「初めまして.私のBARへようこそ」
時刻は午前1時を壁の時計が針で示していた
薄暗い霧の立ち誇る真夜中の路地裏には深夜1時から午前3時までの2時間しか開くことの無い奇妙なBARがあった
外装の割に内装は割とクラシックで薄暗くオレンジ色の光がBARの全てを照らしている
奥のカウンターにはグラスを綺麗な布で丁重に扱っているバーテンダーの男の姿がうつる
「今夜は…何か面白い事が起こる気がするんです」
ゆらりと揺れる水に反射した店主が密かに笑うその姿が本当に不気味だ
不気味と言えば、このBARただのBARでは無いようだ。
ただの噂だが,このBARに行くお客はその特徴のある声,喋り方やもてなしに心を奪われ,死んだように____…を消すそうだ…
カウンターにいるバーテンダーの男が控えめに笑いながらお客であろう人に話しかける、だがお客であろう男の口元は愛想笑いすらもせず口角を下げたままだ
中折れ帽子を深く被ったその姿で顔は見えない
ただひたすら見えもしないカウンター先の男の姿を見つめている
「そんな所にいては,カクテルも飲めないことでしょう?」
店主の言葉に男はハッとしたように、入口のマットから足を前に出し,目の前の椅子元にバックを落とした
「お帽子とお荷物.お預かり致します」
いつの間にかカウンターから背後まで来た男に驚きながら振り返る だがやはり表情一つ変えずにお客である男の有無を聞かず白く細い、腕を伸ばし男の前に差し出した。
男は少しの間、何か考えているように思えたが,床に置いたバックとコート、そして帽子を店主に渡した
「おや…?お兄さん…」
帽子を取り、素顔がよく見えるようになったお客の男の顔を店主はじっと見つめる
「…何か?」
「いえ、失礼。珍しいお顔立ちですね」
染めた事の無いだろう黒髪はかきあげられており、コートを脱いだ身体はスーツであろうとも分かるくらい鍛えられていることが分かる
口元は相変わらず下がっているまま。
そのキリッとした目は店主の男をじっと見つめている
「いらっしゃいませ」
_初めましてお客様_🥀𓈒 𓏸
「席はこちらになります」
コートを掛け終わったバーテンダーがカウンターのすぐ近くの席に男を誘導する
そのまま男は椅子に腰を下ろすと目の前に綺麗に並べられたカクテルにひと通り目を通す
「……BARに来るのは初めてなんだ。」
「……ではアルコールの方はどうされますか?」
バーテンダーの男はお客である男に質問をする
男はすぐに答えた。
「度数が低いのを頼む」
「それではロングカクテルの定番 ジン・トニックなどいかがでしょう?」
男が頷くとバーテンダーは慣れた手つきでカクテルを作り始める
客の男は内装を横目に見渡す
広くもない店内はカクテルや植物が綺麗に並べられていて凝ってるように見える。
薄暗い光の店内は長時間居ても落ち着けられる
ただ、店主はまるで愛想が無さそうに伺える
(…ここが本当にあのBARなのか……)
・‥…━━━☞
「お待たせしました」
出来たてのカクテルが目の前に差し出される
ひと口カクテルを飲むと、爽やかな味とほのかな甘みが口に広がり、スッキリとした味だ
「そちらゆっくり飲むのをおすすめします」
1口飲んだカクテルを置くと、お客の男は口を開く
「…あんたに聞きたいことがあるんだ」
「お客様、私の事はバーテンダーとお呼びください」
お客の男はバーテンダーの言葉をまるで聞かずに言葉を続けた
「ここ、カクテル作るだけじゃないだろ?」
「………」
客の男は懐から1枚の手紙を出し、カウンターの上に置いた
20代位の男がどこかのお店のお酒を飲みながら笑顔に笑ってる写真が映り込んでいた
「俺の知り合いがここに来て,そこから行方が分からなくなってる」
BARの男は写真の男を見つめる
先程までの表情が嘘のように静かに視点を下ろして見つめている
「…申し訳ありませんが、こちらの写真の男性は、当店にお越し頂いたことはございません」
「なぜそう言い切れる?」
「私は訪れるお客様の顔はたった一度でも覚えることが可能です…この男性は、まだ私のお客様ではありません。」
「それだけじゃねぇ、ここらの近所の人も、こいつを見たって目撃されてるんだ」
続けて言う男の言葉にバーテンダーは少し考え込むような素振りをみせる
男の腕に着けた綺麗な青色のブローチがキラキラと光に反射して綺麗に動く
「成程…」
そう…この写真の男は俺の仕事の同僚。
行きつけのお店だと言って、何度かこの店に訪れていたのを話で何度か聞いていた
最後別れたあの時も,この店に寄ってからその後の消息は不明のまま,行方不明になってしまった
もしここで、本当に何かあったのなら…このバーテンダーが事件に大きく関わってる加害者になり、タダでは済まないだろう
しかし…
「お客様、当店はBAR。お客様とのお話をしながらカクテルを作るのが私のお仕事です」
にっこり笑いながら洗ったグラスを拭きながら男と会話を続ける
まるで自分は関係ないと言ってるかのようだ
無闇に強く言えない…なぜならこの男が本当に関わってるのか証拠が不十分すぎる為。
男は怒るどころか頭を抱えてしまう羽目になってしまった。
(これじゃ……噂通りの迷宮入りだ。)
「ですがお客様の悩みは私の悩みです。」
抱えた指の間から目を通してバーテンダーを見つめる
「どういうことだ、なにがいいたい?」
てっきり知らんぷりすると思っていた。関係の無い人はむやみに突っ込むと関係者になる可能性があるため引っ込んでしまうところだが…
「BARは初めて…でしたね?」
男は拭き終わったグラスをかけると、指先でカウンターをなぞりながらお客に近付く
綺麗な水色の目が男をゆっくり凝視すると、入口前に掛けてあるお客のコートや私物に手を伸ばす
「お見せしましょう。私のお仕事を」
男の荷物やコート、帽子を手に取り,バーテンダーは男の前に再び現れた
さらに再び、あの言葉を口にする
「お客様の悩みは…私の悩みですから」
またお越しください…そう聞こえた気がしたと同時に、BARは終わりの鈴を鳴らした
コメント
1件
さすがです👏