コキーン
ピークが所持する一般者用のスマホに「荷物お届け完了」のメールが届く。外出先から戻って来たピークは置き配の荷物を部屋に運び入れる。荷物等あまり見る事が無い3匹……
ノラは、
「なんじゃ、ありゃ…?」
と、眼を光らせて荷物を睨み付けている。
ピークは、荷物をテーブルに置く。
「食い物んじゃないからな……」
そう3匹に言い残すと、シャワールームに向かった。
バタン……
ダッッッッッッッ!!
ノラがテーブルに上がる。
ミケはシャワールーム前でピークの動きを監視。
タマはぐっすり寝ている……
カシャッ
ノラがボタンを噛んで爪を出す……
荷物目掛けて飛び掛かる!!
シャーーーーーーーーッ!!
あぁぁ……段ボールが八つ裂きにされた……
ノラは段ボールの切れ端を前足でカリカリ削りながら、中を覗き込む。「フゴフゴ……」鼻を突っ込み、すぐに「つまらん」とばかりに顔を引っ込めた。
ミケはその様子を見ながら、ため息をついたように尻尾を一振り。
タマは完全に夢の中で、腹を出して上下している。
中には、気泡緩衝材で梱包されたブツがひとつ。タマが寝ている、という事は良い・悪いは別にしても「匂いのする」ものでは無い、と言う事か。
タンッ
ミケが知らせる。ノラとミケは定位置に戻る。
「あぁあぁ……全く……」
ピークが戻る頃には、部屋は紙吹雪と化していた。
ピークは散らばった段ボールを片付ける。シャツを1枚引っ張って着替えを済ませると梱包を解いていく。
Oblivion CleanMate X9(オブリビオン・クリーンメイトX9)
【コードネーム:Black Halo】
外装:軍需企業オブリビオン社が、民生品ブランド(高級白物家電製販部)で開発した自動走行型清掃用ロボット。航空機用アロイを薄板化して採用。重量は従来機比+25%だが、防御性能は+400%。
表面は「カーボンブラック・セラミックコーティング」。ひっかき傷や咬み跡程度ではビクともしない。外周バンパーにはナノ衝撃吸収ゲルが仕込まれ、家具や壁に当たっても傷を残さない。
センサー/機能:最新「LIDAR Mk.III」搭載。360度スキャン+赤外線追尾。障害物認識だけでなく、猫のシッポやヒゲの動きまで読み取る「PetSense AI」内蔵。
AIが猫の動きを「障害物」ではなく「大きな対象」と誤認しやすいのが欠点。
動力:静音タービン式モーター。通常走行は囁き声程度の音。だがフルパワーモード時は「ゴオォォッ」と黒い円盤が唸る。
稼働時間は最大9時間。バッテリーは軍用規格のリチウムカーボン電池。
特記事項:
・犬猫等のペット対策をメーカーがPRしており、「爪にも噛みにも負けません!」とCMされている。ただし、公式には「猫を乗せて走らせることは推奨しません」と注意書き。
実際にはタマのような猫が遊園地扱いして乗り回すことが多発している。SNSで「#黒い円盤タクシー」のタグが流行。
次の日…………(チュンチュン)
ピークはBlack Haloのタイマーをセットして今日の調査先に向かう。3匹はお留守番だ。
商社マンっぽい服に着替えて、薄手のコートを持って部屋を出て行く。3匹、特に動きは無い。(タマは爆睡)
出掛ける前にピークが与えたカプセルで空腹感も無い。タマはこの偽善的な空腹感が大嫌いだ。美味しいものをいっぱい食べたい、常にそう考えている(今は爆睡中)。
ミケは……物思いに更けるタイプだ。
いつもの窓枠から、いつもの景色を眺めて……
そして違う色を探している。
ノラ。子供がそのまま大きくなったような……
常に、疑問符が脳裏を支配している。
雪は……なぜ白いんだろう…………
スゥィーーーーーーンッ…………
タイマーがセットされた時間だ。
静かにBlack Haloが起動する。
センサーアイは赤くLEDライトが照り上げ、充電機(格納庫)から前進を始めた。
その刹那…………カシャッ
ミケが反応する。
ボタンを噛む。HUD機動。
外観温度は低く、中は制御モータにより高くなっている。ミケはこれを、機械である(魔改造の可能性も有り)と認識し、
タンッ
それを2匹に伝える。
カシャッ
ノラも爪を立てる。
真っ直ぐ前進してくるブラハロ。
シャーーーーーーーー!!
ノラが威嚇する。
ブラハロは方向を変えて、部屋の奥を目指す。途中にタマが寝ている事を認識して、そこを迂回。ブラハロは何事も無かったかのように先へ進んだ。
ベシッ!!
ノラがタマの頭をドツく。
うーん………………タマは起こされてちょっと不機嫌だが、状況を把握して、欠伸をしながらヨロヨロと立ち上がる。
ブラハロの到着以降、ずっと寝ていたので何も知らないタマ。暫くブラハロを見ていたが、「そういう事か……」と動く。
匂いは…………ない。正しい動きで走行するブラハロ。タマのセンサーに引っ掛かる要素もなく、
タン、タン……
無臭である事を伝えて、
タマは……また寝た。
ノラは、タマをシバキたかったが止めた。
スゥィーーーーーーンッ…………
周回後、ブラハロ一旦停止。
最新センサー「LIDAR Mk.III」が改めて周囲を確認していく。「……だろう」の認識に対して確実性を高めている。
センサーアイの色が変わる。これはこの部屋全体が確認出来た事を持ち主に理解させる事を目的としている。
全く攻撃的ではないブラハロ。
ノラは、様子を窺っている。
ミケは、試しに……と煙幕弾を1発放つが、反応は無い。
スゥィーーーーーーンッ
ブラハロ、本格的に床清掃を開始。
見つめるノラとミケ…………
ピョーーーーーーーンっっ!!
その時、タマが床を蹴ってジャンプ一閃。
スタっっ!!
あぁ、タマよ…………
ブラハロの上に乗るタマ。
そして…………寝た。
ブラハロのセンサーがタマを検知し「重量異常検知」で一瞬赤く光るが、そのまま無視して走行続行。タマは揺られながら気持ちよさそうにゴロゴロ。
「任務中だろ………」ミケが呟く…………
「何してんだアイツ…」ノラは大きくため息をしながら固まる…………
ガチャリッ
ピークが帰宅する。戦闘態勢の2匹を見て、静かに放つ。
「ったく……お前ら、ただの掃除機じゃねぇか」
…………………………
猫に小判(ねこにこばん)
意味:価値の分からない者には、どんな宝も無意味である。
例:タマが高級魔改造家電「Oblivion CleanMate X9」の上で爆睡。最新センサーも軍用バッテリーも、タマにとってはただのベッド――まさに猫に小判。
…………………………
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!