向井side
最初はただ、気になっただけやった。放課後の廊下で、ひとりで立ってた目黒。
あんなでかい身体してるのに、影みたいに小さく見えた。
「助けたい」と思ったのか、「放っとけない」と思ったのか。
どっちにしても、気づいたら探してた。
教室でも、廊下でも、体育館裏でも。
最初は声をかけるだけやった。
無理に話しかけても、目黒は「別に」としか言わん。
でも、それでよかった。
沈黙でも、そこに“自分が居ていい”って思えたから。
——けど、だんだんそれが変わっていった。
あの無表情の裏に、誰が触れてるんか気になって仕方なくなった。
いじめてるやつの名前も、何されたかも、全部知りたくなった。
目黒の中にある“痛み”が、自分の知らんもんやったら嫌やった。
ある日、放課後の昇降口で。
目黒の机にまた落書きがされてた。
康二はそれを見て、笑うしかなかった。
「もう、ええ加減にせぇや……」
その日の帰り道、康二は加害者のひとりを捕まえた。
手を出すことはしなかった。けど、
「次やったら、俺が黙っとらん」
低く言ったその瞬間、相手の顔が青ざめたのがわかった。
その夜。
康二は無意識のまま、目黒の家の前に立っていた。
灯りのついた窓。
カーテンの隙間から、うっすらと見える人影。
電話もせんまま、ピンポンを押す指が震えていた。
ドアが開く。
制服のままの目黒が、驚いたように立っていた。
「……どうしたの」
「別に。顔見たくなっただけ」
自分でも、何を言ってるのかわからなかった。
でも、その瞬間に思った。
——これ以上、こいつをひとりにしたらあかん。
康二は、無理やり笑った。
「なあ、目黒。もう俺から離れんなや」
目黒はわずかに目を見開き、けれど何も言わずに頷いた。
その頷きが、どれほど危うい意味を持つか、
そのときの康二はまだ知らなかった。
コメント
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主さんが書く小説好きです! 次の話も楽しみにしています