私にも元彼がいたとはいえ、ここまで想いをプレゼンしてくれる人はいなかった。
何となく告白されて付き合ったあと、相手から『キスしたい』『エッチしたい』のオーラを感じて嫌になり、別れを告げていた。
彼らは彼らなりに私を好きだったのかもしれないけど、「愛されている」と感じた瞬間はなかったし、特に幸せでもなかった。
だから私も、元彼たちとはまったく違う涼さんに、興味津々でならない。
「……こんなに気持ちを乱されて、気になって堪らないのは恵ちゃんが初めてなんだ。だから君の初々しい反応を引き出したくて色んな事を言って、行動してみたくなる。君の事をもっと知りたいんだ。……多分、これが好きって事なんだと思う」
この上ない告白を聞き、私は顔の下半分を布団で隠し黙り込む。
(……どうしよう。嬉しい)
嬉しいけど、思ってるだけじゃ駄目だ。何か言わないと。
一生懸命いい言葉を探していると、涼さんにクシャクシャッと頭を撫でられた。
「俺も恵ちゃんも初めて同士だ。……だから、お互い報告し合っていこう。きっと俺たちはいい恋人になれる」
とても嬉しそうに笑う涼さんの顔を見ていると、今まで幸せな将来なんて想像できなかったのに、十年後ぐらい、幸せに過ごしている自分が見えてくるような気がする。
涼さんは溜め息をついてから「ん……っ」と伸びをし、私を抱き寄せた。
「寝ようか」
「えっ? ……あ、……はい。……いいの?」
目を瞬かせると、彼はチュッと私の頬にキスをする。
「こういう事は、急いでもいい結果にはならない。大切なのは俺が本気だって恵ちゃんに知ってもらう事、信頼を勝ち得る事。初対面でいきなりしてしまうより、何回かデートして俺の|為人《ひととなり》を知り、安心してからでもいいと思う。……っていうか、むしろそれが普通だし。……ごめん! 俺、夢中になって先走った。……格好悪ぃ……」
頭を下げて謝る涼さんは、まるで悪戯しているのを見つかった子供のようだ。
それがおかしくて、私はクスクス笑う。
「謝る事ないじゃないですか」
「恵ちゃんがそう思ってくれるならいいけど」
彼は安心したように息を吐き、私を抱き締めて脚を絡めてくる。
胸板に頬を押しつけた私は、涼さんのぬくもりを直に感じてそっと頬を染めた。
「……私、こうやって男性に抱き締められて寝るの、初めてです」
「そう? 恵ちゃんの初めて嬉しいな」
涼さんの返事を聞き、私は静かに目を閉じる。
ほんの一瞬だけ「俺もだよ」という返事を期待してしまった。
でもそんな訳はない。こんなに素敵な男性なら、ベッドインした女性は数え切れないぐらいいるだろう。
それも、私よりずっと女性らしい洗練された人だ。
(……顔の分からない女性に嫉妬するなんてバカだ)
私はキュッと唇を引き結び、静かに息を吐く。
すると涼さんはトントンと背中を叩き、私の額に唇を押しつけた。
「……嫉妬してくれてる?」
鋭く察され、私は無言で息を呑む。
「……初めてじゃないのは事実だ。でも、恵ちゃんを最後の|女性《ひと》にしたい。今後、恵ちゃん以外の女性を見ないし、抱かない。……だから、君を俺にちょうだい」
「っ~~~~!」
ストレートな言葉を聞いた瞬間、ズキュンッと胸を撃ち抜かれた気持ちになり、ドキドキして堪らない。
(なんなのこの人。こんな恥ずかしい言葉)
心の中で文句を言いかけ、そんな自分をもう一人の自分が叩く。
――嬉しいくせに。
――いつまでも意地を張ってたら、涼さんだって呆れて去っていく。
――せっかく掴んだ幸せを手放したいの?
――朱里みたいに愛されて幸せになる事を、本当は心から望んでいたんでしょ?
もう一人の自分に叱咤され、私は唇を震わせて返事をする。
「……っあ、…………あげ、……ます」
言ってしまった瞬間、「なんて恥ずかしい事を言ったんだろう!」とカーッと赤面し、逃げたくなるのをグッと堪えた。
「うん、ありがとう」
涼さんは嬉しそうに笑い、私を抱く腕に力を込める。
「大切にするね」
その声が本当に嬉しそうで、胸がキュッとなる。
(こんなに大切にされていいのかな)
不安になるけれど、きっと間違えてない。
心配になったら涼さんに確認すれば、彼ならなんでも答えてくれる。
「……大切にしてください。私も大切にします」
コメント
1件
みんなズキューン🔫 ( ˙꒳˙ )❤ダワ( *´艸`)