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ぶにゅん
(ひぃぃ! 助かったぁ!)
遠慮なく振り下ろされた巨大ナイフは、ジェルミラの表面によって勢いを殺され、ネフテリアまで届く事なく弾かれた。
体も表情も動かす事が出来ないままのネフテリアは、その心だけが絶叫している。
(いやあの、出してくれようとしてるのは分かるんだけど、一応私王女よ? そんな遠慮なく刃物とか魔法とか向けられあああ゛あ゛ア゛ア゛!!)
あまり間を置かずに、今度はミューゼが水の弾を連射し始めた。もちろん狙いはネフテリア…ではなくジェルミラなのだが、撃ちこんでいる場所はネフテリアの顔面部分だったりする。目を閉じる事が出来ないネフテリアが内心大絶叫なのは当然であった。
対してミューゼ達はというと……
「うーん、テリア様が無反応」
「って事は見えてないから、思いっきりやっちゃっても問題ないのよ。出す為に色々実験するのよ」
まさかガッツリ見られて怖がられているとは思わず、次の攻撃を遠慮なく考え、実行する。
(だからなんで私に向かって攻撃するの!? いきなり有効打が当てはまったらどうするつもりなの!?)
何も考えずにひたすらネフテリア…の場所を攻撃し続けるも、一向に効果が無い。先程のもう1体のジェルミラと同じように、表面でやわらかく弾かれているだけである。
『てりあどうしちゃったんだろう?』
『うーん、どうもアレに取り込まれて、動けないような感じね。なんとなく怖がってる気がするわ。助けた方がいいかな?』
『いやいや、早く助けてあげようよ……』
『だって、なんか頑張ってるの邪魔したら悪いかなーって』
『……だめだこの神、やっぱりポンコツだ』
『なんでっ!?』
怖がっていると分かっていて助けないエルツァーレマイアは、娘にはっきりとポンコツ扱いされ、ショックを受けた。
そういう所がポンコツなんだと、アリエッタは目だけで語る。
『えっと、じゃあてりあを助けてくるね?』
『…うん、でもどうやるの?』
どうするのか…それをのんびりと説明し始めた。
そんな会話をしている前では、フォークや蔓をひたすらネフテリアの場所に向けて突きまくっている2人がいる。
(あああああああああ~~~気絶したい失神させてくださいいっそ貫いてくださいお願いしますぅぅぅ!!)
真正面からの集中砲火が怖くてたまらないネフテリアは、はやく失神して目を背けたい一心だった。しかし、今の状態が既に睡眠状態であるせいか、これ以上気を失う事が出来ない。もはや完全に拷問状態であった。
そしてその拷問は、突如止んだ。
「あれ? エルさん?」
「ふぅふぅ…ん? どうしたのよ?」
攻撃する2人の肩を叩いて止めたのは、エルツァーレマイア。にっこり笑って2人の前に出る。
そのまま訝しげに見る2人の手をアリエッタが握り、クイクイっと少し後ろに引っ張った。
「アリエッタ?」
「みゅーぜ、ぱひー、だいじょうぶ」
「なのよ?」
何をするかは分かっていないが、アリエッタの親だからまだ何かあるのかもしれない…と、大人しくアリエッタに従って下がった。
その間エルツァーレマイアは、顎に手を当てネフテリアをジッと見つめている。
『…………よし、カッコよさそうな名前思いついた』
なんと能力の名前を考えていた。理由はもちろん、アリエッタに格好いい所を見せる為である。後ろにいるアリエッタをチラッと見てから、ネフテリア…ではなくジェルミラに向けて手をかざし、ニヤけながら力ある言葉を放った。
『──【破滅の白】!』
次の瞬間、ジェルミラの中に白い塊が発生し、徐々に大きくなってく。それに伴い、ジェルミラが形を変え、膨らんでいく。中にいるネフテリアを押しながら。
(やだやだやだやだなにこれ怖い怖いこわいこわいコワイコワイ!)
いきなり見えない所から全身を押され、これまでとは違う恐怖を味わうネフテリア。膨らむジェルミラの中で視界があらぬ方向へと変わる中、プライドとか立場とか全部捨てて泣き叫びたいと願っていた。
そしてジェルミラがかなり大きくなったところで、エルツァーレマイアが拳を握るのと同時に、とどめの一言を発した。
『はじけろっ』
パアァァァァン!
