テラーノベル
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侵入者は五人。
足音の重さからして、ただの野盗ではない。
それなりの装備を整えた「傭兵」か、あるいは元ギルド『聖域』が放った刺客だろう。
「ルナ。お前に教えた『影魔法』……実戦で試してみるか?」
問いかけると、ルナの瞳が劇的に変わった。
それまでの仔猫のような甘えは消え失せ、底なしの深い青が冷酷な光を宿す。
彼女は深く、深く一礼し、そのまま地面に溶けるようにして姿を消した。
屋敷から少し離れた林道。
重厚な鎧を纏った男たちが、抜いた剣を手に慎重に進んでいた。
「おい、本当にここなのか? 追放された付与術師一人が住むには、随分と立派な結界が張られていたが……」
「ああ。ギルド長からの命令だ。『ゼノンを連れ戻せ。拒むようなら、再起不能にしてでも連れて行け』とな。あの男がいなくなってから、本部の魔導設備はガタガタだからな」
男たちの会話を、俺は屋敷のテラスから遠隔視の魔術で眺めていた。
やはり『聖域』の刺客か。
自分たちで追い出しておいて、不具合が出たら暴力で解決しようとは。
つくづく反吐が出る。
「だがよ、さっきから妙な気配がしねえか? 足元がやけに暗いというか……」
一人の男が足を止めた。
快晴の空の下だというのに、彼の足元の影が
まるで生き物のように蠢いていることに気づいたのだ。
「ひ……っ!?」
悲鳴を上げる暇もなかった。
影から伸びた漆黒の刃が、男の膝裏を正確に貫いた。
ルナだ。
彼女は姿を見せないまま、影の中から攻撃を仕掛けている。
「どこだ! どこにいやがる!」
慌てて剣を振り回す傭兵たち。
だが、ルナは彼らの「死角」からしか現れない。
木の幹の影、岩の影、そして──傭兵たち自身の影。
黒い閃光が走るたび、傭兵たちの手首
足首の腱が、致命傷を避けつつも確実に断ち切られていく。
「化け物……化け物め!」
一人が背後の影に気づき、闇雲に魔法を放とうとした。
だが、その瞬間にルナが実体化した。
男の背後に音もなく立ち、細い指先を彼の首筋に添える。
ルナの指先からは、青い薔薇の紋章を思わせる氷の結晶が芽吹いていた。
「……やめて」
声帯を失っているはずの彼女が、魔力を震わせて直接脳内に響かせるような冷徹な思念を放つ。
氷の結晶が男の首を瞬時に凍らせ、彼は声を上げることもできずに崩れ落ちた。
わずか数分
立派な装備を整えた五人の傭兵は、一人として俺の屋敷に近づくこともできず、戦闘不能に追い込まれた。
「……すごい。すごいぞルナ!」
俺がテラスから飛び降りて着地すると、ルナは血一滴浴びていないドレスの裾を翻し、俺の元へ駆け寄ってきた。
先ほどまでの死神のような冷徹さはどこへやら。
彼女は「褒めて」と言わんばかりに、また潤んだ瞳で俺を見上げている。
「よくやった。影の転移精度も上がっているし、無駄な動きもなかった」
俺が彼女の頭を撫でると、ルナは幸せそうに目を閉じ、俺の腕に頬を擦り寄せた。
「だがな、ルナ。……こいつらを生かして帰すと、また面倒なのが来る。……どうすればいいか、判るか?」
俺が意地悪く笑いながら尋ねると、ルナは少しだけ首を傾げた後、スッと表情を消した。
そして、地面に転がる傭兵たちに向けて、影の刃をさらに鋭く研ぎ澄ませる。
「……冗談だ。こいつらには『ゼノンは死神の少女を飼っている』という恐怖を植え付けて追い返してやれ。それが一番の防壁になる」
俺の言葉に、ルナは少し残念そうに刃を収め
俺の影の中へと再び静かに沈んでいった。
───元ギルド『聖域』。
お前たちが捨てた「ただの付与術師」が、どんな魔法使いを育て上げているか……せいぜい震えて待つがいい。
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