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第5話 泡沫の少女
――朝。
蓮の部屋。
カーテンは閉じたまま。
ベッドの上で、蓮は天井を睨んでいた。
蓮「…………。」
眠れなかった。
目を閉じれば、昨日の光景が蘇る。
――『貴方、コロシ屋さん?』
――『貴方じゃ私に勝てない。』
蓮「…………クソッ!」
ガバッと起き上がる。
蓮「何なんだよ、あの女……!」
髪を乱暴に掻く。
蓮「急に現れて……俺のこと知ってるみてぇな口きいて……!」
蓮「…………チッ」
机の上に目を向ける。
そこには、昨日父親から渡された資料。
蓮「…………。」
資料を掴む。
蓮「……彗音コイツの情報をどうにかして…知らないとアイツと対等に戦えねぇ…」
一枚目。
【彗音】
【異名――『泡沫の絶殺』】
蓮「…………。」
ページをめくる。
【異能力発現――10歳】
蓮「十歳……。」
さらにめくる。
【14歳――能力特化】
蓮「…………。」
そして。
【攻撃行動――確認されず】
蓮「…………は?」
蓮「ふざけんなよ……」
昨日のあの気配。
あれが「攻撃していない人間」のものだとは思えない。
蓮「じゃあ、何なんだよ……!」
紙を机に叩きつける。
蓮「昨日のアレは何だったんだよ!!」
拳を握る。
蓮「…………。」
思い出す。
彗音の目。
あの静かな声。
『貴方じゃ私に勝てない。』
蓮「…………。」
蓮「……クソ」
悔しい。
腹が立つ。
何より――
自分が怯んだことが、気に食わない。
蓮「俺が……。」
拳を見る。
蓮「俺が、あんな女一人に……。」
言葉が止まる。
蓮「…………。」
そして。
資料をめくる。
【10歳以前の記録――存在せず】
蓮「…………。」
一ノ瀬ルナ
10
#日記
QuartoMew
1,527
62
フユめん
380
蓮「……は?」
目を見開く。
蓮「十歳以前が……ねぇ?」
資料を何度も確認する。
蓮「生まれた場所も……家族も……何もねぇじゃねぇか……」
蓮「…………。」
蓮「おかしいだろ、こんなの……!」
紙を握り潰しかける。
蓮「人間一人分の過去が、丸ごと消えてるなんて……!」
その瞬間。
スマホが震えた。
――ブブッ。
蓮「…………!」
画面を見る。
父親。
蓮「…………。」
蓮「……また、あのクソ親父かよ。」
通知を開く。
【お前の事だからどうぜ頭に血昇って調べてるだろう?もうやめろお前では知識不足だ】
蓮「…………。」
蓮「…………は?」
怒りが込み上げる。
蓮「なんでだよ……!」
返信する。
【何でだよ】
既読。
すぐに返信。
【お前には重すぎだった。もう必要ない。この任務は別のやつに】
蓮「…………。」
蓮「…………。」
スマホを握り締める。
蓮「ふざけんな……。」
蓮「散々俺を使っといて……。」
蓮「今さら『必要ない』だぁ……?」
拳が震える。
蓮「俺は……。」
言葉が詰まる。
蓮「……俺は、お前の言うこと聞いてりゃいいだけの人形じゃねぇんだよ!!」
スマホをベッドに投げる。
――ドサッ。
荒い息。
蓮「…………。」
静かになる。
そして。
蓮「…………クソ。」
小さく呟く。
蓮「何で……。」
蓮「何で俺には、何も教えねぇんだよ……」
――――――
その頃。
街の外れ。
小さな公園。
彗音「…………。」
ベンチに座っていた。
膝の上には紙袋。
中には大量の飴。
彗音「…………。」
一つ取り出す。
包装をじっと眺める。
彗音「綺麗……」
光に透かす。
そして。
ぱく。
彗音「…………。」
彗音「甘い。」
少し考える。
彗音「…………当たり前ね。」
――にゃあ。
彗音「…………?」
足元を見る。
猫が一匹。
彗音「こんにちは。」
猫「にゃあ。」
彗音「…………。」
彗音「返事した。」
猫に手を伸ばす。
逃げる。
彗音「…………。」
少し待つ。
猫が戻ってくる。
彗音「…………。」
そっと撫でる。
彗音「可愛い。」
猫「にゃあ。」
彗音「ねぇ。」
猫「…………。」
彗音「私って……怖い?」
猫「…………。」
彗音「…………。」
彗音「そう。」
猫「にゃあ。」
彗音「…………。」
彗音「否定してくれたのかと思った。」
少しだけ寂しそうに笑う。
――その時。
公園の入口。
男が二人、彗音を見ていた。
