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トレーニング後の休憩スペース。プロテインを飲みながら、大地さんは言った。
「ひよりはな、昔から男運がねぇんだ」
「男運、ですか?」
「ああ。あいつ、顔がいい方だし、愛想もいいだろ? だから男が寄ってくる。だが、あいつの中身は……その、なんだ……少し特殊というか……」
大地さんが気まずそうに言い淀み、シェイカーを揺らす。僕はなんとなく察して言葉を継いだ。
「……BL好きのオタクで、ちょっと妄想が激しいところ、ですか?」
「ぶふっ!」
大地さんがプロテインを吹き出した。
「お、お前……知ってんのか!? あいつの……変態の本性を!」
「知ってますよ。昨日のデートも春画展でしたし」
僕は昨日の光景を思い出し、ふっと笑った。
「僕は、そういうのよくわからないけど、楽しそうにしてる彼女を見るのが好きなんです。何かに夢中になれるって、素敵なことじゃないですか」
大地さんは、信じられないものを見る目で僕を凝視した。まるで宇宙人を見るような目だ。そして、深く、長くため息をついた。
「……マジかよ。今まであいつの本性がバレると、男どもはみんな『イメージが違った』とか『ついていけない』とか言って逃げ出したんだぞ。……まあ俺がシメてやった奴もいるが……もうあいつに傷ついてほしくないんだよ……」
大地さんは眉を下げた。威圧感はなく、妹を心配するの兄の顔だった。
「ひよりには『次、私の彼氏に手を出したら兄妹の縁を切る』って言われてるんだ。だから昨日の夜、お前をシメるのを我慢したんだが……」
(シメられなくて本当によかった……!)
大地さんはしばらく黙り込んでしまった。やがてカウンターの下から一枚の紙を取り出した。
「……そうか。……なら、これを受け取れ」
渡されたのは、入会申込書だった。よく見ると、「ファミリー割引」のところに乱暴に〇がつけられている。
「えっ」
「逃げるなよ?数か月かけてそのモヤシをゴボウくらいにはしてやる」
「ちょ、お義兄さん!? ハードル高すぎません!?」
「うるせぇ! 来週から週3で来い! あと、ひよりには絶対内緒だぞ!」
「えっ、内緒ですか?」
「俺が裏で手を引いてるとバレたら、怒られるからな! いいか、これは男同士の約束だ! 返事は!?」
「は、はいぃッ!!」
ジムに僕の悲鳴混じりの声が響き渡る。こうして、僕と魔王(お義兄さん)との、地獄のような、でも心強い「共犯関係」が結ばれたのだった。