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「ねえ、さっき声が聞えたんだけど。エトワール様誰かと喋っていた?」

「ひぇえ!?」


夕食は部屋で取ることとなり、私はワゴンを持って部屋に戻ってきたリュシオルに先ほどの事を聞かれ、思わず変な声を上げてしまった。あまりにも不自然で、これはバレたかも知れないと、口を塞ぐが、リュシオルはそこまで深く、突っ込んでこなかったため「それでどうなの?」と聞いただけだった。


「だ、誰も来てないよ。てか、ここ三階だし人が来るわけないじゃん」

「それもそうね。じゃあ、エトワール様の独り言だったという事かしら」

「うーん、多分」

「多分って」


それ以上私は言えなかった。ヴィという青年が来ていたこと、その人と話していて、リュシオルが来たから三階から飛び降りて消えてしまったこと。こんな事はなせば、リュシオルは心配してしまうだろう。大事になって、さらに聖女殿の警備が強化されるかも知れないし。今日はあれだけど。またトワイライトと外に遊びに行きたいとき、それでは困ると思ったから何も言わなかった。

それに、彼のこと言っても信じてもらえるか分からないし、隠しておいた方が何かと便利だと思った。だから口にしなかっただけ。

リュシオルはふーんと、私を奇妙なものを見るような目で見て、食事を並べ終わるとスッと私の前から離れた。


「一緒に食べないの?」

「私はもう食べたから。それに、主人と食べている所なんて見られたら何て言われるか」

「そっか……メイドだもんね」


前世は、そういう主従関係とかなしにただの友達としていられたけれど、今ここでは聖女と従者の関係である為彼女と距離が出来てしまっている。物理的な。心の面では、こうして二人でいるときは楽に話せるけれど。


(まあ、でもリュシオルって結構敬語はずれてたりするんだよね)


思えばそうなのである。

強気な発言は、前世と変わっておらず、貴族の騎士に対してもずばずばと物事を言ったりする。そこが彼女の格好いいところであり、私の憧れだったりもするのだ。彼女みたいに、ズバッと物事を言えたら格好いいし、楽だろうなとも思った。


「じゃあ、いただきます」


私は手を合わせ、目の前にある食事に視線を落とす。そしてスプーンを手に取りスープを一口飲む。


「おいしい……」


この世界の食べ物に飽きていたわけではないが、美味しい料理を食べられることに改めて感謝した。

私が悪役になったら、もしかしたらこんな豪華な食事を取ることが出来なくなるかも知れないから。まあ、豪華でなくても食べられるならいいけれど、それでも先ほどぼっち飯だろうなと思っていたため、リュシオルがいてくれるだけで美味しい料理もさらに追い空く感じた。


「良かったわね。ほら、もっとあるから遠慮しないで」

「うん……ありがとう」


私は何故だか涙が出てきた。視界が滲んで、スプーンを持つ手が震えた。

リュシオルは、そんな私に気づいてか、顔をのぞき込んで心配そうな表情を浮べた。


「ううん、ちょっと、あれ……何で泣いてるんだろ」

「エトワール様って自分の感情に疎いからね。泣くのだって我慢していたんじゃないの?」

「違うよ。別に泣きたくて泣いたわけじゃないし」


リュシオルは、ハンカチを取り出して、私の目元に当ててくれた。

その優しさが嬉しくて余計に溢れてくるもので、止まらなかった。だから私は彼女に抱きついた。彼女は少し驚いたようだったが、そのまま優しく抱きしめ返してくれた。

此の世界にきてから泣くことが多くなった気がする。あっちの世界では、こんなに感情的になって泣くことがなかった。

多分あっちの世界ではかなり無理していたんだと思う。辛いことを辛いと思っても、我慢しなきゃいけないって思っていて、それで泣くのを我慢していたのかも知れない。そうじゃないと、本当に嫌われてしまうと思い込んでいたから。

でも、こっちの世界にきてそういう障がいがなくなっても、過去に虐めた人がいなかったり、両親がいなかったりしてもそれでも辛いことが一杯あった。本当は、昨日の聖女殿から出ないようにって言われたことも心に来ていたと思う。でも、トワイライトの前だし、申し訳なさそうなルーメンさんの顔を見て泣かなかったし、辛いと口にしなかった。大人な対応をすることが求められているんじゃないかって私は思っていたから。

だからこうしてリュシオルに会って、その緊張の糸が切れてしまったのかもしれない。私はリュシオルの胸の中で思いっきり泣いた。今まで溜めてきたものを全部吐き出すように。その間リュシオルは何も言わずに、ただ背中をさすってくれたり、頭を撫でてくれていた。それがとても心地よくて、安心できた。