男「…………あれが……。」
「泡沫の絶殺。」
彗音「…………。」
手が止まる。
顔を上げる。
男たちは、すぐに立ち去っていった。
彗音「…………。」
彗音「また……」
小さく呟く。
彗音「『泡沫の絶殺』。」
彗音「…………。」
彗音「私は彗音なのに……」
――――――
夕方。
彗音は古びた建物へ入っていく。
――ギィ……。
彗音「…………。」
静かな室内。
誰もいない。
……と思った。
??「おかえり〜」
彗音「…………!」
声のした方を見る。
??「こっちこっちー」
棚の上。
一人の青年が寝転がっていた。
青年「やっほ〜お疲れさん」
青年は彗音の頭を撫でた
彗音「…………手退かしてくれない?」
青年「えー別にえぇやんかー」
彗音「いい歳した男性が女子高生の頭を撫でるの?」
青年「=( ‘-’ )⇒グサッ!!い、いい歳……いい歳した男性……いい歳した……いい歳した……」
青年は突然ニコニコになり
その手にはコンビニ袋。
青年「はい、お土産ー」
彗音「…………。」
袋を見る。
大量の飴。
彗音「…………。」
青年「好きやろ?」
彗音「……好き。」
青年「よっしゃ!」
嬉しそうに笑う。
青年「俺、彗音ちゃんの好み覚えるの得意やからな〜。」
彗音「…………。」
青年「なに?」
彗音「……少し怖い。」
青年「なんで!?」
彗音「全部覚えてるから。」
青年「そら覚えるやろ〜。」
彗音「…………。」
青年「可愛い子のことは、覚えときたいねん。」
彗音「…………。」
青年「今日も可愛ええで、彗音ちゃん。」
彗音「…………何か欲しいの?あ、飴」
青年「いや、褒めただけやけど?」
彗音「飴いる??」
青年「そうゆうんじゃないんよなーーー(;_;)ただ褒めただけやのに……違う方向に行ってしまったやん……」
胸を押さえる。
青年「俺、めっちゃ傷ついたわ……久しぶりにやけど」
彗音「…………。」
青年「もっと優しくしてぇやお兄さんの精神崩壊してまうやん」
彗音「無理」
青年「即答!?」
彗音「“((。。*)コクッ」
青年「…………。」
青年「彗音ちゃん、最近冷たない?」
彗音「そう?」
青年「そうやで。」
彗音「…………。」
青年「…………。」
彗音「…………。」
青年「…………。」
彗音「何?」
青年「いや、何か喋って?」
彗音「何を?」
青年「そこから!?」
彗音「…………飴ちゃんいる?」
青年「それ今日二回目やぞ!?飴ちゃんは貰うけど」
彗音が小さく笑う。
青年も笑う。
――けれど。
一瞬。
青年の視線が窓の外へ向く。
誰かが建物の前を通った。
青年「…………。」
その瞬間。
青年の笑顔が消える。
彗音「…………?」
青年「…………。」
彗音「どうしたの?」
青年「ん?」
彗音「今、怖い顔してた。」
青年「…………。」
青年「気のせいやって。」
いつもの笑顔。
青年「俺、怖い顔似合わへんやろ?」
彗音「…………。」
彗音「似合うと思う。」
青年「…………。」
青年「そこは否定してぇなぁ。」
彗音「…………。」
青年「まぁ、ええけど。」
青年は笑う。
そして。
何事もなかったように飴を一つ取り出す。
青年「ほら。食べ。」
彗音「…………。」
彗音「ありがとう。」
青年「どういたしまして( -`ω-)✧」
――――――
夜。
彗音は一枚の写真を持っていた。
幼い自分。
その隣には――
顔の部分だけ破れている人物。
彗音「…………。」
青年「…………。」
彗音「ねぇ。」
青年「ん?」
彗音「この人、誰?」
青年「…………。」
青年は写真を見る。
青年「さぁ?」
彗音「…………。」
青年「忘れたんちゃう?」
彗音「忘れた……」
青年「人間やもん、そんな全部頭に詰め込んでも忘れてしまう生き物や」
彗音「…………。」
青年「無理して思い出さんでもええよ。」
彗音「…………。」
青年「過去なんて、思い出してもろくなことないやろ。」
彗音「この写真」
写真を握る。
彗音「なんか懐かしい」
青年「…………。」
彗音「そんな感覚した」
青年「…………。」
彗音「小さい頃の私は写真を撮るほど思い出に残したかったのかな……」
青年「…………。」
彗音「分からない…」
――頭の奥。
白い光。
何かが崩れる。
誰かの声。
幼い自分。
彗音「…………っ。」
