テラーノベル
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その笑顔を見た瞬間、胸の奥が静かに締めつけられた。
こんな顔、できるんや。
そう思った。
普段の君は、どこか張り詰めていて、 誰にも寄りかからないように、
無意識に距離を取っているように俺には見えたから。
でも今は違う。
俺の肩に体を預けて、 小さく息を立てて眠っている。
その事実が、妙に現実味を帯びていて、 同時に、ひどく脆いものにも感じられた。
このまま、離れたらどうなるんだろう。
また、元の君に戻るのか。 何もなかったみたいに、 ひとりで全部抱え込む君に。
『離れんといてや、…』
思わず、声が漏れた。
もちろん君は起きない。
ただ少しだけ、俺の服を掴む手に力が入った気がした。
俺はゆっくりと、君の身体が楽になるように体勢を整えた。
点滴の管に触れないように気をつけながら、
そっと、ベッドに寄りかからせる。
それでも君は、完全には離れなくて、
俺の袖を掴んだままだった。
『しゃあないな、…』
小さく笑って、ベッドの脇に腰を下ろし直す。
このまま、しばらく動けへんな。
そう思ったのに、不思議と嫌じゃなかった。
静かな病室に、規則的な音が響く。 点滴の音と、君の穏やかな寝息。
時間が、ゆっくり流れていく。
ふと、君の額にかかる、
薬の副作用で少し抜け落ちてしまった髪が気になって、 指先でそっと整えた。
その瞬間、君の唇がわずかに動いた。
『いか、…ないで、っ、…』
かすれるような、小さな声。
夢の中での言葉なのか、 それとも──
『行かへんよ。』
今度は、はっきりと答えた。
聞こえていなくてもいい。
それでも、伝えておきたかった。
君が一人で抱え込むのが当たり前なら、
俺は、そこに“当たり前に居る存在”になればいい。
無理に変えなくていい。
ただ、少しずつ、 君の中に、俺が居ることを残していけばいい。
君の手を、そっと包む。
今度は、振り払われなかった。
その温もりを確かめながら、 俺は静かに目を閉じた。
ほんの少しだけ、 この時間に甘えてもいい気がした。
コメント
2件
これ、どうなっちゃうんだろ