「私、私、何も悪くないのに――――!」


そう叫んで、私は全て吐き出した。


辛い、辛い、辛い、辛いの。


誰か私は間違っていないって、悪くないっていって欲しい。リュシオルみたいに、味方で居続けて欲しい。そんなことを思いながら泣いた。

先ほどヴィと喋っていたときとは想像がつかないぐらい子供になって泣いていた。彼と話しているときはなんともなかったのに、自分の感情がままならなくて。

それから、暫く彼女の胸で泣いていた。此の世界にきて、何度もこんな風に彼女に胸を貸してもらっている。そのたび安心できるし、認められたような心地よささえ覚える。


「落ち着いた?」


しばらくして、落ち着きを取り戻した。

私は恥ずかしくて顔を上げることが出来なかった。だから、まだリュシオルの胸にうずくまっていた。リュシオルは、私の頭の上でクスリと笑った。


「ご飯冷めるんじゃないの?」

「食べさせて」

「子供か」


リュシオルは笑いながらも、私の口に小さく切ったお肉を運んできてくれた。私は口を開けて一口食べる。すると、今度はスープを掬って飲ませてくれる。そしてパンをちぎり私の口に運ぶ。まるで親鳥が雛に餌を与えるかのように。私はされるがままにそれを食べていった。

そして最後のデザートを口に運ばれ、私はようやくリュシオルから離れた。リュシオルは、満足げな表情をしていた。

私はそんな彼女の表情にドキッとした。


(あー、やっぱり綺麗だな)


前世で見た彼女の笑顔はもっと可愛かったけれど、今世のリュシオルは可愛いというより美人なのだ。だから、つい見惚れてしまうしドキドキしてしまう。

きっとリュシオルが男性だったら惚れていただろうなと私は思った。包容力のある人と結婚したい。


「まあ、本物のヒロインが現われて大丈夫かなってずっと思ってたのよ。だから、一回泣いてそれだけじゃスッキリしないかも知れないけれど、貴方は吐き出すべきだと思ったわ」

「ありがとう、本当に私のこと気にしてくれるんだね。リュシオル」

「当たり前じゃない。貴方は大切な私の親友なんだから」


と、リュシオルは笑っていた。


彼女は矢っ張り私のことをしっかり見ててくれると思った。だからこそ、彼女に頼ってしまうんだけど。


「それはいいとして、物語通りに進んだらどうなるのかしら」

「……よく分からないけど、今のところ物語通りに進んでいないんだよね」


私とリュシオルは互いに顔を合わせて悩んだ。

トワイライトはゲームと違って私をお姉様と呼ぶ。でも、彼女が転生者という感じはしないし、ゲームのトワイライトと何一つ性格は変わらないのだ。だから、物語から外れてしまったヒロインとして今後どうなっていくのか。攻略キャラが彼女を好きになっている様子もなかったし、逆に好きになったとしてどのルートを進むのだろうか。どのルートを進んだとしても、エトワールが悪役になる道は免れないのかも知れない。


「このまま見続けるしかないと思ったけど、今度の皇太子の誕生パーティーがねえ」


と、リュシオルは呟いた。その呟きで、私はすっかり忘れていたリースの誕生日を思い出した。すっかりというか、あれ程リースの誕生日が遥輝の誕生日を祝わないとと思っていたのに、ヴィと話していたせいで、興味がトワイライトの方に言ってしまったのだ。


「今回みたいに、参加するなって言われるかも知れない」

「確かに、その可能性はあるわね」


私がそう言うと、リュシオルも同意した。

今回の式典のように、また参加禁止を言い渡されたら、今度は従える自信がない。だって、今回はちゃんと誕生日を祝う気満々だったから。

だけど、そんなこと私に言える権限もない。また、悪女だ偽物だと言われるがオチである。皇太子をたぶらかしたって。

はあ……と私は大きな溜息しか出なかった。どちらにせよ、公の場には出られないと思った。魔法でこの髪色を変えていったとしても警備が強化されているなら難しいだろうし。

そんなことを考えていると、下の方からバタバタと音が聞え、トワイライトが帰ってきたのではないかと思い私は急いで階段を下っていった。

下に行くと案の定トワイライトが帰ってきており、私を見るなり疲れた様子で走ってくると抱きついた。


「お姉様あ!」

「お、お帰り、トワイライト……ど、如何したの?」


私は驚いてそう聞いた。まあ、いつものだろうと思ったが、彼女は疲れ切った様子で、口を開いた。


「皇太子殿下と、婚約をって言われて……」

「え?」


乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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