写真を落とす。
――カタン。
青年「…………彗音ちゃん。」
彗音「…………。」
青年が近づく。
青年「大丈夫?」
彗音「…………大丈夫。」
彗音「この写真持っててもいい?」
青年「…………もちろんえーよ」
青年はしゃがみ込む。
そして。
彗音の頭を軽く撫でる。
青年「一旦心落ち着かせとき」
彗音「…………(。_。`)コク」
青年「分からんことは、分からんままでええ。」
彗音「…………。」
青年「お兄さんがいるんやから。そうゆう時に頼りにして欲しいわけよ」
彗音「…………。」
青年「な?」
彗音「…………( . .)“コクありがとう」
青年「よし。」
いつもの笑顔。
青年「じゃあ、飴食べてリフレッシュといこーか」
彗音「…………今?」
青年「今しかないやろ?」
彗音「…………飴ちゃん可愛い。」
青年「ほら。」
彗音「………やっぱ甘い…(*´༥` *)ŧ‹”ŧ‹”」
青年「飴やからそら甘いやろーなってあまっ!??えぇ……甘すぎひん……!?」
――――――
その頃。
蓮の部屋。
蓮「…………。」
机の上。
彗音の資料。
蓮「…………。」
蓮は一枚の紙を睨んでいた。
【10歳以前の記録――存在せず】
蓮「…………。」
蓮「ありえねぇ…」
紙を握る。
蓮「誰かが消した……?」
蓮「…………諦めるならとっくにやめてるっての……」
父親からのメッセージ。
【お前の事だからどうぜ頭に血昇って調べてるだろう?もうやめろお前では知識不足だ】
蓮「…………知識不足……って誰が決め付けたんだ……俺だけの力で真相を深ぼってやんよ……!」
蓮「…………覚えとけ」
蓮「絶対…俺がこのモヤモヤを晴らすまで……俺は逃げねぇ」
スマホを握り締める。
蓮「……あのクソ女ともう一度会った時に……聞くのはやめた方がいい。」
蓮「俺にできる最大限のことを……」
蓮「考えろ……!!」
蓮「…………。」
そして。
昨日の彗音を思い出す。
『貴方じゃ私に勝てない。』
蓮「…………。」
蓮「……まだ勝敗もついてないくせに決めつけやがって……」
少し間を置く。
蓮「…………。」
蓮「……でも。」
蓮「なんで、俺……あいつのことばっか考えてんだよ……」
拳を握る。
蓮「…………クソ!気持ちわりぃ……!」
――――――
夜。
古びた建物。
彗音「…………。」
窓から月を眺めている。
青年「…………なぁ。」
彗音「ん?」
青年「昨日会った男の話聞かせてくれへんの?」
彗音「…………コロシ屋さんのこと?」
青年「そうそう」
青年「どんな奴やったん?」
彗音「…………ん〜」
少し考える。
彗音「口が悪い。」
青年「へぇ……」
彗音「怒ってた。」
青年「なるほどぉ」
彗音「…なんか焦ってた」
青年「それ、さっきから彗音ちゃんの感想を言ってるだけやない?」
彗音「でも」
青年「ん?」
彗音「寂しそうだった。」
青年「…………」
青年の笑顔が止まる。
青年「…………寂しそう……か」
彗音「?」
青年「…………蓮、ねぇ。コロシ屋の」
彗音「(。_。`)コク」
青年「…………。」
青年は窓の外を見る。
そして。
小さく笑った。
青年「…………そっか。」
彗音「どうかしたの?」
青年「いや」
青年「なんでもないで」
彗音「………あ、飴ちゃん欲しい?」
青年「それ今日何回目言うん…?」
彗音「…数えてたの?」
青年「そら数えるやろ」
彗音「…………暇なのね(*´༥` *)ŧ‹”ŧ‹”」
青年「=(´□`)⇒グサッ!!クリティカルヒットしたで!?今!」
青年は笑う。
いつもの。
軽くて。
チャラくて。
掴みどころのない笑顔。
けれど。
その瞳の奥には――
何かを知っている人間だけが持つ、静かな影があった。
───その青年の正体は……何者なのか───
コメント
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第5話、読み終わりました…!彗音さんの過去が「10歳以前の記録なし」って、すごく気になります。あの猫とのやりとりで「私って怖い?」って聞くところ、胸がぎゅっとなりました。そして青年との飴のやりとり、あの温かさと笑顔の裏にある影が気になる…。蓮も父親に「重すぎる」って言われても自分で調べようとしてて、不器用だけど熱い男だなって思いました。次が待ち遠しいです!