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#SCRATCHERS
K-Takasaka
49
25
#CREATIVE BASE
森の中で、カキは目を覚ました。
最初に見えたのは、青白い空だった。木々の隙間から差し込む光は、地球で見慣れた太陽のものとは違っている。空には大きな月が二つ浮かび、そのうち一つは昼間だというのに薄く残っていた。
「……ここ、どこだ?」
カキが起き上がると、すぐ近くでミステーが仰向けになっていた。ピラミッドの被り物は無事だったが、本人は何事もなかったように眠っている。
「ミステー、起きろ!」
「うるさい。今、夢の中で照明を調整している」
「寝ぼけてる場合かよ!」
カキがミステーの肩を揺さぶると、少し離れた場所からため息が聞こえた。
「朝から騒がしいわね。まだ寝ていてもいい時間なのに」
メバルが木の根元に座っていた。服には土がついているものの、怪我はないようだった。寝起きのせいか機嫌は悪く、カキを見る目も鋭い。
「メバルちゃん、ここがどこか分かるのか?」
「分かるわけないでしょう。分からない場所で大声を出すなんて、危険なんだから」
「いや、普通はみんな混乱するだろ!」
「混乱しても、周囲を確認するくらいできるわよ」
メバルは立ち上がり、森の奥と街道の先を見た。
少し離れたところには、マサカゲとアオノもいた。マサカゲは紫色のパーカーのほこりを払いながら、周囲を観察している。アオノは地面に落ちていた金属片を拾い、何かの部品であることを確かめていた。
「五人か」
マサカゲが全員を見回した。
「いや、六人のはずだ」
「Kさんは?」
カキが尋ねると、全員が周囲を見た。
森の中には、風で揺れる木々の音しかない。K-Tの姿はどこにも見当たらなかった。
メバルが眉をひそめる。
「近くにいるかもしれないわ。あの人なら、私たちが目を覚ます前に周辺を確認していても不思議じゃないもの」
「でも、何も言わずにいなくなるか?」
「Kさんは護衛なんだから、先に危険を調べているんでしょう」
マサカゲは街道の先を見つめた。
「ここに残るのは危険だ。あの街へ向かう」
「街に行けば、食べ物や宿もあるかもしれません」
アオノが言った。
「それに、Kさんも街へ向かっている可能性があります」
「よし、決まりだな!」
カキが立ち上がった。
「異世界に来たなら、まずは街だろ。冒険の始まりって感じがするぜ!」
「冒険というより、遭難なのに」
ミステーがピラミッドの被り物を押さえながら言った。
「異世界の街には、異世界の照明があるかもしれない」
「お前は本当にそれが好きだな!」
五人は街道を歩き始めた。
森を抜けると、遠くに大きな城壁が見えてきた。壁は灰色の石で造られ、門の両側には槍を持った兵士が立っている。街の中からは人々の声や荷車の音が聞こえ、見た目だけなら、活気のある普通の街に思えた。
しかし、マサカゲは歩みを緩めなかった。
「妙だな」
「何が?」
カキが聞く。
「門の前に人が少ない。商人の荷車も止まっている。兵士は俺たちではなく、周囲の屋根を気にしている」
アオノも小さな機械を取り出した。簡単な針式の装置だったが、針は一定の方向を指している。
「周囲に魔力反応があります。街の中からではなく、門の外側からです」
「罠かもしれないわね」
メバルが声を落とした。
「それなら、入らなければいいんじゃないか?」
カキが言うと、マサカゲは首を横に振った。
「森へ戻るのも危険だ。俺たちが見られている可能性がある」
「見られているって、誰に?」
返事の代わりに、ミステーが上を見た。
城壁の上に、人影があった。
だが、その姿はすぐに消える。
「今、誰かいた」
「見間違いじゃないでしょうね」
メバルが言った。
「私たちを狙っているなら、街の中へ入ったほうが危険なのに」
「だからこそ、入る」
マサカゲは冷静だった。
「相手が街の外で襲うつもりなら、すでに攻撃している。街の中に何か仕掛けているなら、こちらから情報を得る必要がある」
「殺し屋みたいな判断だな」
カキが冗談めかして言った。
マサカゲは答えなかった。
五人は門へ近づいた。
兵士の一人が手を上げる。
「止まれ。身分証を出せ」
「身分証なんて持ってないぞ」
カキが困ったように言った。
兵士の視線が、カキのオレンジ色のヘルメット、メバルやマサカゲの服、ミステーのピラミッドへ順番に移る。
「旅人か?」
「そうです。遠い場所から来ました」
アオノが答えた。
「どこから?」
「それは……」
アオノが言葉を詰まらせた。
異世界から来たなどと言えば、余計に疑われるだろう。
マサカゲが一歩前へ出る。
「街へ入りたい。問題があるなら、詰所で話す」
兵士が槍を少し下げた。
「武器を持っている者は預けろ」
メバルの目が細くなる。
