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第4話:ヴェール・バインドの選択
東京――封鎖された地下第零地区。
元々は極秘の防衛指令室だった場所に、
今はヴェール・バインドの中枢が移設されていた。
天井には古い蛍光灯。
壁はスチールと配線がむき出しで、どこか“廃墟を使い直した”ような空気。
だが、中央には最新鋭のフラクタル干渉装置が静かに稼働している。
その空間に、一人の男が立っていた。
ゼイン。
銀白の短髪に、戦闘用フラクタルスーツを纏った青年。
黒を基調にした装甲のような上着は、関節ごとにコードホルダーが走っており、
背中には“演算杭”と呼ばれる小型フラクタル端末を装着している。
彼の左目の下には、青白く光るフラクタルの印が微かに浮かんでいた。
対面にいたのは、ヴェール・バインドのトップ――城崎(しろさき)暁翔(ぎょうしょう)。
スーツの上から防弾ベストを着け、両目に縁のない眼鏡。
髪は黒くオールバックで、口元にはいつも皮肉めいた笑みが浮かんでいる。
「来てくれて感謝するよ、ゼイン。
お前にしか頼めない。……この戦争を止めるのは、な」
ゼインは、冷めた目を返す。
「俺が? 皮肉にしては古いな」
城崎は静かにモニターを操作し、杭が落ちた座標図を映し出した。
世界地図に突き刺さる数十本の光。
「これが、“死の杭”の影響範囲だ。
通常兵器が一切使えなくなった世界で、
唯一動けるのが――お前のような“自律型碧族”だ」
ゼインは無言のまま、マップを見つめる。
背後で、すずかAIが応答する。
「現在、アメリカ側が準備している“第二の杭”の座標が、東アジア圏に迫っています。
日本が巻き込まれるのは、時間の問題です」
「そうならないために――」
城崎がゼインの前に歩み寄る。
スーツの内ポケットから、フラクタルプレートを一枚取り出す。
「これを渡す。“杭コードの原理ファイル”。
お前なら、読めるだろ?」
ゼインはファイルを受け取り、かすかに目を細めた。
「……これを俺に渡すってことは、つまり、協力しろってことか」
城崎は口元をゆがめて笑う。
「協力しろじゃない。お前にしか止められない」
その言葉が、室内に重く残る。
ゼインの指が、ファイルの縁をなぞる。
その瞬間、青いコードが彼の右手に展開された。
《ACCESS = FRACTAL_ROOT(KEY_VER4.7)》
→ 解読開始――杭構造式展開中…
フラクタルが舞う。
空間に幾何学模様が浮かび、光と粒子が円を描くように揺れる。
それは、科学を超えた“命の演算式”。
すずかAIの声が、ゼインの脳内に静かに届く。
「ゼイン。もしこれを受け入れるなら――次は、敵にも味方にもなれない立場になります。
それでも、“止める覚悟”は、ありますか?」
ゼインは仮面のように無表情なまま、コードを閉じた。
「……ナヴィスを動かす。俺が東で止めるなら、彼女は西を揺らす」
城崎の眼鏡がわずかに光った。
「それでいい。やつはすでに動き出している」
ゼインは踵を返し、部屋を出る前に一言だけ残した。
「これは、命令じゃ止められない戦争だ。
――だから、俺がやる」