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「ダンテ様、お疲れ様です。」「お疲れ様です、メイ。今日も忙しかったですね…どうですか?時間に縛られない日常は。」
「不思議な気分です。ここには時間が文字通り無限にありますし、裕福さや地位に関係なく時間も色も等しく流れている。…普通の巣は、皆こうなんですかね?」
「ええ、メイは経験が乏しいようですが…こう見えても、私は色々なところを旅してきましたからね。勿論、どこだってこうですよ。」
「(少し貶された気がするけれど…)…そうなんですね…意外です。私は、T社に生まれたために……。そういえば、ダンテ様ってどのような人生を送ってきたのですか?」
「気になりますか?大して聞く価値は無いと思いますが。」
「あ…いえ、言いたくなければ…。」
「いえ、隠している訳でもありませんし。それならば、話しましょうか。」
*
私は、ここ、L社の巣を拠点としておりました。メイのように庶民の家に生まれたわけでなく、ハデス家の親戚…分家の子として生まれ、ハデス家のバトラーとして働くことも決まっておりました。ネビル様専属となることまでは正確に決まっておりませんでしたがね。
実際には、私はより都市の中心…A社に近い場所で生まれました。私としては、それが地位を決めるようなことなど考えもしませんでしたが、ハデス家の方々は気にしたようですね。私を様々な場所に移動させました。私の両親は仕事で私が生まれた場所にいなければならなかったので、結局離れ離れになりましたね。私は両親の顔も覚えておりません。
L社を中心にK社、J社、T社など様々なところを転々としました。それと同時にバトラーに将来なるための訓練も重ねました。当時は新しい景色を見るごとに興奮を覚えましたが、やることが同じだと分かればすっかり冷めきってしまいました。
「そういえば、ダンテ様が不快感を訴えることはおろか、見せることも無い気がしますが…当時もそうだったのですか?」
当時は私も子供でしたからね。勿論、そうではありませんでしたよ。しかし常に指導を受けていましたし、不快感を少しでも示そうものなら…メイであれば分かるでしょう、あのような教育を子供である私にも施されました。
そのうち…恐怖も感じなくなりました。なんというか、思い込みの力は素晴らしいことですね。今も私はこう思うことで平静を保つことがあります。『私は機械だ』と。私はハデス家にお仕えする機械ですから。
ああ、メイにもこの技を教えたほうが良かったでしょうか。貴方はしばしば感情的になりますし…それゆえ、あのようなことをしたのでしょうから。あ、責めるつもりはありませんでしたよ。そんな顔をしなくても良いんですが。
まあ、あの頃のことはあまり記憶がありません。ここまで長々話すほどのこともないですね。
「今は…ちゃんと感情はあるんですよね?」
変なことを聞きますね。勿論、私も人間ですから。ありますよ、ええ。それに、実は…ネビル様に仕えるようになってからも一度、恐怖という感情を露わにしたことあるんですよ。お恥ずかしながら。
あれは、ネビル様も私も…まだ若いころでしたね。今から十年は前でしょうか。こう考えると、随分と若いころからあそこにいたものです。バトラーはおろかフィクサーの資格すら取れなかったので、ただの執事としての存在でしたね。
ある日、ネビル様が外出をしたいと仰られたので、私達…私と、アイリーンも同行しました。まあ、よくあることでしたね。しかし…なんと、彼の人は裏路地のほうまで歩いていこうと。いつもはそこらの商店街やらを歩いていました。庶民の暮しを知りたかったようですね。でも、裏路地方面は流石にあまり行こうとしていませんでしたし、私達も止めるべきでした。実際、アイリーンは『やめましょうよ!それに、ほら…今はもう、時間が…』とか言っていました。そう、裏路地の夜にも近かったんです。旦那様は割とこういうところでは私達を自由にしていましたし、この時間に外出することも珍しくはありませんでしたが、このようなことはあまり無かったもので。
一度だけ、昔、一人で出ていってしまったことはあるみたいですね。何事もなく帰ってきましたし、大して問題にもなりませんでしたけど…それでも、この時間、裏路地のほうに歩いていくというのは、アイリーンもひどく不安に思っていたことでしょう…必死に止めようとしましたが、最後には結局行くことになりました。
道中は他愛ない会話をしていましたね。大して長い道のりでもありませんでした。そうして、やっとそこに辿り着きました…ええ、案の定、そうでした。そこには掃除屋がいて…そして、赤髪の少女がいました。彼女は叫んでいました。『助けて』と…ネビル様はそれを見て心底嬉しそうな笑みを見せました。そして、前に出て……。
…短い間でしたが、私には長い時にも思えました。『待ってて』と鋭い口調で言われましたので、私達には止める権利も無かった訳ですが。その少女に向かって素早く駆け…掃除屋の刃が少女を刺したかと思った次の瞬間…ネビル様の片目は、空っぽになっていました。それでも彼は満足そうな表情で、少女に対して何か言葉をかけてから、私達の方へと来て、『この子を家に送っていこう。』と…あまり痛みも感じていないような表情で言ったものです。
『分かっていたのですか』と聞きましたが、『まあね』と軽く笑って返すだけでしたね。それ以上話しかけるのも野暮でしょうから、アイリーンと私は2人を静かに見守っていました。
それで…結局、私達が屋敷に着いたのは1時間後ほどでしょうか。不安そうな顔をしていますね、メイ…あなたはやはり感受性が強すぎます。余程聞き入っているようですが…。
あなたはもう察しているでしょうが、そうです。結果的に、目を潰されました。
『旦那様、申し訳ありません。ネビル様をお守りできず…。』
『……ふむ。アイリーン、君は右と左…どちらが好きだ?』
『わ…私ですか?み、右です…。でも、なぜ…』
…嫌な気配がして、嫌な音が鳴りました。次が私だということも察しておりました。ネビル様も怯えているような、どこか不安げで、申し訳なさそうで、それでも必死で平静を保とうとしているような表情をしていましたね。
私は左と答えました。ネビル様と同じ目の潰され方をするのが道理だと思いましたし…ええ、この話はここで終わりです。私はその時だけは…そういう思考をすることは不思議とできたのですが、ひどく怖かったものです。
その後、私達は屋敷に籠もるようになりました。レト様も…その後、私達を不自由にすることに徹していましたね…。
*
「…ありがとうございます。」
「いいえ。話しすぎてしまいましたね、紅茶でも淹れましょうか。」
「いえ…聞けて、良かったと思います。」
「何故。」
「目がない理由、ずっと気になっていましたから。そんな理由なんてないはずなのに…」
「ああ…メイ、固定観念で人を見るのは良くないですよ。この都市では、誰にも命や身体の保証はないのですから。」