テラーノベル
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ガルディニア帝国の国聖女として迎える、初めての公式な儀式の日。
帝都の中央広場には、何万人という民衆が私を見るために地鳴りのような地響きを立てて集まっていた。
「……っ……」
白と銀を基調とした美しい聖女の正装に身を包んだ私は、祭壇の裏で、緊張のあまり自分のドレスの裾を強く握りしめていた。
前の国での記憶が、どうしても頭をよぎってしまう。カイル様の言葉を信じた国民たちに石を投げられ、無能と罵られた、あの冷たい光景が。
もし、ここの人たちも私を拒絶したら――。そんな不安で足がすくみそうになった時、私の隣に立ったアレン様が、そっと大きな手を伸ばした。
アレン様の長い指先が、私のプラチナブロンドの髪に留まる『黒い髪飾り』に優しく触れる。
あの日、私が「アレン様の髪みたいで綺麗」と言って選んだ、彼と同じ深い夜の黒。
「ルナリア、怯えることはない。あなたの髪には、いつも俺の『夜』が寄り添っている。何が起きようと、この俺が世界中の全てからそなたを護り抜く。……だから、安心してそなたの美しい光を民に見せておくれ」
「アレン様……」
髪飾りに触れるアレン様の指先から、絶対的な安心感が伝わってくる。
私の心から、最後の不安が綺麗に消えていくのが分かった。私は力強く頷くと、アレン様に支えられながら、まばゆい光が差し込む祭壇へと一歩を踏み出した。
広場の中心に立った私が、そっと両手を合わせ、青空に向かって祈りを捧げる。
「――『月光よ、この大地を満たし、人々を優しく包み込んで(ムーン・ブレス)』」
その瞬間、帝都市民の全員が息を呑んだ。
広大な帝都の空いっぱいに、これまでに誰も見たことがないほど巨大で、精緻(せいち)な銀色の『満月の魔法陣』が浮かび上がったのだ。
そこから降り注いだのは、キラキラと輝く星屑のような銀の光の粒。
光の粒が民衆に触れた瞬間、病や怪我に苦しんでいた人々の痛みが一瞬で消え去り、大地の植物たちが一斉に青々と芽吹き、美しい花々が帝都市内を埋め尽くしていく。
「お、おい……長年動かなかった俺の足が動くぞ……!」
「なんて温かくて、優しい光なんだ……!」
一瞬の静寂のあと、広場を埋め尽くす民衆から、嵐のような、地鳴りのような大歓声と拍手が巻き起こった。
「月光の聖女様万歳!」
「我が国に本物の奇跡が降臨したぞ!」
「聖女ルナリア様、ありがとうございます!」
誰一人として石を投げる者などいない。 皆が涙を流して私を称え、感謝の笑顔を向けてくれている 。
初めて浴びる、純粋な民衆からの愛。
私は胸がいっぱいになり、目元を潤ませながら、帝国の民へと向けて心からの満面の笑顔を咲かせたのだった。
大歓声に包まれる帝都の広場を、アレン様は満足そうに見つめていた。
そして、私の肩を優しく抱き寄せると、大衆の目を盗むようにして、私の耳元で低く囁いた。
「素晴らしい奇跡だったな、ルナリア。これでもう、世界中の誰もそなたの価値を疑わない。……さて、世界中にそなたの偉大さを示したところで、次はいよいよ俺たちの番だ」
「え……?」
「約束を果たそう。近いうちに、そなたが気絶してしまうほど華やかなプロポーズを捧げる。心の準備をしておいてくれ」
クスリと妖艶に微笑むアレン様の過保護で甘い眼差しに、私はまたしても顔を真っ赤にしてしまうのだった。
◇
一方その頃、ガルディニア帝国軍によって無条件降伏を突きつけられ、事実上の滅亡を迎えたエルフレア王国。
かつてきらびやかだった王宮の輝きは失われ、今は静まり返っている。
王族の地位とすべての権力を剥奪されたカイルと偽聖女リーザは、冷たい鉄格子が嵌められた陰暗な空間へと引きずられていた。
そこは、王宮の最下層にある、冷たく湿った地下の物置小屋。つい先日まで、ルナリアが毎晩血を吐くような祈りを捧げ、食事も与えられずに閉じ込められていた、まさにその場所だった。
「離せ! 離さぬか! 俺は一国の王太子だぞ! こんな、家畜の寝床のような場所に俺を閉じ込める気か!」
「嫌よ! 寒いわ、ネズミがいるわ! カイル様、なんとかしてよぉぉ!」
カイルは泥にまみれた衣服を振り乱して暴れ、リーザはヒステリックに泣き叫ぶ。しかし、帝国の騎士たちは一瞥もくれず、彼らを冷たい石床の上へと突き飛ばした。
ガチャン、と重々しい音を立てて鉄格子が閉まり、太い錠前がかけられる。
「貴様らがルナリア様にしてきた所業、皇帝陛下はすべてご存知だ。食事は一日一回、固くなったパンの耳と泥水のみ。ルナリア様が味わった地獄を、今度は貴様らが一生をかけて味わうといい」
騎士の冷酷な通告に、カイルはガタガタと歯を鳴らして床にへたり込んだ。
自分の手柄だと過信していた結界が、すべてルナリアの力だったこと。
隣のリーザが、ただの無能な詐欺師だったこと。
そして、自分がゴミのように捨てた『月光の聖女』が、今や世界最強の帝国の最高特等席で、神のように崇められているということ。
「嘘だ……こんなはずじゃ……。ルナリア、頼む、俺が悪かった! 戻ってきてくれぇぇ!」
どれだけ惨めに叫ぼうとも、その声が届くことは二度とない。
自分たちの愚かな裏切りによって最強の聖女を失い、国を滅ぼしたカイルたち。彼らが味わう本当の絶報と因果応報の地獄は、この暗い地下室で、これから永遠に続いていくのだった。
コメント
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わあ、第8話、読み終えました…! もう、冒頭から胸がいっぱいになりました。 ルナリアが広場で不安に震える姿に、前の国の記憶が重なって、本当に切なかったです。でも、アレン様が「夜」の髪飾りに触れて「俺が護り抜く」って囁くシーン、あの距離感と温かさに、私も一緒に安心しました。光の奇跡が帝都を包む描写は、まるで映画のワンシーンみたいで、目が離せなかったです。 そして、カイルたちがまさにあの地下室に…という因果応報の展開には、背筋がゾッとしました。良いお話をありがとうございます、ゆゆさん!
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