テラーノベル
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その日のうちに、バルトが地下牢から出てきた。
首に、シュメリの魔法で作った首輪をしている。
あの首輪があると、シュメリに攻撃できないし、屋敷からも逃げられないんだそうだ。
「ににゃぁ!」
僕はバルトに向かって飛んだ。
「リンネ!」
広げるバルトの腕に、飛び込んだ。
頭をグリグリして、バルトに甘える。
「リンネ、無事でよかった」
バルトが安心したように僕の背中を撫でた。
その様子を、シュメリが乾いた目で眺めていた。
「随分、懐いているね」
「当然だ。俺とリンネは一緒に暮らしていたんだからな」
バルトが言い放った。
(え? そうなの? 僕ってバルトと暮らしていたの?)
この屋敷で目が覚める前の記憶がない。
僕が転生する前の出来事だろうか。
(それより、作戦はここからだ)
僕は、くりっと向きを変えた。
バルトの腕をするりと抜ける。
「こら、リンネ!」
「あにゃーん」
バルトの腕からシュメリに向かって飛んだ。
シュメリが華麗に僕の体を受け止めた。
(で、僕を追いかけてバルトが駆け寄るはず)
そうなれば、嫌でも距離が縮まる。
「リンネを離せ」
案の定、バルトはシュメリに駆け寄って、僕を奪おうとした。
そのバルトを、シュメリがひらりと躱した。
「自分から私の腕に戻ってきたんだよ。やっぱり私が良いんだね、リンネ」
シュメリが僕に頬擦りする。
「べたべた触れるな!」
奪おうとするバルトを、シュメリは事も無げに躱していく。
(あぁ……しまった。シュメリのフィジカルの強さ、考えてなかった)
魔法も然ることながら、剣は一流、体術も勝てる者がない。
だから、この小柄な体形で騎士団長が務められるのだ。
銀髪は、魔力量が多い証拠だ。
(この人、完全無欠のヒーローだった)
そんなシュメリと、アングラな世界に暮らすバルトが結ばれる。
だから、いいのに。
シュメリはバルトじゃなくて、僕しか見てない。
しかも、離してくれないから動けない。
僕の作戦は、早くも失敗した。
「これからは一緒に暮らすのだから、無暗にリンネに触れないように」
「お前こそべたべたするな……って、一緒に暮らす?」
バルトが怪訝な顔をした。
「リンネが記憶を取り戻し、人の姿に変われるようになるまで。この屋敷で一緒に暮らしてもらうよ」
「取り戻す? 記憶が、ないのか?」
シュメリとバルトが同時に僕に目を向けた。
ドキッとして、シュメリの腕の中で丸くなった。
「森で生活していた時の記憶が、無いようなんだ。私のことも、覚えていない様子でね。人の姿に変化もできない」
「一体、どうして……いや、でも」
バルトが考えるような顔をした。
「何か、思い当たる?」
「いや……一緒に暮らしていた時も、突然いなくなったり、俺のことを覚えていないような素振りをすることは、あったな」
お股ポテト
29
はるにし
72
バルトが思い出しながら話す。
シュメリの顔が険しくなった。
「症状の前兆はあった、ということか」
シュメリが僕を見詰めた。
二人の話が、僕にはわからない。
首を傾げるしかなかった。
「私と交わした約束も、忘れているのだろうね」
そう呟いたシュメリは、淋しそうだった。
「何を約束した?」
「結婚の約束だよ。魔種を持つ者同士だからね」
「魔種なら、俺も持っている」
バルトが自分の胸をトントン叩いた。
シュメリが顔を近付けて、クンクンと匂いを嗅いだ。
「おや、本当だね。魔法は使えるのかい?」
「当然だ」
「だったら、王立魔術師団を紹介しようか? 暗殺者なんかやっているより、ずっといいと思うよ」
「余計なお世話だ」
バルトが煙たそうに顔を逸らした。
(魔種って確か、持っている人のほうが少なくて、持っていると魔力が多くて強いってやつだ)
小説の中では、そんな設定だった気がする。
魔種持ちは希少なので国にも重宝される。
要職に就けたり貴族と結婚できたりする。
「魔窟の森に住んで暗殺業なんて、生きづらいだろうに」
「俺の本職は木こりだ。暗殺は副業だ」
「とんでもない副業だね しかし、勿体ない」
シュメリが揶揄うように笑った。
僕も勿体ないと思う。
王都に出てきても、バルトならいくらでも仕事がありそうなのに。
「魔種持ちは希少だ。益々バルトをこの屋敷から出せなくなったね」
「は? 俺はリンネを返してもらえれば、それでいい」
「最初からバルトの所有物じゃないだろ。僕の伴侶だ」
「俺の家族だ」
シュメリが、腕に抱く僕をバルトに見せ付けた。
「こんなに大人しく僕の腕に抱かれているんだよ。リンネも私が好きなんだよ」
優越感たっぷりに、シュメリが顎を上げた。
逃げられないから大人しくしているだけだけど。
別に嫌ではないけど。
(僕にとって大事なのは、そこではない)
僕の話をしながら、シュメリとバルトが仲良くなっている気がする。
お互い、顔を見ながら話をしている。
とても良い傾向だ。
だから、僕は大人しくシュメリに抱かれておくことにした。
「お前が恐ろしくて動けなんだろう。リンネ、こっちにおいで」
バルトに手を差し出されたけど、ごめん。
マジで動けない。
シュメリの腕にがっちりホールドされている。
仕方がないので、僕はバルトの指の先をチロチロ舐めた。
「リンネ……可愛いな」
バルトが頭や顔を撫でてくれた。
(この感じ、懐かしい)
前にどこかで感じた手の温もりだ。
こんな風に撫でられていた気がする。
(この記憶は、何だろう。転生する前の、体の記憶? 少し違う気がする)
もっとリアルで、身近で、知っている感覚だ。
(どこ、だっけ……夢?)
ぼんやりと斑な記憶が蘇りかけたけど。
「気安く触らないように」
シュメリがバルトの手を払い除けた。
「リンネから舐めてくれたんだ」
シュメリとバルトがまた喧嘩を始めた。
喧嘩するほど仲が良いというし、いいのだろうか。
(小説の中のシュメリとバルトも、最初は言い合いしていたから、いいのかも)
僕の仲良し大作戦は、一先ずの成果を上げたようだ。
ちょっと満足して、撫でてくれるシュメリとバルトの手に、喉を鳴らした。
コメント
1件
うわああ第5話も最高だったよ…!!😭💕 バルトが出てきてリンネに飛びつくシーン、もう胸きゅんが止まらんかった!!でもその後シュメリががっちりホールドして離さないの、リンネ「動けない」ってなってるの可愛すぎるでしょ…🤦♀️💗 しかもシュメリとバルト、リンネ争奪戦しながら実は会話増えてるのエモすぎない?!「魔種持ち同士で結婚の約束」って設定に胸熱…🔥 リンネの斑な記憶も気になるし、これからの展開待ちきれないよ…! 霞花怜さん、毎話心臓掴んで離さないのやめてください(褒めてる)✨