」
煌は、悔しそうに顔を歪めて朱雀に一歩詰め寄った。確かに、これ以上ない完璧な囮だ。敵の狙いが朱雀である以上、本人が隙を見せるのが一番手っ取り早いし、あの慎重な静遠をも確実に釣ることができる。
けれど、昨夜、この神様が至近距離で囁いた『お前を、好いておるのだ』という声が、重低音のように煌の胸の奥でリフレインする。
(もし、その『弱らせる』ってのが、本当に朱雀の命に関わるようなことだったらどうすんだよ……!)
「だめだ! 絶対に認めねぇ! アンタが倒れたら、俺は元の世界に戻れなくなるだろうが! 危険すぎる作戦なんか、俺が許さねぇからな!」
煌は自分の本気の動揺を隠すように、怒鳴り散らしながら朱雀を睨みつけた。そんな必死な煌の姿を、朱雀は驚いたように一瞬だけ丸く目を見張り――すぐに、これ以上ないほど愛おしそうな、ひどく甘い微笑みを浮かべた。
「ほう……。わしがそこまで心配か、煌」
「っ、だから! 帰る方法の話をしてんだろ、クソジジイ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る煌を、朱雀は愛おしそうに眺めている。
コメント
1件
うわあ……もう、この2人の空気感がたまらないです🥀✨ 朱雀の「好いておる」がド直球すぎて、こっちまで照れる…! 煌が真っ赤になって怒鳴るほど、実は心配してるのが伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。恋人同士じゃないのに、もう立派な執着の応酬だし、囮に自ら立とうとする朱雀の覚悟もカッコよすぎる。でも煌が「許さねぇ」って止めるところ、最高でした。ここからどう動くのか、次の話が待ち遠しいです…🤍