私には見えない景色が見えているのか?……そうなのかもしれんな。
いや、そんなはずがない! ならばなぜ、お前は自分の姿が見えないのだ!? それは……俺にもわからんよ。
だが一つだけ言えることがある。俺はもうじき消えるんだろうさ。
だから、それまで精一杯生きるだけだ。
その言葉を最後に、男の気配は完全に消えた。
そこにいたはずの男は、初めからいなかったかのように。
ただ一枚の写真だけが残されていた。
その光景を見て、 ふっと笑みを浮かべる青年がいた。
まるで自嘲するような笑みだったが、 それはそれで仕方がないことだ。
彼だって、本当はわかっていたのだ。
ただ……認めたくなかっただけなのだ。
己の存在が消えたことを……。
そして、 今となってはもう遅いことも……。……そうさ。
俺は、死んだんだ……。
ここはどこだろう? 俺にはわからない。
そもそも、自分の名前すら忘れてしまった。
自分が何者なのかさえ、思い出せない。……いや、違うな。
最初からそんなものはなかったのか。
あるのは空白だけだ。
空白を埋めるものは、存在しない。
空白だけがそこにあった。
だから、そこに何かを埋めようと足掻いたところで、無駄なことだと知っている。
ならばなぜ、お前の世界には 俺がいないんだ?……そんなこと知るわけないじゃないか。
だが、もしそうなのだとしたら それはきっと、お前にとって俺は必要のない存在だからなんだろうな。
ああ、そうだよ。だって君は僕を必要としていない。
なら、君がいなくなれば僕は消えるさ。
じゃあ……お前はいなくなりたいのか? いなくなってしまいたいと願っていたのかい? それこそありえないことだね。
お前がいる世界なんて、 俺には見えないんだよ……。
だから俺は、ここにいるんだろう? あぁ、そうだ。
お前の世界が消えたのはいつ頃だろうか?……そう、あれは確か あの日のことだ。
それは、 今となっては遠い昔の話。
お前にとってはつい最近の出来事なのか? いや、違うな……。
お前はまだ思い出していないだけさ。
自分の記憶が消されていることにさえね。
あの頃は毎日のように写真を撮っていたな。
だが……それは確かにそこにいたんだ。……そうさ、お前さんには見えるはずがないよ。
だって、お前さんの見ているものは幻だからね。
あぁ、そうだとも。
ここにいる私が、本物の私とは限らない。
これは、私の夢に過ぎないのかもしれない。
それでもかまわないじゃないか。
たとえこれが幻想だろうと、 君にとっては真実に違いないのだから。
あぁ、そうだとも。
お前さんには見えているはずだよ。
ここにあるのは紛れもない事実なんだ。
あぁ、そうだとも。
私には何も見えない。
だが、君は違うだろう? ここにはあるはずのないものがある。
それはきっと、君の中にあったものだ。
君はそれを、今ようやく取り出したんだよ。
あぁ、そうだとも。
君が望むなら、私はいつでもそれを見せよう。
その目に焼き付けておいてくれ。
私の知らないものを。
その手で触れて確かめてくれたまえ。
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