「武器なんて持っていないわ」
「嘘だ」
兵士は即座に言った。
その瞬間、門の内側から金属音が響いた。
マサカゲが振り返る。
「伏せろ!」
叫び声と同時に、門の上から矢が降ってきた。
矢は地面に突き刺さり、兵士の一人が倒れる。街へ入るはずだった人々が悲鳴を上げ、門の周囲が一気に混乱した。
「街の中から攻撃してきた!」
アオノが叫んだ。
マサカゲはメバルの腕を引き、石柱の陰へ移動させる。
「全員、散れ!」
「命令しないで!」
メバルは文句を言いながらも、素早く身を隠した。
カキとミステーは門の脇に積まれた木箱の裏へ逃げ込む。カキが箱の隙間から外をのぞくと、街の屋根や路地から黒い服の人物が次々に現れていた。
「人数、多くないか?」
「八人。屋根に四人、門の内側に三人。残り一人は、後ろ」
マサカゲが言った。
「後ろ?」
メバルが振り返る。
そこには、先ほどまで街へ入ろうとしていた商人風の男が立っていた。男はいつの間にか短剣を抜いている。
メバルが身を低くすると、短剣が頭上を通り過ぎた。
「いきなり斬りつけるなんて、ずいぶん失礼じゃない!」
メバルは男の手首をつかみ、勢いよく投げ飛ばした。男は地面を転がり、石壁にぶつかる。
「メバルちゃん、強い!」
「感心してないで、あなたも動きなさい!」
屋根から矢が放たれる。
アオノが持っていた金属片を投げると、矢はそれにぶつかって軌道をそらした。
「その部品、武器だったのか?」
「本来は機械の部品です。でも、使い方次第です」
「便利だな!」
「便利と言っている場合ではありません!」
マサカゲは路地から現れた男の懐へ入り、腕をひねり上げた。男がナイフを落とす。マサカゲはそのナイフを拾い、自分の手元で回した。
「三人目」
「マサっち、数えてる場合か!」
カキが木箱の裏から叫ぶ。
「数えなければ、敵の人数を把握できない」
「冷静すぎるだろ!」
「冷静でなければ死ぬ」
マサカゲは別の敵の攻撃をかわした。だが、その直後、屋根の上から投げられた縄が彼の腕に絡みつく。
「マサカゲ!」
アオノが装置を構える。
しかし、装置は突然煙を吐いた。
「故障しました!」
「今かよ!」
「転生してから調整していないので!」
「そんな理由で壊れるな!」
マサカゲが縄を切ろうとするが、別の敵が背後から迫る。メバルも複数の相手に囲まれ、カキとミステーは木箱の裏から出ることができない。
「メバルちゃん、助けに行こう!」
カキが立ち上がる。
「待ちなさい!」
メバルが叫んだ。
「あなたが出たら、次はあなたが狙われるんだから!」
「でも、このままじゃ――」
その瞬間、門の上から巨大な火球が放たれた。
狙いは五人全員だった。
アオノが叫ぶ。
「避けられません!」
マサカゲは縄を切れず、メバルは敵に囲まれている。カキとミステーの前には逃げ道がない。
ミステーは攻撃することなく、ただカキの前に立った。
「カキ、伏せる」
「ミステー、お前も!」
火球が迫る。
だが、直撃の寸前、地面に青白い線が走った。
光の壁が立ち上がり、火球を受け止める。激しい爆発音が街の門前に響き渡った。
敵も、兵士たちも、五人も、何が起きたのか分からず動きを止める。
光の壁には、見慣れた機械的な紋様が浮かんでいた。
アオノが目を見開く。
「この防御装置……K-Tさんの装備に似ています」
メバルが周囲を見回した。
「Kさんが近くにいるの?」
誰も答えなかった。
街のどこにも、K-Tの姿はない。
ただ、門前に残された青白い防御壁だけが、五人を守るように立っていた。
マサカゲは縄を切り、立ち上がった。
「援護が入った」
「誰がやったのかしら」
メバルがつぶやく。
カキは防御壁を見つめた。
「Kさん、やっぱりこの街にいるのか?」
ミステーが首を傾ける。
「姿はない。でも、守っている」
防御壁の向こうで、敵の一人が後退した。
マサカゲはナイフを構える。
「逃がすな」
メバルが口元を上げた。
「当然でしょう。ここまで襲っておいて、無事に帰れると思っているなんて甘いんだから」
五人は一斉に動き出した。
カキとミステーは木箱の陰から飛び出し、アオノは壊れかけた装置を拾い上げる。メバルは敵の一人を投げ飛ばし、マサカゲは路地へ逃げようとする男の前に回り込んだ。
街へ入った直後に襲われた五人は、まだこの世界のことを何も知らない。
自分たちがなぜ転生したのかも、誰が敵なのかも分からない。
ただ一つだけ確かなのは、姿を見せないK-Tが、どこかで彼らを見守っているということだった。
コメント
1件
異世界転生なのに、いきなり街中で襲撃される展開がめちゃくちゃスリリングでした!五人それぞれの性格がセリフや動きにしっかり出ていて、特にメバルちゃんのツッコミとマサカゲの冷静さが対照的で楽しいですね。K-Tさんが姿を消して防御壁だけ残した謎も気になるし、続きがすごく待ち遠しいです!