大きな破裂音と共にジェルミラは弾け散り、ネフテリアが空中へ投げ出された。その顔は茫然としたまま硬直している。
その瞬間を間近で見たミューゼとパフィは防御態勢で耐え、エルツァーレマイアは手を握ったままドヤ顔で立ち、アリエッタはびっくりして耳を抑えている。
(うはーびっくりした! そんな事も出来るんだ)
「って、ミューゼ! ネフテリア様を!」
「あー怖かった……っと、うん任せて!」
すぐにミューゼが蔓を伸ばし、ネフテリアをキャッチ。空中から引き寄せて救助する事に成功したのだった。
「やったのよ! 無事なのよ!」
無傷での救助に喜ぶパフィの横に、そっと蔓でネフテリアを立たせる……が、ネフテリアは茫然としたまま座り込んでしまった。顔からは血の気が完全に失せている。
「どうしたのよ?」
「まさか、あの透明なのに何かされたんじゃ! テリア様、気をしっかり!」
(むむ、てりあが大変だ。何か出来る事……)
自分達が原因だという事を全く理解していない2人は、前からも後ろからも滅茶苦茶な事をされて放心状態になっているネフテリアの意識を戻そうと、肩を持ってガクガクゆらしたり、耳元で叫んだりと、乱暴に扱っている。
ちょっと冷静なアリエッタがその様子を見て、流石にまずいだろうと気付き、3人の中に割って入っていった。
「みゅーぜ、ぱひー、めっ」(乱暴にしたらよくないよ)
「えっ、あぁ、うん、ごめん……」
「どうして怒ってるのよ? わわっ」
言葉が通じないなら行動と態度で示す。分かりやすいように駄目と言い、2人をネフテリアから離すと、よく分からないながらも大人しくしてもらう事に成功した。
(なるほど、困った時は実力行使と)
緊急時に起こすべき行動を学びながら、1人でネフテリアへと近づき、動きを止めた。
(やばっ、どうするか考えてなかった……えーっと、とりあえず手!)
大人達が見守る中、ネフテリアの手を取ってみた。なんとなく握ってみると、軽く握り返されるのを感じて一安心する。
「てりあー…てりあー?」
「あっ……アリエッタちゃん? わたくし、生きてる…ヒッ!?」
「てりあ?」
手の感触に加え、アリエッタに名前を呼ばれて正気に戻ったネフテリアは、周囲を見て顔を引き攣らせた。視線の先にいるのはミューゼとパフィ。
「?」
「どうしたのよ?」
何故そんな顔をされるのか分からない2人は、心配そうに眺めている。しばらくアリエッタに任せるつもりである。
「てりあ、だいじょうぶ?」
「アリエッ…タ…ちゃん……ふぐっ……うっ…うえぇぇぇん! 怖かったよおぉぉぉ!!」
「! てりあ、よしよし」(泣いた!? ここは男として僕がしっかりしなければ!)
「よしよし、よしよし」
原因はよく分かっていないが、頭を撫でて必死にあやし続ける。しばらくネフテリアの泣き声だけが辺りに響いた。
(うぅ、顔で胸グリグリされると、ちょっと恥ずかしいかも……)
「羨ましいのよ……私も泣いたらアリエッタに撫でてもらえるのよ?」
「いやいや、ちっちゃい子に何泣きつこうとしてるの」
(なるほど、泣きつくって手があったか! よーし今度それやろう!)
徐々に声は収まってきたが、アリエッタのやわらかさを確かめるかのように、より一層密着するネフテリア。しっかりホールドされたアリエッタは、もはや身動きがとれない。
小さな女の子に甘えるその姿は、他の3人にとってはただ羨ましいものだった。年齢が上である程、進んで泣きつく気満々である。
しばらくして、ネフテリアがようやく落ち着いた。
頃合いを見計らって、パフィが声をかける。
「落ち着いたのよ? 無事でよかったのよ」
ピクッ
横からかかったパフィの声に、ネフテリアは肩を震わせ、静かになった。そして、そっとアリエッタの胸から顔を離し、ゆらりと立ち上がる。ミューゼからは、一緒に黒い何かも立ち昇ったように見えた。
アリエッタが上を…ネフテリアの顔を見ようとした時、ネフテリアの手が頭を優しく撫で、うっとりと気持ちよさそうに目を閉じる。そのままお腹へと顔をくっつけられた。
(わ…てりあのお腹あったかい……ドキドキする)
「……無事ィ? いったいどの口がそんな事言ってるのかなァ?」
地の底から響いたかと錯覚するほどの暗い声が、ネフテリアから発せられた。それが自分達に向けられている事を察したミューゼとパフィは、心の底から震えあがる。
なお、間近にいるアリエッタは、頭にある手の感触と顔にあたっているお腹のぬくもりに集中していて、聞こえていない。
「あの……テリア様?」
「なななんで怒ってるのよ!? 怖いのよ!?」
ゆっくりと、ネフテリアは2人の方へと向く。その顔は、泣き腫らした目に怒気が籠り、恐ろしい形相になっていた。
『ひぃっ!?』
「2人とも、そこに座れ」
『はひっ!』
ミューゼとパフィは顔を引きつらせながら、その場に膝を折って座った。正座である。正座の文化は無いものの、なんとなく恐怖と勢いでそう座ってしまったのだ。
ネフテリアはアリエッタをエルツァーレマイアに引き渡し、2人の前で仁王立ちになり見下ろした。その顔を見上げた2人からは、汗が噴き出していた。
「全部見えてたよ」
「へっ……」
「私の顔に斬りつけたり、魔法撃ったり」
「うひぃっ!?」
2人の肩に手を置いて、にっこりスマイル。
「よぉくぅもぉ~やってくれたわねええええ!!」
『ヒイイイイィィィィィ!!』
しばらくの間、絶叫と説教が辺りに響き渡るのだった。
『…………てりあ?』
『子供は見ちゃ駄目よ。なんだか怒ってるし、終わるまでこっち向いてお話しましょ』
『一応元大人なんだけど……』
ちなみに、元凶の1人であるエルツァーレマイアは、生きていない(と思われている)のと、言葉が通じないという理由で許されていた。